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最終章
第54話
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瞼を押し上げて、エリトは飛び起きた。
ばくばくと暴れ狂う心臓と同じく、呼吸も制御できない。きゅうきゅうと喉を鳴らして、エリトは息を吸った。
ガタガタ震える身体を無理やり動かして、エリトはベッドを出る。
(宗主……!)
一歩踏み出ると、ふらりと身体が傾ぐ。その場に膝をついた音で、誰かが部屋に入って来た。
入って来たゼオは、跪くエリトの姿に目を見開く。一方のエリトは、ゼオの顔を見て堰を切ったように泣き出した。
「……っ! ゼオ、さん! ゼオさん! ……ごめん、なさい! おれ……!!」
「どうしたんですか、エリトさん! まだ起き上がっては駄目です!」
「……宗主は……!? どこ……?」
「宗主なら、自室で……」
ゼオの言葉を聞き終わらないまま、エリトは走り出した。足を縺れさせながらクラーリオの寝室へと走る。
廊下にいた使用人が、フラつきながら走るエリトに驚きの目を向ける。手を貸そうとする姿にすら目もくれず、エリトは走った。
クラーリオの部屋の前に辿り着いたエリトは、ノックもせずに扉を押し開ける。
寝台に寝ているクラーリオの姿を見て、エリトは涙を流した。
真っ白な顔をしている彼は、騒がしい来訪者に目を覚ますこともない。
エリトは走り寄ると、寝台の脇に膝を付いた。
「そ、うしゅ……宗主! あぁ、こんなの……あんまりだ!!」
右目の瞼に走る傷痕を、エリトは震える指でなぞる。幾度となく思い出した記憶と相違ない傷は、エリトがずっと焦がれていたものだった。
「ごめんなさい……、そう、しゅ……あぁ、嘘だ……!」
涙を流しても、クラーリオの瞳は開くことが無い。
あの美しい金色の瞳を、もう見ることが叶わないかもしれない。
視界が歪むほどに涙が溢れ、エリトはクラーリオの身体へと縋った。
「……いやだ……嫌だ! あんたが死ぬなら、俺も死んでやる!!」
色んな記憶から貰った感情が、綯い交ぜになってエリトを襲う。クラーリオの胸に顔を擦りつけながら、エリトは叫んだ。
「死んだら許さない! 俺を置いて行ったくせに、死んだら絶対許してやらない!! ……だからお願い……僕の傍にいて……。……なぁ、ってば!! 宗主!!」
駄々をこねる子供のように叫んで、エリトはクラーリオの胸に顔を埋めた。消毒液の匂いが鼻に届き、更にエリトの焦燥感を煽る。
ぐずぐずとエリトが泣いていると、後頭部に優しい感触を感じた。
エリトはその慣れた感触に、飛び起きる。
視線をクラーリオに向けると、その唇が僅かに動いた。
「エリト……。……俺の、名を……呼んで」
「……、っつ、ぁ……!」
その名前は、エリトにとって特別だ。
愛おしくて、何度も思い出した___『答え』だった。
「クリオ。……俺の、僕の、大好きな……クリオ」
「正解。……お帰り、エリト」
微笑むクラーリオの瞳から、澄んだしずくが流れ落ちる。それが枕を濡らすと、クラーリオは自身の手で顔を覆った。
肩を揺らすクラーリオを見て、エリトは顔を歪める。
この人は、どれだけエリトを待っていたのだろう。
エリトを想って、どれだけ心を痛めたのだろう。
(……ああ、何て愛おしい……)
エリトは涙で濡れたクラーリオの指に、そっと口付ける。
するとクラーリオの顔を覆っていた手が解かれ、エリトをぎゅっと抱き寄せた。
待ち望んだ抱擁に、エリトは声を上げて泣く。
奪われたエリト達が、一つになっていくのを感じる。その全てがクラーリオに愛おしいと呟く。
もう離れるまいと、エリトはクラーリオに口付けた。
瞼を押し上げて、エリトは飛び起きた。
ばくばくと暴れ狂う心臓と同じく、呼吸も制御できない。きゅうきゅうと喉を鳴らして、エリトは息を吸った。
ガタガタ震える身体を無理やり動かして、エリトはベッドを出る。
(宗主……!)
