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7,甘えん坊のエリナリーゼ
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結局私は屋敷に引き籠もる生活に戻ってしまった。
あの場所で人に見られてしまったから、というよりは屋敷から出ていたことがシドにバレてしまい、シドが屋敷に結界を張ったのだ。魔法による出入りはできないものだった。
どうしてわかったんだろう?
何もここまでしなくてもと思うが、私がいけないので大人しくまた引き籠もり生活を始めたのだ。
これを機にいろいろな結界を教えてもらい、私は自分の部屋にも防御結界を張ることにした。
シドに教えてもらい魔力が少しずつ減る付加効果を付けてみたので、誰も長時間この部屋に居続けることはできない。
ここ最近は部屋にいる間もメイドがずっと居るようになり、監視されているみたいで嫌なのだ。
付加効果を付けたため非常に魔力を使うが、してやったりな魔法を覚えることができた、と思っていたら、メイド達は交代での部屋にくるようになった…。
常に部屋に誰かがいるので、ピアノの練習をする際は遮音結界を張るようになった。
………まぁ護衛やメイド達のことは気にしてもしょうがない。そろそろお父様も遠征から帰ってくる頃だし、お兄様達も夏のお休みで帰ってくるはず。
そのことを考えると頬が緩む。賑やかになるわね。
早く会いたいな。
◆
数日後、お父様率いる騎士団が王都へ帰って来て、約3ヶ月ぶりに私はお父様に会うことができた。
久しぶりに見たお父様は少し日に焼けて精悍さに磨きがかかっていた。恰好いい。凛々しく美しい姿の下に隠れた筋肉を早く触りたい。
「お父様おかえりなさい!会いたかったです!!」
と思い切り抱きつく。
「エリィ!元気にしてたかい?会えなくて寂しかったよ」
と私を抱き締めてくれる。
温かく、絶対的な安心感がある。
私は張り付き虫のようにぴったりと張り付いていた。
「お父様、大好きです」
と言えば、
「私も愛してるよ。かわいいエリィ」
と蕩けるような微笑みで返してくれる。
私はもうそれだけで充分だった。
この人を悲しませる事は絶対しない、と心に誓う。
久しぶりに一緒に晩餐をしたお父様は、とても上機嫌だった。
夜、なかなか眠れずにお父様の部屋へ向かった。部屋の前には護衛騎士が控えていて、私を見ると少し優しい目になる。
「一緒に寝たいの。入ってもいいでしょ?」
と言うとその強面の騎士は顔を綻ばせて、笑顔を見せた。
これが侍女長だったら絶対ダメって言うんだろうけど、護衛騎士たちは優しい。
扉をノックをしてみると返事がなかった。本当はダメだけど中へ入る。お父様は既に眠っているようだった。疲れていたのね。
私は徐に布団へ入り込み、逞しい腕に抱きつくといつの間にか眠ってしまっていた。
朝目が覚めると優しい顔をしたお父様が目の前にいて微笑んでいる。
「エリィおはよう」
その顔に見惚れながら私も満面の笑みで挨拶を返す。
「お父様、おはようございます」
暫く寝起きのお父様を堪能していたが、ノックの音に邪魔をされてしまう。
「旦那様、お食事の用意が整いました。お嬢様もアンナが待っていますので、こちらへどうぞ」
時計を見ると確かにのんびりできる時間ではなかったので、渋々お父様から離れる。
私はいつも朝食は食べない。お腹も空いていないし、水分さえ摂れば十分なのだ。ちなみに牛乳は必ず飲んでいる。
前世では小さかった私は長身スレンダー体型に憧れていた。この世界では、是非とも大きくなってスレンダー美女を目指したい。
身支度を整えて、庭へ向かう。
シドの授業はシドが来れない時と日曜日を除き、毎日ある。シドが来るまでまだ少し時間があるため軽くストレッチをしてから土魔法の練習をしていると眠そうなシドが姿を現した。
「シド、おはよう!」
「おはようございます、お嬢。今日も元気ですね」
挨拶を交わし授業が始まる。授業といっても最近は私の練習を見てアドバイスをくれるだけなのだけど。
それでも魔法の授業は楽しいし、魔法でいろいろできると楽しくなる。土魔法で公爵家の守りをより強固なものにすることが目標だ。
