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男子トイレ / 認知

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「あっ♡あ゛ッ♡ほぉ゛ッ♡んおぉ゛ッ♡」
 
 ──トイレでハメ中だ。
 今日は例のオス様大作戦を実行し、猟野をとことんわからせるっつう算段だった。でも猟野が顔見てヤりてぇとか文句言うから、渋々正面からヤっている。いやトイレで正面ハメとかどう考えてもしんどいだろ、俺もお前も。ったく、マジでワガママになりやがって……。
 
「ぁッ♡あッ♡んぉ゛♡ふとしッ♡きょうもッ♡チンポっ、しゅごッ♡」
 
 自分からちんぐり返しの格好になって、揺さぶられるたびに自分のチンポをビタビタ揺らしながら喘ぐ猟野の姿が目の前に拡がる光景は、正直、一方的な種付けとは程遠い。あれこれ考えてたはずなのに、こんな猟野を見ていると、なにも考えがまとまらなくなる。
 クソッ♡だから顔見てヤるの嫌だったんだよッ♡バックだったら一方的ハメできたのに、コイツがっ、顔見たいとか、言うから……ッ♡くっそっ♡チンポスケベに揺らしやがってッ♡繋がってっトコ丸見えなのエロすぎんだよッ♡こんな狭い個室で向かい合って密着してグチョグチョ音反響さしてッ♡なんなんだよッ、これ……ッ!♡
 
「ッおい、ちょっとっ、声抑えろっ♡誰か来たらどうすんだッ」
「だってッ♡ふとしと、こんな、ちかくでッ♡バレそうな場所でチンポハメしてんのにっ♡声ガマンするとか、むりッ♡ふとしっ♡チュー♡チューしてっ♡チューハメッ♡チューハメ、したいッ♡」
「ぉ、前なッ……!こんな状況でできるワケっ……、──!」
 
 両手を首にがっしりと絡めて、またアホなことをねだってくる猟野を押し返そうとすれば、人気のないトコを選んだはずなのに、誰かがトイレへ入ってくる物音が聞こえる。クソッ、大方俺達と同じでサボりの連中か。言わんこっちゃねぇ……ッ!
 
「ッ、んぐッ」
「──、」
 
 俺は猟野の口を手で押さえて、自分の口へ人差し指を当てる。こんなシチュは堕ちハメ途中でも何度かあった。当時は死なば諸共精神でバレてもいいとか思ってたせいで、こういう時はあえてチンポガン突きして必死に声抑えて我慢するコイツを見てニヤニヤしてたワケだが、今となっちゃ不思議とそんな気力は起きない。しばらく黙ってやり過ごすぞ、と視線を投げかければ、アホのクセにすぐ猟野は俺の意図を汲んで、コクコクと無言で頷いた。
 
「はー、だるー」
「マジな。やってらんねー」
 
 聞こえてくるのは間延びした会話。男二人で連れションかよ、ダセェなっ……。そう思うものの、その声にはどこか聞き覚えがあった。それを裏付けるように、気だるい会話が続いていく。
 
「光、最近付き合いワリーよなぁ~」
「「!」」
 
 そこで俺達は同時に固まる。光、はコイツの名前だ。つまり……アイツらは猟野がいつもつるんでる連中。どうりで、聞いたことある声のはずだ。つか付き合い悪いって、コイツ……?
 
「あーわかる。目ェ離すとすぐいなくなってっしな。どこ行ってん?」
「知らね。なんも言わないでどっか行くじゃん、アイツ」
「へー、お前も知らねーんだ」
「っ……」
「……」
 
 明らかに猟野が俺の所へ来ているせいで生まれてる会話に目の前の姿をまじまじと見つめれば、フイッと気まずそうに猟野は視線を外す。いや。なに。なんだ。その態度。つうか俺だけじゃなくて、いつも猟野と一緒にいるヤツらもおかしいと思ってんのかよ。なんだそれ。それって。相当、だろ……っ。
 
「光、カリ山のこともほっとけっつーしなー」
「!」
 
 しかも今度は俺へ話題が飛び火して、更に動揺する。いやッ、なんで俺の話になるんだよッ!?俺は今の話に関係ないッ……、いやっ、今、光、とか、言ってたか……ッ?
 
