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第三章
083「食事会②」
しおりを挟む「な、なんじゃ、こりゃぁぁ~!?」
「すごい⋯⋯な」
駅前で白いリムジンに迎えられた俺たちは、しばらくすると胡桃沢の家の正門までやってきた。
ちなみに、俺と唐沢が何に驚いたかというと正門を見ると、その胡桃沢家の敷地と思われる塀があるのだが、その端が視認できなかった。いや、実際視認はできるのだが、堀の端が少し霞むくらいには胡桃沢家の敷地がかなり広大であることがわかる。
しかも驚くなかれ。ここはあくまで『敷地の入口』である。つまり、そこがゴールではなく、むしろ胡桃沢家の敷地のスタートということである。
正門の扉が自動で開かれると、俺たちを乗せたリムジンが再び走り出す。そして、正門から走り始めて2~3分後にやっと屋敷が見えてきた。
「お、おい⋯⋯? ここって京都だっけ?」
「いや違うな。東京都内だし、胡桃沢の家だ」
目の前には、歴史を感じる趣と現代建築の洗練さが見事に融合した現代和風な屋敷が広がっていた。
運転手にドアを開けられると、屋敷の入り口にこの屋敷の執事であろう初老の男性が立っており、その後ろには十数人ほどのメイドらしき女性らが立ち並んでいた。
俺と唐沢が車から降り、屋敷のほうへと足を運ぶタイミングを見計らってか執事が挨拶をした。
「ようこそ、新屋敷ソラ様、唐沢利樹様。お待ちしておりました。わたくし、胡桃沢家筆頭執事の『榊』と申します」
「「っ!!」」
その『榊』という筆頭執事が挨拶をしてお辞儀をすると、少しタイミングを遅らせて後ろにいたメイドたちが一寸の狂いもなく、皆が同時に俺たちにお辞儀をした。あまりにも洗練された所作に俺と唐沢は、
「「こ、こちらこそ、お招きいただきありがとうございますっ!!」」
などと、別に目の前の執事さんに呼ばれたわけでもないのにそんな言葉を返してしまった。すると、
「ほっほっほ。わたくしがお招きしたのではないのですが⋯⋯お言葉ありがとうございます」
と、気さくな感じで挨拶を返してくれた。
「新屋敷様、唐沢様。こういった場所はあまりご経験がないかと思いますが、特に意識したり気にしないで構いませんからどうぞ気楽に。当家主人である勝己様や星蘭お嬢様からもそのようにもてなすよう言われておりますから。さあ、どうぞ。皆がお待ちかねでございます」
そう言って、榊さん直々に案内してくれた。
********************
「遅い!」
俺たちを見るや否や、開口一番そんな文句を放ったのはもちろん胡桃沢。
「いや、時間通りじゃねーかよ!」
と、唐沢がこっちの正当性を主張するも、
「フン! 人ん家にお呼ばれするときは最低でも五分前行動を厳守しなさいよね!」
「ぐ! ぐぬぬ⋯⋯」
胡桃沢のある意味正論な言葉に、悔しくも何も言い返せない唐沢。
俺はこうなることになるだろうと予測していたので、唐沢への援護射撃をすることはなかった。
「まーまー、そんな怒るほどのことでもないでしょ⋯⋯星蘭ちゃん?」
「で、でもぉ~⋯⋯おじさま~」
と、父さんが唐沢をフォローすると、胡桃沢は納得いかないしぐさを見せる。しかし、よく見ると言葉ほど怒っているようには感じない。むしろ、『はしゃいでいる』感じだ。まー、その理由はおそらく、
「やぁ、初めましてだな! 君が健二の息子のソラ君かっ!!」
この元気ハツラツのような挨拶をしてきた男、胡桃沢の父親である『胡桃沢勝己』がここにいることに他ならないだろう。普段は胡桃沢も滅多に会えないと言っていたから久しぶりに会えて嬉しいんだろうということがわかる。
「初めまして。新屋敷ソラです」
一通りの挨拶を済ませた後、テーブルにお茶とお菓子が並ぶとしばし他愛のない歓談をする。ちなみに、自己紹介のとき、唐沢の憧れである胡桃沢の親父さんを目の前にしてあまりに緊張したのか、噛みまくったり吃ったりと散々で、俺たちはそんな唐沢の普段見たことのない緊張っぷりに大爆笑する。
唐沢の緊張MAXの自己紹介の後はしばらく歓談となったが、それなりの『頃合い』になると絶妙なタイミングでスッと胡桃沢の親父⋯⋯勝己さんがこれまでのリラックスした場にピリッと緊張感を持たせるような声色でこの日の『主題』となる言葉を投げかけた。
「さて、それじゃあそろそろ『彼』を呼ぶとしようか。⋯⋯榊」
「⋯⋯御意」
そう言って、筆頭執事の榊さんが一旦その場から離れる。そして、しばらくすると『一人の人物』を連れて戻ってきた。そして、
「⋯⋯紹介しよう。こちらの御仁は『賢者』だ」
勝己さんに紹介された『賢者』は部屋に入るや否や、突然俺の目の前にやってきた。そんな賢者の行動に、俺はもちろんその場の誰もが唖然としていると、賢者が俺の耳元に顔を近づけボソッと呟いた。
「ようこそ⋯⋯⋯⋯⋯⋯『並行世界線の地球』へ」
「っ!!!!」
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