「エリィ、もうそんなとこもできるようになったんだね!」
夢中になっていて気が付かなかったが、お父様が見ていたようだった。
「お父様!」
と駆け寄ると頭を撫でてくれる。余程嬉しそうな顔をしていたのだろう。
「団長も団長ですけど、お嬢のファザコンもヤバいですね」
とシドが呟くのが聞こえたがスルーだ。
ファザコンで何が悪い。お父様以上の男性なんているわけないじゃない。
ふとお父様が真剣な表情で正面から見ているのに気がついた。
何かと思っていると、
「エリィ、もしかして冷気を纏っているの?」
と聞かれた。
そう、私は遂に氷魔法のコントロールをマスターして日時的に冷気を纏うという技を習得したのだ。
「はい。暑いのは苦手なので。」
「いや、そういうことではないのだが。もしかして氷魔法を使えるようになったの?」
少し戸惑い気味にお父様が問いかけてくる。
「はいっ!お父様も冷気を纏ってみますか?」
「そんなこともできるの?」
「でも誰かにやったことがないので、失敗したらごめんなさい」
そう言いながら、慎重にお父様に冷気を纏わせる。
「このくらいでどうですか?」
「…っ!凄い!これは凄い魔法だぞ!!なんと快適な…!!」
お父様は、驚愕の表情を浮かべながらもテンションが上がって嬉しそうだ。
「ふふっ。良かった。とっても練習したのですよ!」
「お嬢、氷魔法ももう完全に習得しましたね。全て完璧です。素晴らしい!」
「シドのおかげよ。ありがとう!」
初めて見る表情を浮かべたお父様を置き去りにして、私は魔法の練習を再開した。
それからお父様はじっと練習風景を見つめていた。
授業が終わると、シドはお父様に呼ばれて屋敷へ入っていった。
私はその場に残り自主練習だ。
さっきはお父様に見られていたので少し緊張してしまったが、一人だと集中して魔法と向き合える。
12時前には魔力量がいい感じに減ってきたので、魔法の時間はこれで終わりだ。
午前中はほぼ魔法の時間に充てているが、今日はこれからピアノのレッスンである。
ピアノは得意なので、教えてくれている先生も満足気である。
滞りなくレッスンを終え、自作の歌の弾き語りをしているとふと気配を感じた。後ろを振り返ると、にこやかに微笑んだお父様がソファーに座っていた。
絵になるような美しさだ。格好良い。好き。
…ってそうじゃなくて!なぜ気配を消してきたのだろう。
もしかして私を試している?
「お父様!気配を消して来ないで下さいませ!びっくりするではありませんか。」
「ん?ごめんね、エリィ。邪魔しては悪いかと思って。曲が終わったら声を掛けるつもりだったんだよ。」
ごめんと言いながらも、顔は微笑みを崩さない。
私を見る目はどこまでも優しい。
「いつからいたのですか?」
「ついさっきだよ。ところで、今少し歌っていたよね?聞いたことがない曲だけど、何という曲なの?」
「いえ、曲名はないのです」
「曲名がない?」
「私が作ったのです」
「…そうか。さっきは途中からしか聞いてなかったんだが、最初から弾いてみてくれるかい?できれば歌も聞きたいな」
聞かれていたのは恥ずかしいけれど、この曲は私がお母様を思って作った曲。お父様とも共有したい。
そう思い、再び弾き語りを始めた。
弾き終わりお父様を見ると、涙を流していた。
え、なんで?
「お父様、どうされたのですか?」
「…いや、とても素晴しい演奏と歌声だったよ。エリィはこの曲は本当に自分で作ったのかい?」
「…はい。時間がかかりましたけど。」
正確に言うと前世の曲だけど、歌詞はほとんど自分で考えたようなものだ。
「エリィは頑張っているんだね。おいで」
両手を広げたお父様が慈しむような目で私を見ている。私は迷いもなくお父様の膝の上に座り抱きついて、その胸板に頬を擦り寄せた。
お父様の筋肉今日も最高だわ。
少し驚いた様子だったが、私の頭を撫でてしっかりと受け入れてくれる。
その日も私はお父様と一緒に眠ったのだった。
あの場所で人に見られてしまったから、というよりは屋敷から出ていたことがシドにバレてしまい、シドが屋敷に結界を張ったのだ。魔法による出入りはできないものだった。
どうしてわかったんだろう?