「あー言ってた言ってた。いきなりナニ言ってんのかって思ったよな」
「なー。「イジりとかダセーしやめよーぜ」とか言っちまってさぁ。マジメかってのw」
「それなーw」
「ま、でも実際アレ最近つまんねーし。それは別にイイんじゃね?」
「それもそっかwアイツイジるのも飽きてきたしな」
「それよりマジカノジョほしーわ。チンポハメてぇ~」
「わかるー。毎日ヤれるヤツ羨まし~~」
「っ──」
「──、」
 
 くだらねえ会話にくだらねえ愚痴を吐いて、連中はうるさい音を立ててトイレから去っていく。激しく閉まるドアの音に俺は胸を撫で下ろした。どうにかバレずにやり過ごせたみたいだ。でも……。
 
「……」
 
 さっきの……会話……なんだ?
 つまり、猟野が……マジで、コイツが……あれこれいちいち根回しして、俺のこと……庇ってた、ってのか?んなことしたって、コイツには、一文の得もないのに?一向に俺と目を合わせようとしない猟野を見つめて、俺はそっと、口に当てていた手を外す。キュッと結ばれた唇はかすかに震えていて、さっきまでうるさくアンアン喘いでた姿とは大違いだ。
 
「猟野、お前……っ、ぁ、んぶッ!」
 
 その態度を、そしてその真意を問い質そうと口を開けば、さっきと逆に、俺が、猟野から手の平で口を塞がれる形になる。強引な仕草はいつものコイツらしくて、けれどその表情はどうしようもないほど、心底焦っていると俺にも伝わってくる。
 
「っ……」
 
 いやっ……おまえ、なんで、そんな顔、してんだよ?
 俺はお前のことメス堕ちさせたオタクだぞ?デブで、キモくて、最低で、お前がさんざん、なじって嫌がってキレてた、そういうオタクだろうが。なのにそんな相手にそんな弱そうな顔見せてんだよ。なんでそんな「バレた」みたいな顔してんだよ?一番聞かれちゃマズイこと、聞かれた、みたいな……。
 
「オレっ、ちが……ッ!太ッ。ちがう、からっ。オレがっ、やった、こと。オレがちゃんとっ。セキニンとるっ、だけだからっ。太には、メーワクっ、かけないッ、から。ぜんぶっ、オレがっ、悪いから……ッ。ふとし……ッ。だ、だからっ。なんもっ、聞かないで……ッ!」
 
 俺の疑問も戸惑いも、なにもかもを遮るように、唇よりもずっと震えた声が、狭い個室へ響く。いつの間にか潤んでいる瞳がやっと俺を捉えて、俺を射抜いて、俺を視る。真っ赤な頬はどう考えても快感じゃなく焦燥と困惑のせいで、それはもう、泣きそうなのを必死でこらえている猟野の姿だ。なんも考えなしにイキるんじゃなく、頭空っぽで無邪気に笑うんでもなく、自分がしたこと、そして今ここにある自分の感情をただありのままにぶちまけてる、猟野の姿だ。
 
「っ──。」
 
 それを見て俺は、完全に、思考が止まった。それは今まで俺が一度も見たことのない猟野の姿で、そして言葉で、それが、完全に、俺の、トリガーになった。それは言うなら俺がずっと見たかった猟野の姿で、俺がずっと「ほしかった」、猟野の姿だった。俺はそれを、この猟野を見た瞬間に気づいた。自分の行動を自省して、それを俺に、謝罪して。それはただ、俺を「ひと」として見ている、そんな猟野の姿だった。ふわりと脳裏に自分で飲んだイチゴ牛乳の香りが蘇って、その馬鹿みたいな甘ったるさが、この猟野へと重なっていく。今まで猟野が俺に見せてきたすべてが、俺へと重なっていく。俺にどうしようもなく、理解をさせる。
 
 ああ。
 そうか。
 猟野は。
 俺と同じ。
 人間。
 ひと。
 ……感情を向ける。
 向けるに相応しい。
 そうやって扱うのが当然の。
 ──ひとりの、ひと。
 