一歩踏み出ると、ふらりと身体が傾ぐ。その場に膝をついた音で、誰かが部屋に入って来た。
入って来たゼオは、跪くエリトの姿に目を見開く。一方のエリトは、ゼオの顔を見て堰を切ったように泣き出した。
「……っ! ゼオ、さん! ゼオさん! ……ごめん、なさい! おれ……!!」
「どうしたんですか、エリトさん! まだ起き上がっては駄目です!」
「……宗主は……!? どこ……?」
「宗主なら、自室で……」
ゼオの言葉を聞き終わらないまま、エリトは走り出した。足を縺れさせながらクラーリオの寝室へと走る。
廊下にいた使用人が、フラつきながら走るエリトに驚きの目を向ける。手を貸そうとする姿にすら目もくれず、エリトは走った。
クラーリオの部屋の前に辿り着いたエリトは、ノックもせずに扉を押し開ける。
寝台に寝ているクラーリオの姿を見て、エリトは涙を流した。
真っ白な顔をしている彼は、騒がしい来訪者に目を覚ますこともない。
エリトは走り寄ると、寝台の脇に膝を付いた。
「そ、うしゅ……宗主! あぁ、こんなの……あんまりだ!!」
右目の瞼に走る傷痕を、エリトは震える指でなぞる。幾度となく思い出した記憶と相違ない傷は、エリトがずっと焦がれていたものだった。
「ごめんなさい……、そう、しゅ……あぁ、嘘だ……!」
涙を流しても、クラーリオの瞳は開くことが無い。
あの美しい金色の瞳を、もう見ることが叶わないかもしれない。
視界が歪むほどに涙が溢れ、エリトはクラーリオの身体へと縋った。
「……いやだ……嫌だ! あんたが死ぬなら、俺も死んでやる!!」
色んな記憶から貰った感情が、綯い交ぜになってエリトを襲う。クラーリオの胸に顔を擦りつけながら、エリトは叫んだ。
「死んだら許さない! 俺を置いて行ったくせに、死んだら絶対許してやらない!! ……だからお願い……僕の傍にいて……。……なぁ、ってば!! 宗主!!」
駄々をこねる子供のように叫んで、エリトはクラーリオの胸に顔を埋めた。消毒液の匂いが鼻に届き、更にエリトの焦燥感を煽る。
ぐずぐずとエリトが泣いていると、後頭部に優しい感触を感じた。
エリトはその慣れた感触に、飛び起きる。
視線をクラーリオに向けると、その唇が僅かに動いた。
「エリト……。……俺の、名を……呼んで」
「……、っつ、ぁ……!」
その名前は、エリトにとって特別だ。
愛おしくて、何度も思い出した___『答え』だった。
「クリオ。……俺の、僕の、大好きな……クリオ」
「正解。……お帰り、エリト」
微笑むクラーリオの瞳から、澄んだしずくが流れ落ちる。それが枕を濡らすと、クラーリオは自身の手で顔を覆った。
肩を揺らすクラーリオを見て、エリトは顔を歪める。
この人は、どれだけエリトを待っていたのだろう。
エリトを想って、どれだけ心を痛めたのだろう。
(……ああ、何て愛おしい……)
エリトは涙で濡れたクラーリオの指に、そっと口付ける。
するとクラーリオの顔を覆っていた手が解かれ、エリトをぎゅっと抱き寄せた。
待ち望んだ抱擁に、エリトは声を上げて泣く。
奪われたエリト達が、一つになっていくのを感じる。その全てがクラーリオに愛おしいと呟く。
もう離れるまいと、エリトはクラーリオに口付けた。
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