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第3章学園入学
看病という名の何か
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「まさかとは思いましたが…」
「何と…。」
「ただ者では無いと思っていたが…。家令以外に入れる方がいるとは…」
「流石ライザ様。」
部屋の外に群がっている使用人達からどよめきと感嘆の声がチラホラ聞こえて来いるが、私は今ルイスの部屋に爺やと入っただけである。まるで私が奇跡でも起こしましたと言わんばかりだ。
取り敢えず煩いので、扉を閉めておいた。
熱を計ってみた結果、ルイスは40度の高熱だった。この域になると流石にお医者様に見て貰いたいが、お抱えの医師すらも結界の張られたこの部屋に入ってこれないから、困ったものだ。
とにかく、ルイスの意思で結界を解いて貰わない事には始まらないのだけれど…少し揺り動かして見ても目を開けない。
普段人から起こされる事はなく、自発的に起きた事しかないから、この状態をどうすれば良いかわからないらしい。
主治医が渡して来た熱を下げるお薬を飲ませるのも、手こずりそうだ。
取り敢えず、額から滴る汗を、濡らしたタオルで拭うと、急に当てられた冷たい感触に反応したのか、ようやくルイスの瞼が薄らと開いた。
「…ライザ?」
急に目を覚ましたものだから、少し呆けていたが、目を覚ましたのなら結界が解けているかも知れないと思い至り、人を呼んでこようとしたとき、腕がルイスの手でくんっと引っ張られる。
「ルイス、人を呼んで来るから離して。」
「…。」
「貴方、今高熱があるからお医者様に診てもらわないと。」
「いらない。」
「え?」
「ライザが居なくなるなら、何も要らない。だから此処に居てくれ。」
いや、お医者様はいるよ。本当にこのまま放っといたら死にそうなくらい熱が高い。さっきよりも上がってしまったのではないだろうか?
腕から伝わる熱の高さが、私に伝わって胸が痛い。
病人をあまり刺激しても、良くないので、ルイスの手を振り払わずに椅子に座り直して今の状況説明をする。
「ー……と、そう言う訳だから、このまま放っておくと本当に危ないの。だからこの手を離して?」
黙り込んだまま腕を掴んでいる手を離さないけれど、状況を理解してくれただろうと思うので、もう1度呼びかけてみる。
「…ルイス?」
「……さっき、夢を見ていた。
あの日の夢だ。熱くて、熱くて。身体が重く熱さに身が焼けそうで、そのまま目を覚まさずに身が焼き消える事を望んでいたその時、
わたしは目を開ける事が1番怖かった。」
〝あの日〟と言うのは、きっと悪夢の日の事だろう、熱で身体の体温が上がり炎に包まれていた記憶を蘇らせたのだろう。
今の話から、悪夢の日ライザが見た光景を思い出す。
前アウステル公爵夫妻の死体の下から辛うじて見えたルイスの足。
公爵夫婦は、子供を庇う為に身を挺し守ったのだろうが、ルイスは灼熱の炎が覆う中、両親の死体の下敷きになっていた。
気を失っていた時、〝身体が重かった〟のはそのせいだろう。
高熱で身体が辛く、苦しいだろうに何かを伝えようとしている様子に、ライザは黙って言葉の続きを聞く事にした。
「だけど、急に身体が軽くなった。
不思議に思い、目覚めた先に居たのは、わたしが怖がっていた物ではなくて…。」
熱があるせいか、ルイスの私を見ている目の縁は紅く熱を含み潤んでいる。
「わたしを絶望させただろう光景を
目の前に広がる惨劇を
わたしに見せまいと、力強く〝こっちを見ろ〟と訴えかける優しいルベライトの煌めきがそこにあった。
それは、今まで見たどんなものより美しくて、わたしは目を逸らせなかった。」
「……。」
「毎夜あの日の夢を見た最後には、君が現れわたしを救うんだ。」
「ルイス…。」
彼は今、話すのも辛いだろう。なのに今を逃すまいと、必死に私の腕を掴んで離さず、何かを伝えてこようとする。
「〝愛される資格がない〟なんて、ライザは、何故…い……う…」
無理をして話している事で、熱が上がって来たのだろう、言葉の続きを紡ぐのも既に苦しそうだ。
「……。」
それでもライザの腕を離さないルイスに、ライザは先程医師から手渡された解熱剤を、空いた右手で掴み水と共に、口に含んだ。
横たわっているルイスの顎に右手を添えて、自分の口を押し当てるとすんなり開いた口の中へ流し込む。
「…ッン。」
突然異物を放り込まれて、苦しかったのか眉を顰めて、色っぽい声を出すルイスの口の端から、流し込みきれない水がつたう。
反発して薬を出されないよう、ライザは押し込むように舌をなるべく奥に入れた。
流し込まれた唾液と水を薬と共にゴクリと飲んだ事を確認してから唇を話すと、透明な糸が引いたが、ライザは唇を拭ってそれを断ち切った。
はぁはぁと、肩で息をしているルイスの表情は官能的で、高熱のせいなのかはわからないけれど妙に色っぽい。
「…
ちゃんとルイスが治るまで私は此処にいる。だから、今だけお医者様を呼びに行かせて。」