 ……それに気づいた瞬間、ブチン、とどこかが切れる音がした。それは俺が、今までなにも見ていなかった現実を、暴かれる音だった。今までテキトーなクソヤンキーだと思っていたコイツが、俺の中でも猟野光という「ひと」として、確かなかたちを持った音だった。そしてそれはこれまで猟野が見せてきたそのすべてが俺の中へ重みを持って落ちてきた音で、それによって俺が、自分自身を、なにもコントロールできなくなる、音だった。
 …………は??????
 なんっ、?、っ????
 その顔、えっ、はッ?
 おまえ、だって、その顔、かわ……っ、?
 いや、なに、おれ、なに……っ、いや、でも、?、すげっ、かわ、?、あれ、???、ッ、あれ?、いや、でもっ、これっ、まじでっ、かわっ、──、……ッ、
 
「ぅ゛♡うぅ゛っ♡ちがうっ♡ふとし……っ♡ちがう、よぉ……ッ♡」
「っ──!!!!!」
 
 いや、いや、いや、いや、いやッ、これっ、こんなのッ、
 ッ、っ、ッ、っ、ッ、
 かッ──……かわいすぎねぇかッッッ!?!?!?
 
「ひゃッ!?ぁ……ッ、んぅ゛ッ!♡」
 
 自分でも理解が追いつかないまま一気に沸点を超えた衝動で、俺は夢中で猟野の手を振りほどくと、自分の顔を猟野へと押しつける。初めて自分からしたキスで触れる猟野の唇は驚くほど柔らかくて、それだけでイきそうになる。なんだ。なんだこれ。気持ちいい。すげぇ気持ちいい。とまらねぇ。とまんねぇ。猟野。猟野。りょうの……ッ!♡
 
「んッ♡ンッ♡んぅ゛♡ふッ♡」
 
 必死に舌を絡める。口の中をまさぐる。自分でもわけがわからないくらい、一瞬で全部が猟野を求めはじめる。たまらない。目の前にいる猟野の全部を探りたくて、知りたくて、暴きたくて、たまらない。ほしい。猟野がほしい。こいつがほしい。ぜんぶがほしい。足りない。たりない。たりない。こんなんじゃ、なにも、たりない。今までのつまんねぇハメ方じゃ、今までの乱暴すぎるやり方じゃ、なんも、なんも、なにも、とどく、わけがない。
 
「ん゛ぅッ♡ふぅ゛ッ♡んぁ゛ッ♡ゃっ♡ふとひっ♡ナニッ♡やだッ♡いまチューやだぁッ♡ふ♡んぅ゛ッ♡ゃ♡あ゛ッ♡ふあッ♡」
 
 猟野は身を捩る。あからさまにいやだってキスを拒もうとする。なんでだよ。この前までおまえ、あんな俺とくっつきたがってただろ。さっきだってベロチューねだってずっとキスハメしたがってただろ。じゃあいいだろ。俺いましてぇんだよ。猟野とひっついてキスしてベロハメしてぇんだよ。いいだろ。いいよな?俺、おまえのこと、なんかっ、すげぇっ、すげぇ……ッ!
 
「ン♡んぅ゛ッ♡むり、りょうのッ、もっと、もっとキス、クチっ、マンコッ、ほしいっ、ほしいよッ、りょうの、りょうのッ♡」
「ぁ♡ひぁ゛ッ♡ぁあ゛ッ、んん゛ッ!♡」
 
 ゆっくり、猟野が一番好きな結腸へチンポが挿入り込むように腰を押しつけて、ぐりぐりと動かす。それは昔コイツへやったようなヨさを肉体へ教え込むモンじゃなく、自然と「そうしたい」と思って勝手に出た動きだった。無意識だった。いま俺は完全に猟野にヨくなってほしくて、ただ、その動きをしていた。猟野に感じてほしくて、猟野が気持ちよくなってっトコを見たくて、それだけで、俺はぐちゅぐちゅと、しつこく奥だけをかき回す。
 
「りょ、のッ♡ほらッ♡おまえッ♡おまえが、すきな、やつッ♡これッ♡すきだろッ♡なッ?♡すきだよなッ♡おくッ♡けっちょッ♡おまえっ♡だきあってッ♡きすしてッ♡ゆっくり突かれんのッ♡すき、だろッ?♡」
「ひ、っ゛♡ぁ♡んぉ゛ッ♡ぅ、うぅぅ゛ッ♡」
 
