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1.5.閑話休題

閑話3 王女の日常光景/シャーリィという少女

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――シャーリィ・フォン・ネーデルラント。
 現ネーデル王国国王の一人娘であり、この世界に現存する数少ない魔法使い――今風に言うなら、転生使いの一人。
 白銀の髪を持ち、宝石の様な新緑色の瞳をしていて、上品な言葉遣いをするその声はまるで鈴を転がすような心地良さ。そして、まだ幼いのに国を治めるに十分な器を持っている……とかなんとか。

 そんな人物だから高嶺の花だろう……と思わせて、国王の娘という身分を振りかざす事なく、時には国民とも親しい関係を築き上げている……のは有名な話だ。
 そんな絵に描いたような理想の人物像が、そのまま現実に現れたかのような存在。それが彼女、シャーリィなのである――!

「え"あ"あ"あ"あ"ぁ"ぁ"……ぐぬぅううううッッッ……!」

 ……まあ、その、なんだ。
 綺麗な鈴の音色のような声というのは否定しないが、鳴らし方によっては鈴でも雑音みたいに喧しく聞こえるもんである。

「……なんつー声発してるんだ」
『墓の土から這い上がってきたような声だったな』
「なぁァァアアアアアああんで王女を辞めても仕事はあるのよおおぉぉぉぉ……」
「かわいそ」
「クッ、他人事のように……!」

 八重歯を剥き出しにしてグルグル唸っている少女の姿は、誰がどう見てもたくましい女の子。野生生まれ野生育ちのソレだ。
 シャーリィのことを虫すら殺さない少女だと思っている人に見せてやりたいもんである。この人虫どころかお邪魔虫異世界の怪物すら叩き潰すぞ。どっちも素手で。

 今居る場所はなんとネーデル王国城。しかもシャーリィの部屋である。
 そこに来たのは理由があって……まあ、要件があったのはシャーリィだけで、俺たちは付き添いのような形なのだが。

「…………」
「……シャーリィさんや」
「……あー、ああー。あぁ……ああ……」
「シャーリィ?」
「あー、あああー……あ”ーっ! あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!?」
「シャーリィどうした!? 座れ落ち着け深呼吸!」
『あ、あわわわわ……しゃ、シャーリィの気が触れた!?』
「ッ……しゃあオラァっ!」

 突然立ち上がった怪物シャーリィを落ち着けようとするが叶わず、そのまま書類を何枚か鷲掴みにしたまま窓を開けて、そのまま力任せに――一瞬、転生の燐光が見えた――ぶん投げた。
 バササッ! と空中に叩き放り出された紙々は、ヒラヒラと下に落ちていく。ここって何階だっけ?

「はーっ、はーっ……き、気が狂うのを抑えられなかった……」
「もう俺、シャーリィをどんな目で見れば良いのかわかんないよ」
「ッ、でも最低限やらなきゃいけない部分はしてやった! 後は正直誰がやっても良いような仕事だけ! 私の仕事は終わり! 以上!」

 パン! と手を叩いて異常なテンションのシャーリィが仕事を締める。そのまま吹き込み口を手放した風船みたいに、シャーリィはベッド目掛けてびゅーん、と飛び込んでしまった。

「あ~~こんな仕事ばっかやってたら、また私の腕が腫れちゃうわよ」
「でもこの前検診した腕の腫れの原因、異世界で流転した怪物の首を強引に切り落としたのが原因じゃなかったか?」
『まあ、その怪我も二日ぐらいで治ってたし、別にまた腱鞘炎になっても良いんじゃないか? むしろこういう仕事で腱鞘炎になる方がよっぽど健全というか』
「よくない! ぜんっぜん良くない! 私がしたいのはこんなことじゃない!」

 うがー! と吠えながらベッドを転がるシャーリィの姿は年頃の子って感じがする。
 王女として、転生使いとして責務を感じ、いち早く大人に成ろうとした女の子。そんな彼女が子どもみたいに振る舞えるのは良いことなんだろうけど……今こんな形ではご勘弁を願いたかったなぁ。