何もここまでしなくてもと思うが、私がいけないので大人しくまた引き籠もり生活を始めたのだ。
これを機にいろいろな結界を教えてもらい、私は自分の部屋にも防御結界を張ることにした。
シドに教えてもらい魔力が少しずつ減る付加効果を付けてみたので、誰も長時間この部屋に居続けることはできない。
ここ最近は部屋にいる間もメイドがずっと居るようになり、監視されているみたいで嫌なのだ。
付加効果を付けたため非常に魔力を使うが、してやったりな魔法を覚えることができた、と思っていたら、メイド達は交代での部屋にくるようになった…。
常に部屋に誰かがいるので、ピアノの練習をする際は遮音結界を張るようになった。
………まぁ護衛やメイド達のことは気にしてもしょうがない。そろそろお父様も遠征から帰ってくる頃だし、お兄様達も夏のお休みで帰ってくるはず。
そのことを考えると頬が緩む。賑やかになるわね。
早く会いたいな。
◆
数日後、お父様率いる騎士団が王都へ帰って来て、約3ヶ月ぶりに私はお父様に会うことができた。
久しぶりに見たお父様は少し日に焼けて精悍さに磨きがかかっていた。恰好いい。凛々しく美しい姿の下に隠れた筋肉を早く触りたい。
「お父様おかえりなさい!会いたかったです!!」
と思い切り抱きつく。
「エリィ!元気にしてたかい?会えなくて寂しかったよ」
と私を抱き締めてくれる。
温かく、絶対的な安心感がある。
私は張り付き虫のようにぴったりと張り付いていた。
「お父様、大好きです」
と言えば、
「私も愛してるよ。かわいいエリィ」
と蕩けるような微笑みで返してくれる。
私はもうそれだけで充分だった。
この人を悲しませる事は絶対しない、と心に誓う。
久しぶりに一緒に晩餐をしたお父様は、とても上機嫌だった。
夜、なかなか眠れずにお父様の部屋へ向かった。部屋の前には護衛騎士が控えていて、私を見ると少し優しい目になる。
「一緒に寝たいの。入ってもいいでしょ?」
と言うとその強面の騎士は顔を綻ばせて、笑顔を見せた。
これが侍女長だったら絶対ダメって言うんだろうけど、護衛騎士たちは優しい。
扉をノックをしてみると返事がなかった。本当はダメだけど中へ入る。お父様は既に眠っているようだった。疲れていたのね。
私は徐に布団へ入り込み、逞しい腕に抱きつくといつの間にか眠ってしまっていた。
朝目が覚めると優しい顔をしたお父様が目の前にいて微笑んでいる。
「エリィおはよう」
その顔に見惚れながら私も満面の笑みで挨拶を返す。
「お父様、おはようございます」
暫く寝起きのお父様を堪能していたが、ノックの音に邪魔をされてしまう。
「旦那様、お食事の用意が整いました。お嬢様もアンナが待っていますので、こちらへどうぞ」
時計を見ると確かにのんびりできる時間ではなかったので、渋々お父様から離れる。
私はいつも朝食は食べない。お腹も空いていないし、水分さえ摂れば十分なのだ。ちなみに牛乳は必ず飲んでいる。
前世では小さかった私は長身スレンダー体型に憧れていた。この世界では、是非とも大きくなってスレンダー美女を目指したい。
身支度を整えて、庭へ向かう。
シドの授業はシドが来れない時と日曜日を除き、毎日ある。シドが来るまでまだ少し時間があるため軽くストレッチをしてから土魔法の練習をしていると眠そうなシドが姿を現した。
「シド、おはよう!」
「おはようございます、お嬢。今日も元気ですね」
挨拶を交わし授業が始まる。授業といっても最近は私の練習を見てアドバイスをくれるだけなのだけど。
それでも魔法の授業は楽しいし、魔法でいろいろできると楽しくなる。土魔法で公爵家の守りをより強固なものにすることが目標だ。
「エリィ、もうそんなとこもできるようになったんだね!」
夢中になっていて気が付かなかったが、お父様が見ていたようだった。
「お父様!」