 俺の動きに、俺の言葉に、もう猟野はこわれそうなくらい濁った声を出して、何度も首を横に振る。もう涙がこぼれ落ちそうな瞳がやたら綺麗で、俺は猟野から、すこしも目を離せない。
 
「りょう、のッ♡すげ……っ♡かおっ♡きれぇッ♡すげ、きれいッ♡」
 
 もう、自分でもなにを言ってるのかわからない。わからないけど、ただ、猟野が目の前にいるのがたまらない。たまらなくて、一生、こうしてたいと思う。一生、猟野とセックスしてたいと想う。こんな猟野をずっと見てたい。きもちよくなってたい。抱きしめてたい。りょうの。りょうの。
 
「りょうのッ♡すげッ♡かわ、ぃッ♡かわいい、よぉっ♡りょうの♡りょうのぉッ♡」
「ゃ゛♡やっ♡や゛ぁッ♡♡♡」
 
 だから、おれが、それを、ひとつも、なんにも、かくせずに、そう言うと、そこで猟野は、ほんとに、ほんとうに、耐えられなくなったように、がまん、できなくなったように、全身を、ガクガクと震わせる。
 
「だめ゛ッ♡ふと、ひっ♡それッ、だめ゛、ぇッ♡いくッ♡い゛っちゃう゛ッ♡ぁ゛♡ばかッ♡ばかぁ゛ッ♡イぐッ♡い゛ッ♡んおぉ゛ッ♡おぉぉ゛……ッ!♡♡♡」
 
 そのまま、俺をなじり続けて猟野はイった。イったけど出てくるのは精液じゃなくて潮だった。完全に猟野はナカイキでメスイキしていて、それはおそらく、いちばん、気持ちのいい、アクメだった。
 
「はへッ♡へぁ゛ッ♡ひぐッ♡あ゛ッ♡うぅ゛……ッ♡♡♡」
 
 もう、涙はとまっていなかった。
 消えない余韻にだらりと身体を弛緩させる猟野の、かわらずに綺麗な目からはぼろぼろ涙が止めどなくこぼれていて、俺はその光景を見て、自分の胸へ、わけのわからない痛みがふるえるほどにせり上がるのがわかった。なんだ。なんだこれ。しらない。なにもしらない。しらないけどくるしい。くるしいのに気持ちいい。きもちよくて、とまらない。
 
「りょ、の……ッ♡」
 
 だから、俺は、猟野の目尻にキスをして、その涙をヂュウっと吸い取った。吸い取って、舐め取って、それでも足らなくて、猟野の唇へキスをした。それはデブオタには笑っちまうくらい似合わねぇ仕草だってわかってたけど、やりたくて、して、その後でそれに気づいたから、どうしようもなかった。塩からい猟野の涙は俺の舌をしびれさせて、こんな味、二度と、忘れられないと思った。
 
「ひ、ぅッ♡ぁッ♡ふとひっ♡ンっ♡んッ♡んぅッ!♡」
「りょう、のッ♡おまえっ♡やっぱおまえ、だったんだなっ♡おまえがっ♡俺の、ことッ♡」
 
 徐々に思考が戻ってくる。誰でもないコイツ自身が俺のことを考えて、「そう」行動したんだと理解する。猟野が、「ひと」として俺へしてくれたそのことが、なにより、俺のスイッチを切り替えて、一気に俺を昇らせたんだと、理解する。
 ああ、猟野っ、おまえっ、おまえがっ♡わざわざ俺のことひとりでかばってっ♡ンなことひとっつも俺には言わないままっ♡あまえてっ♡なついてっ♡くっついてっ♡キスして……ッ♡ああクソッ♡くそっ♡猟野っ♡おまえっ♡おまえが……っ!♡♡♡
 
「いまから家、来いよっ♡なッ?♡家で、セックスっ♡俺とッ♡朝までっ、セックス、しよッ?♡」
「ぁ♡ふ、ふとしっ♡」
「な?♡いいだろッ?♡ゆっくりッ♡ベッドでッ♡ハメてッ♡抱き合ってッ♡キスして……ッ♡エッチっ♡シようぜッ♡な?♡なッ?♡りょうのッ♡りょうのぉ……ッ♡」
「あ゛♡う゛ぁ♡ふとしッ♡ふと、ひぃ……ッ♡」
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