「んじゃ、どうするのさ。今日は謁見……だったか、誰かと会うんだろ?」
「近々ある一件でやってきた遠方の貴族とね。一応ユウマにも言っとくけど、遠方に配属されるような貴族はあまり良い性格してないから気をつけなさい」
『政治のやり方で聞いたことあるな。政治での危険因子は遠方に配属して、定期的に招集することで移動費にお金を使わせて弱らせる……とか。その貴族は王国に注意視される程に良くない人なのか?』
「先代がそうだったみたい。今はそうでもないし、そもそも貴族自体にそこまで力が無いから問題はないけど、私利私欲って言えば良いのかな。一度面と向かって会ったことあるけど、今日来ているのは貴族の中でも特に欲に正直な男よ」

 ……まあ、それはシャーリィとは真反対な感じでそりが合わないだろうなぁ。あと俺も、強欲すぎるのはちょっとどうかと思うので、その人は苦手な部類かもしれない。

「……よしっ、これからお父様にコレを……何枚か捨てちゃったけど、渡しに行ってくる」
「そうか。俺もバルコニーとか中庭とかで時間を潰していようかな」
「どうしてよ?」
「どうしてって……部屋主が居ない部屋に男一人――実際は二人だけどさ、居るのは良くない感じがするからさ」
「そっちは別にどうでも良いけど。私が聞きたいのはどうして城に残るのって方。別にギルドに戻っても良いわよ」
「薄情だなぁ……! 城なんて滅多に来られないから、少しぐらいゆっくりしたいんだよ」

 紙束を小脇に挟んで部屋を出て行くシャーリィに小走りで続いて、俺もシャーリィの部屋を出る。
 廊下は過ごしやすい温度の空気で満たされている。以前忍び込んだ時の様な張り詰めた感覚は無いから、会話も歩き方も無意識に緊張感の無いものになってしまう。

『確かに、以前来たのは夜中だったもんな。昼の城内を見るのは新鮮だ』
「ほら、ベルもこう言っているし、俺も大体同意見だ。散歩ぐらいしてても良いだろ?」
「……まあ良いけど。自分の城に知り合いを招くってのに、ちょっと抵抗感があるのよね……あと、さっき話した貴族との謁見があるから、私の用事が終わるのは夕方過ぎになるわよ」
「いいね、夕方に見る城からの景色はきっと綺麗だ」
「はぁ……羨ましいわねぇ、呑気そうで」

 皮肉っぽく、シャーリィは溜め息混ざりに呟いた。そりゃ呑気にもなる。城の人達から客人として扱われている以上、観光気分なので。

「……じゃ、行ってくるわ。この後は貴方に会わず謁見の準備をしてるから、ユウマは私を気にせず観光するなり帰るなりしなさいな」
「ああ、いってらっしゃい」

 ヒラヒラと片手を雑に振りながら、背中越しに別れの挨拶をして去って行くシャーリィを見守りながら、バルコニーへ出る。
 ……いい風だ。城下町よりも高い場所に建っている城だから、何かに遮られたり匂いが混ざることがない、純粋に自然な風の匂いがする。

『風通しが良さそうだし、やっぱり涼しいのか?』
「確かに、長く風に当たってたら寒くなるかも~ってぐらいには涼しいな。でも、ここは本当にいい景色を見下ろせるな。街の赤レンガが綺麗だ」
『赤レンガにも色の種類があるみたいだから、それもあって綺麗だな。夜間の夜空も素敵なんだが、この景色も悪くない』

 城の周りを囲っている大きな城壁――以前、忍び込む時に登ったあの壁だ――の上で警備している騎士兵なんかをぼんやりと眺める。
 ……時間はサラサラと過ぎていく。ほんのりと退屈を感じてきて、そういや、ここの警備の薄さってあれから解決されたのかなー、とか色々考え始める――と、