と駆け寄ると頭を撫でてくれる。余程嬉しそうな顔をしていたのだろう。
「団長も団長ですけど、お嬢のファザコンもヤバいですね」
とシドが呟くのが聞こえたがスルーだ。
ファザコンで何が悪い。お父様以上の男性なんているわけないじゃない。
ふとお父様が真剣な表情で正面から見ているのに気がついた。
何かと思っていると、
「エリィ、もしかして冷気を纏っているの?」
と聞かれた。
そう、私は遂に氷魔法のコントロールをマスターして日時的に冷気を纏うという技を習得したのだ。
「はい。暑いのは苦手なので。」
「いや、そういうことではないのだが。もしかして氷魔法を使えるようになったの?」
少し戸惑い気味にお父様が問いかけてくる。
「はいっ!お父様も冷気を纏ってみますか?」
「そんなこともできるの?」
「でも誰かにやったことがないので、失敗したらごめんなさい」
そう言いながら、慎重にお父様に冷気を纏わせる。
「このくらいでどうですか?」
「…っ!凄い!これは凄い魔法だぞ!!なんと快適な…!!」
お父様は、驚愕の表情を浮かべながらもテンションが上がって嬉しそうだ。
「ふふっ。良かった。とっても練習したのですよ!」
「お嬢、氷魔法ももう完全に習得しましたね。全て完璧です。素晴らしい!」
「シドのおかげよ。ありがとう!」
初めて見る表情を浮かべたお父様を置き去りにして、私は魔法の練習を再開した。
それからお父様はじっと練習風景を見つめていた。
授業が終わると、シドはお父様に呼ばれて屋敷へ入っていった。
私はその場に残り自主練習だ。
さっきはお父様に見られていたので少し緊張してしまったが、一人だと集中して魔法と向き合える。
12時前には魔力量がいい感じに減ってきたので、魔法の時間はこれで終わりだ。
午前中はほぼ魔法の時間に充てているが、今日はこれからピアノのレッスンである。
ピアノは得意なので、教えてくれている先生も満足気である。
滞りなくレッスンを終え、自作の歌の弾き語りをしているとふと気配を感じた。後ろを振り返ると、にこやかに微笑んだお父様がソファーに座っていた。
絵になるような美しさだ。格好良い。好き。
…ってそうじゃなくて!なぜ気配を消してきたのだろう。
もしかして私を試している?
「お父様!気配を消して来ないで下さいませ!びっくりするではありませんか。」
「ん?ごめんね、エリィ。邪魔しては悪いかと思って。曲が終わったら声を掛けるつもりだったんだよ。」
ごめんと言いながらも、顔は微笑みを崩さない。
私を見る目はどこまでも優しい。
「いつからいたのですか?」
「ついさっきだよ。ところで、今少し歌っていたよね?聞いたことがない曲だけど、何という曲なの?」
「いえ、曲名はないのです」
「曲名がない?」
「私が作ったのです」
「…そうか。さっきは途中からしか聞いてなかったんだが、最初から弾いてみてくれるかい?できれば歌も聞きたいな」
聞かれていたのは恥ずかしいけれど、この曲は私がお母様を思って作った曲。お父様とも共有したい。
そう思い、再び弾き語りを始めた。
弾き終わりお父様を見ると、涙を流していた。
え、なんで?
「お父様、どうされたのですか?」
「…いや、とても素晴しい演奏と歌声だったよ。エリィはこの曲は本当に自分で作ったのかい?」
「…はい。時間がかかりましたけど。」
正確に言うと前世の曲だけど、歌詞はほとんど自分で考えたようなものだ。
「エリィは頑張っているんだね。おいで」
両手を広げたお父様が慈しむような目で私を見ている。私は迷いもなくお父様の膝の上に座り抱きついて、その胸板に頬を擦り寄せた。
お父様の筋肉今日も最高だわ。
少し驚いた様子だったが、私の頭を撫でてしっかりと受け入れてくれる。
その日も私はお父様と一緒に眠ったのだった。
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