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ラスティア国
75 兄と妹2
しおりを挟むクロエ夫人と別れたレティシアとロザリーは、広大な敷地のド真ん中に位置するユティス公爵家の『本邸』へと移動をした。
「レティシア様のお部屋です」
ロザリーに立派過ぎる部屋へと案内され…レティシアは、顎が外れるくらいにビックリする。
(ちょーっと待って、予想以上。ここを私一人で使うの?…広い部屋って諸々全てが巨大…)
ベッドは、この世界で見たどのベッドよりも大きく…天蓋つき。天蓋の布地まで輝いているではないか。
(…異国の姫君のベッド?…)
楕円形の大鏡は、細やかな装飾と宝石が豪華。姿を映しても…最早宝石にしか目がいかない。
(…アレよね、白雪姫の継母が使ってた魔法の鏡?)
浴室もついていて、常に適温のお湯がタップリと張られている。プールのように泳げるほど広くはないことに、思わずホッとしてしまうレベル。
(…一体どこの温泉施設かな?)
クローゼットは、衣類がかけられていなかったら…クローゼットだとは気付かないだろう。
(…もう普通に一部屋。うん。この中で住めるわ)
ルブラン王国のホテルでアシュリーが用意してくれていた衣類や、デート体験中に買って貰った品々はちゃんと収納済みである。
ロザリーの説明つきで、レティシアは部屋の設備等々を一通りサラッと確かめた。
「お世話係の私は、お隣の小部屋か…他の侍女たちと一緒にお向かいの待機室におります。邸内を移動なさる際には、必ず一声お声がけくださいませ。
護衛は、兄ルークが担当をいたします。……あの、レティシア様?」
室内を眺めたまま動かないレティシアに、ロザリーは不安気に声をかける。
「…あ、ご…ごめんなさい。何だか驚いちゃって…」
「レティシア様、こちらが魔法石です」
ロザリーは、虹色に光る石のついたペンダントをレティシアに差し出す。
「公爵閣下の…夫人への熱い想いを感じる…お部屋ね」
ペンダントを受け取ったレティシアは、そう言うのがやっとだった。
この部屋の広さと煌びやかな調度品の数々、大きな魔法石は…クロエ夫人への愛の深さを表しているのだ。
「はい、ご婚約当時のままだそうです。あ、ベッドは同じ物ですが…新品です」
「こんな大きなベッドで一人で寝たら、寂しくなりそう。今さら小さくはできないし…稼いだら犬でも飼おうかな」
『ね?』と…ロザリーを見ると、パチパチと瞬きをして不思議そうな顔をしている。
(…キョトン顔のロザリーも可愛い…)
「え…と、お二人で…お休みになるために、大きいのではないでしょうか…?」
「夫婦ならそうかもね。私は独身だか…ら…え?待って、ご夫妻は…婚約時代もお二人で?!」
「はい、共寝なさっておられたと…古参の侍女からは聞いております」
「あら。初夜=純潔、って…もう古かったの?」
(まぁ、今時そんなの流行らないか)
「いえ、純潔を重んじる国はかなり多いと思います。
アルティア王国王族のお血筋の方の初夜は“刻印の儀”と呼ばれていて、少し特別なのです」
「分かりやすい。奥様が旦那様に刻印されちゃうわけね」
「…はい。刻印は王族特有のものです。…でも…」
ロザリーの話によると…
王族は、女性と契ることで“刻印”を身体に残す。
それが伴侶の印になることから、結婚前に女性と共寝をするのは『唾をつける』という行為になるらしい。
(大奥っぽいの出た。お手つき…というやつか?)
「刻印は身体にお揃いの紋様が現れるのですが、時に…現れない場合も。それで、神の定めた条件があるのだと言われております」
(婚約中に、身体の相性を確認するのは理に適ってる)
「正式には初夜に執り行う儀式ですので、当然…刻印を与えた王族はお相手を大切になさいます。
一度の共寝ですと数ヶ月ほどで刻印は消えますが、消えずに残ると…それが寵愛を受けた証になります」
「つまり…共寝した回数分、延長されるのね」
(そんな“刻印”を考えたのは、どこのエロ神なのかな?)
刻印により相手を定め、正しく愛し合うことに何ら問題はないらしく…『魔法や避妊薬もあります』と…頬を染めたロザリーが一生懸命に説明してくれる。
刻印は一人にしか与えることができない。つまり、刻印を受けた女性は『正妻』という座を貰ったも同然。
婚前交渉オッケーとはいえ、どうやら誰彼構わずのお手つきはご法度のようだ。
「ごめんねロザリー、余計な話をさせちゃったわ」
「大丈夫です!私、奥様の側仕え見習いの時に“閨事と寝室のマナー”については一通り勉強をいたしましたので」
「…マナー?それって…どんな?」
「え…と、旦那様と奥様は毎日ご一緒にお休みですので、朝は…身支度の係でも天蓋を開けずにお待ちするとか…」
(あれ?天蓋って、裸体を隠す役割だったの?)
「侍女というお仕事は大変そうね。まぁ…私の場合は、朝の天蓋を気にする必要はないんじゃない?」
「………えっ!」
「えっ!…って…ロザリー?」
「レティシア様は…大公殿下と…お二人…?」
「…お休みいたしませんけどっ…?!」
(そんな間違った情報をどこから得たの?
お休みしたとしても、イタしません。裸体を晒す事態には発展しませんよ!)
「あっ、申し訳ありません…公認の恋人同士でも共寝は秘密になさいますよね、はい。暗黙の了解です、ご安心ください」
(公認の恋人ってのは…何かな?)
「………ロザリー…不安しかないわ…」
「えぇっ……?」
────────── next 76 居候レティシア
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