「……おや、先客がいらしたのデスか」

 背後――バルコニーへの出入り口から聞き慣れない男の声。
 咄嗟にベルの映ったガラスをポケットに入れて、ゆっくりと、何もやましいことがないかの様な態度で振り返る。

「……失礼、どちら様ですか」

 その声主の姿を見て、思わず尋ねる。なんていうか……贅沢な格好、と言えば良いのか、胡散臭い感じと言えば良いのか。
 ……内心、“あ、コイツが話に聞いたアイツだな”なんて失礼な察しを覚えたりしている。

「…………」

 名前を尋ねられた男は、露骨にも不機嫌そうな顔をした。
 まるで知らないのが不敬とでも言いたげか、あるいは名を聞く前に先に名乗れとでも言いたいのか――

「……俺の名前はユウマです。生憎とこの王国に来て間もない者なので。失礼ながら、お名前を教えていただけませんか」
「……フン、なるほどな。私はヴォルフ・ラテラーヌ、この王国の貴族だ。よく覚えておくと良いデスよ。円滑な関係は何よりも大切なことなのデスから」

 ……そう言いながら、握手のつもりで差し出して俺の手に対して、彼は腕を伸ばそうとする素振りすら見せない。
 口ではああ言っているが、雰囲気では随分と俺を警戒……いや、そんな単純な感じじゃないな。目障り? みたいに感じてるように俺からは読み取れた。

「しかし、わかりませんデスね。貴方は貴族ではない。なのにその服は一体……」
「服? 服……ああ、この上着」

 ……そういえばこの服、価値としては中々の高級品だとかシャーリィが言っていたな。盗難に気をつけておけ、なんて注意喚起をされる程に。
 そのことを思い出した時、男の目が値踏みをするような目つきをしていることに気が付いた。欲に正直、ねえ。

「そう! その服! 使い込まれて荒さも感じマスが……それでもなお、美しさを感じるその風格……繊維も見たことがない。美しい緑色鉱を柔軟な糸にして織り込んだような――」
『……まるで食べ物を語るユウマだな』

 なんだと貴様。

「君! ユウマと名乗っていたね。その服は何処の地の物デスか!?」
「えーっと、何処なんだろ……取り敢えずネーデル王国近辺には無いです」

 上着のボタンを弄りながら――少しずつ迫ってきてる気がする男から距離を取る。
 あからさまな欲望だ。俺のこの服を欲しいと思っている様子。一度貸してしまったら二度と返ってこない気がする。

「……待つデスよ。そもそも妙ですね……貴方、貴族ではないのでしょう?」
「まあ、そうです」
「それなら何故! そのような価値のある服を! 貴方の様な身分の者が身につけているのですか!」

 ビシィ! なんて綺麗な効果音が聞こえてきそうな男の指差し。それを真っ向から――ポカンとして――受け止めた。
 ……いや、まあ。なんというか……異世界で目を覚ました時から来てました。なんて返答は通じないんだろうなぁ。返答に困るし、都合の良い返答をベルと作戦会議をする暇も無いので、無言という形で答えるしかない。

「無言……妙デスねぇ。その服、一体何処で、どのような手口で手に入れた物なのデスかねぇ……?」
「…………」
「……さては、万が一の話ですが。その服、何処かから盗み出した物だから買った店の名はおろか、地名すら分からないのではないのデスかねぇ……?」

 男が詰め寄る。
 ……欲だ。男の発言は、俺の身分の不明瞭な部分を疑う発言だ。しかし、実際彼が求めているのはこの上着。価値のある物を難癖つけて奪い取りたいという欲望しか感じられない。

『ど、どうするユウマ……相手はアレでも貴族だ、荒っぽい対応はできないぞ』
「…………」

 ベルの小声を聞きながら後退る。
 ……強引に服を引き剥がそうとしてくるかもしれない。そうなると上着のポケットに入ったベルの身が危ない。上着は自分について知る手がかりの一つだし、彼女を渡す訳にはいかない。
 だが、手荒な真似――転生なんて以ての外だ。そもそも、転生に必要な刃物なんてこの場には無い。城に入る際、客人だろうとボディチェックがあるのだ。カミソリや包丁なんてギルドの部屋に置いてきてしまっている。