真っ直ぐに目を逸らさず言うライザを見て、ルイスはようやく腕を掴む手の力を緩めてくれた。
「何と…。」
「ただ者では無いと思っていたが…。家令以外に入れる方がいるとは…」
「流石ライザ様。」
部屋の外に群がっている使用人達からどよめきと感嘆の声がチラホラ聞こえて来いるが、私は今ルイスの部屋に爺やと入っただけである。まるで私が奇跡でも起こしましたと言わんばかりだ。
取り敢えず煩いので、扉を閉めておいた。
熱を計ってみた結果、ルイスは40度の高熱だった。この域になると流石にお医者様に見て貰いたいが、お抱えの医師すらも結界の張られたこの部屋に入ってこれないから、困ったものだ。
とにかく、ルイスの意思で結界を解いて貰わない事には始まらないのだけれど…少し揺り動かして見ても目を開けない。
普段人から起こされる事はなく、自発的に起きた事しかないから、この状態をどうすれば良いかわからないらしい。
主治医が渡して来た熱を下げるお薬を飲ませるのも、手こずりそうだ。
取り敢えず、額から滴る汗を、濡らしたタオルで拭うと、急に当てられた冷たい感触に反応したのか、ようやくルイスの瞼が薄らと開いた。
「…ライザ?」
急に目を覚ましたものだから、少し呆けていたが、目を覚ましたのなら結界が解けているかも知れないと思い至り、人を呼んでこようとしたとき、腕がルイスの手でくんっと引っ張られる。
「ルイス、人を呼んで来るから離して。」
「…。」
「貴方、今高熱があるからお医者様に診てもらわないと。」
「いらない。」
「え?」
「ライザが居なくなるなら、何も要らない。だから此処に居てくれ。」
いや、お医者様はいるよ。本当にこのまま放っといたら死にそうなくらい熱が高い。さっきよりも上がってしまったのではないだろうか?
腕から伝わる熱の高さが、私に伝わって胸が痛い。
病人をあまり刺激しても、良くないので、ルイスの手を振り払わずに椅子に座り直して今の状況説明をする。
「ー……と、そう言う訳だから、このまま放っておくと本当に危ないの。だからこの手を離して?」
黙り込んだまま腕を掴んでいる手を離さないけれど、状況を理解してくれただろうと思うので、もう1度呼びかけてみる。
「…ルイス?」
「……さっき、夢を見ていた。
あの日の夢だ。熱くて、熱くて。身体が重く熱さに身が焼けそうで、そのまま目を覚まさずに身が焼き消える事を望んでいたその時、
わたしは目を開ける事が1番怖かった。」
〝あの日〟と言うのは、きっと悪夢の日の事だろう、熱で身体の体温が上がり炎に包まれていた記憶を蘇らせたのだろう。
今の話から、悪夢の日ライザが見た光景を思い出す。
前アウステル公爵夫妻の死体の下から辛うじて見えたルイスの足。
公爵夫婦は、子供を庇う為に身を挺し守ったのだろうが、ルイスは灼熱の炎が覆う中、両親の死体の下敷きになっていた。
気を失っていた時、〝身体が重かった〟のはそのせいだろう。
高熱で身体が辛く、苦しいだろうに何かを伝えようとしている様子に、ライザは黙って言葉の続きを聞く事にした。
「だけど、急に身体が軽くなった。
不思議に思い、目覚めた先に居たのは、わたしが怖がっていた物ではなくて…。」
熱があるせいか、ルイスの私を見ている目の縁は紅く熱を含み潤んでいる。
「わたしを絶望させただろう光景を
目の前に広がる惨劇を
わたしに見せまいと、力強く〝こっちを見ろ〟と訴えかける優しいルベライトの煌めきがそこにあった。
それは、今まで見たどんなものより美しくて、わたしは目を逸らせなかった。」
「……。」
「毎夜あの日の夢を見た最後には、君が現れわたしを救うんだ。」
「ルイス…。」
彼は今、話すのも辛いだろう。なのに今を逃すまいと、必死に私の腕を掴んで離さず、何かを伝えてこようとする。
「〝愛される資格がない〟なんて、ライザは、何故…い……う…」
無理をして話している事で、熱が上がって来たのだろう、言葉の続きを紡ぐのも既に苦しそうだ。
「……。」
それでもライザの腕を離さないルイスに、ライザは先程医師から手渡された解熱剤を、空いた右手で掴み水と共に、口に含んだ。
横たわっているルイスの顎に右手を添えて、自分の口を押し当てるとすんなり開いた口の中へ流し込む。
「…ッン。」
突然異物を放り込まれて、苦しかったのか眉を顰めて、色っぽい声を出すルイスの口の端から、流し込みきれない水がつたう。
反発して薬を出されないよう、ライザは押し込むように舌をなるべく奥に入れた。
流し込まれた唾液と水を薬と共にゴクリと飲んだ事を確認してから唇を話すと、透明な糸が引いたが、ライザは唇を拭ってそれを断ち切った。
はぁはぁと、肩で息をしているルイスの表情は官能的で、高熱のせいなのかはわからないけれど妙に色っぽい。
「…
ちゃんとルイスが治るまで私は此処にいる。だから、今だけお医者様を呼びに行かせて。」
真っ直ぐに目を逸らさず言うライザを見て、ルイスはようやく腕を掴む手の力を緩めてくれた。
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