「……失礼。聞くに耐えない戯言が聞こえましたので」

 凛、と。風の流れるバルコニーが鈴を転がした様な声で静まり返る。
 ……いや、驚いた。目の前に迫るこの男はもっと驚いていることだろうが、今の声主は――

「シャーリィ様、ここは私めが」
「いいえ。良い機会ですもの。ハッキリと伝えておきますわ」

 一歩後ろに待機している騎士兵を一言で抑えて、王女――シャーリィがカーペットからバルコニーの石の上へ一歩前に出た。

 ……呆気を取られた。あれが、王女か。
 普段着も丁寧で凝った服だなと思っていたが、今彼女が着ているドレスの様なシルクの服に、金銀の装飾。素顔を隠すように頭から被っている薄い布に、その上に乗せたティアラ。
 その上、丁寧な言葉遣いの中で、凜としたハッキリと意思のある声色――

「お、王女様……な、なぜこちらに……てっきり私めは部屋におられるかと……」
「何故も何も、此処は私の城ですが……もしや私が踏み行ってはならない場所があるのですか、ヴォルフ・ラテラーヌ様? まさか貴方様のような方が私の知らない事をご存じで、そのように意見できる程の身分だとは思いませんでしたわ」
「あ、いえっ、あの……その……」
「……まあ良いでしょう。そこの彼は客人であり、私の大切なご友人でもあります。彼のことを私と同等と思い、無礼の無いように」
「は……はい……王女様。申し訳、ございませんでした……」

 強欲だった男も今では一回り小さくなって見える。男は冷や汗をダラダラかきながら深々と礼をする。
 ……折角だし便乗して俺も一緒に礼するかぁ。危ないところを助けられた訳だし。ありがと~ございますよ、シャーリィ王女様~。

「…………」

 ……顔を覆う布で表情は見えないけど、シャーリィから睨まれた気がする。なんか湿度を感じた。オイ、何でだよオイ。こっちは礼してるんだぞ礼を。

「シャーリィ様」
「ええ、分かっているわ。それでは私は失礼しますわ。ヴォルフ・ラテラーヌ様も待合室でお待ちになった方が良いかと思います」
「……そう、ですね……はい。私めもそうしようかと……」

 素早くまた一礼をして、男はそそくさとこの場を去って行った。言われた通り、大人しく待合室にでも戻ったのだろう。
 ……この場に残ったのは、俺と騎士兵が二人。そして普段とは全く違う一面を見せる王女様。

「……またお会いしましょう」
「……ああ」

 ヒールの高い靴で、上品な足取りのままカーペットの廊下を歩いて去って行く王女様の後ろ姿を、俺はぼんやりと見守っていた。
 ……バルコニーに涼しい風が吹く。だが、彼女の纏う凜としたあの空気と比べては、この涼しかった風も温く感じられた。



 ■□■□■



「……はぁ~、見てよベル、息が一瞬白くなった」
『昼も涼しかった上に、今日は快晴の夜だもんな。寒くないかい?』
「上着のお陰でね。それにしても、やっぱり時間が掛かるものなんだな」

 時間は……夕方を少し通り過ぎてしまった頃ぐらいかな。山の向こう側がギリギリ茜色を帯びている程度。
 今俺たちが待ちぼうけている城の中庭には、相変わらず警備が一人も居ない。やっぱり人手不足なんだろうな……水遊びでもできそうな大きさの噴水が一人寂しく水音を奏でていた。

「……ちょっと、何よ。貴方たち本当に待っていたって訳?」
「ん、なんだ。そういうシャーリィも迎えがないか確認してくれてるじゃないか」

 上の方――バルコニーから聞き親しんだ声が聞こえて答える。
 シャーリィは昼の時と同じ、王女としての格好のままだ。いや、訂正すると顔を覆っている布は捲り上げてティアラに引っ掛けていた。

「迎えじゃなくて、この時間にも呑気に散歩してるんじゃないかって心配だっただけよ」

 ヒールの長い靴を雑に脱いで、ソックスまでも脱いで裸足になったシャーリィは、バルコニーの手すりに腰を下ろして、素足を宙ぶらりんにしていた。
 ……いつもモノクロな服装をしている彼女が、淡くも色の付いた豪華な服を身に纏っているのは、新鮮と言うべきか、違和感があると感じるのが正しいのか……

「……昼間はありがとうな。あのヴォル…なんだっけ。あの男に絡まれた時は困ってた」
『本当だよ。危うく私の存在までバレるところだったからな』
「お父様にあの男は今どこに居るのって聞いたら、ちょうどユウマ達と近い場所に居るって聞いたからすっ飛んで行ったって訳……まあ、その前に着替えさせられて面倒くさかったけど。でもアイツ、私を見て心底ビビってたみたいだしこの服着てて正解だったみたいね」
「あ、おいシャーリィ! ……よう素足で跳び降りようと思うわ」

 靴をバルコニーに置きっ放しのまま、シャーリィは手すりから跳び降りて、俺のすぐ近くに軽々と着地してみせる。

「ねえユウマ、背中のここの辺にボタンが三つ並んでるんだけど、それ外してくれない?」
『なっ!? ゆ、ユウマに服を脱がせる気かシャーリィ!?』
「窮屈なのよね、この服……ああ、中にも薄着を着てるから。ってか裸だったらユウマに脱がせてないわよ」
「……とにかく、この背中に三つ縦に並んだボタンで良いんだな?」
「そうそう、お願い」

 言われた通り、プチプチプチ、とボタンを外す。そのままシャーリィは慣れた手付きで腰のボタンを外して、脱皮するみたいにドレスを脱ぎ捨てた。
 ……ドレスは窮屈で暑苦しかったのか、ほんの少し汗の臭いがする。日中こんなモノを身に纏って礼儀作法に注意し続けるなんて、王族はよくもまあこんな責め苦を受けていられるなぁ……

「ありがと、ユウマ。ほんっと苦しいのよドレスって。特にコルセットが苦しくてさぁ、息が胸一杯に吸えないのよ、圧迫されてて」
『そんな服、長く着てて大丈夫だったのか?』
「だから一目の無いところ――待合室なんかで外して、休憩していたりするんだけどね……ベルみたいなブカブカの服が羨ましくて仕方なかったわよ」

 両手の長手袋を雑に、裏返しにして脱ぎ捨てて、最後に頭のティアラを布ごと外しながら愚痴を垂れる。王女の服装一式は、哀れにもドレスと共に中庭の草むらに置き去りにされてしまった。
 諸々を脱ぎ捨てて、薄着――それでも丁寧で華やかだが――になったシャーリィは、俺を通り過ぎて噴水へと近づき――大きく跳んで、周りに水飛沫を散らかした。

「ほっ――、ッ~! やっぱり冷たいわね! でもやっと涼しくなれた~」

 素足のまま噴水の水を楽しそうに足踏みして、そのまま噴水の縁に腰掛ける。
 ……靴を水浸しにさせる気はないので、俺は噴水の中には踏み込まず、同じく噴水の縁――濡れてない場所を選んで――腰掛けた。

「なぁに? ユウマは遊ばないの?」
「もう体は冷えてるからな。むしろシャーリィは良いのか? 服をあんな置きっ放しにして」
「良い良いの。後で回収して給仕係に押しつける。で、私達は帰って……うん、今日はギルドでご飯でも食べる?」
「呑気だねぇ」
「ふふ、アンタこそ」

 パシャ、パシャ、と大股で水面を跳び歩いて楽しそうにしているシャーリィを横目で眺める。

 楽しそうな笑顔を浮かべて、水飛沫を舞わせる年頃の自由奔放な少女は、やっぱり普段通りの親しみやすい雰囲気を水飛沫と共に纏って、まるでこれが昼間の仕事の対価のように心底楽しそうに遊んでいた。
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