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1.まって、それはやらないで

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 どうしよう、どうしよう、言わなくちゃ。
 早く言わないと間に合わなくなってしまう。
 今日こそちゃんとあなたに伝えなくちゃ――。

「あの……」

「なぁ、トワ。もう一回いい?」

 そんな悩んでいる私の言葉を遮るように、隣で寝転んでいたエチルが腕を伸ばして私を裸の胸元に引き寄せた。
 さっきまで激しく抱き合っていたから、硬い胸板からは男らしい汗の匂いがしてきてドキンと胸がはねる。

「えっと、でも……」

「久しぶりだし、あと一回だけだから」

 低い声が少し甘えるようにしながら耳元でねだってくる。
 こんなふたりきりで抱き合う時しか聞けないような声を出されては、それだけで私は頭がクラクラしてきてお腹の奥がキュンと疼いてしまう。

 同じ歳で幼なじみのエチル。
 二年前に恋人同士になって、こうやって身体を重ねるようになったのは一年前から。
 家が近くて親同士も仲が良くて、昔からずっと一緒に過ごしてきた。
 小さい頃からなんでもできて、凛々しい顔立ちに金の髪とエメラルドみたいな翠の目は絵本の中の王子様みたいだった。
 ありふれた茶色の目と髪の私とは全然違う。
 鈍臭い私は昔からよくエチルを怒らせてしまったけれど、怒りながらも最後まできちんと話を聞いてくれる優しい人。
 ずっとずっと大好きで、大好きで、大好きだったから、いまこうしていられるのがいまだに夢のよう。
 だから触れられると幸せで、気持ちよくて、それだけで何も考えられなくなってしまう。

 でも、だから、早く、早く言わなくちゃ。

「でも……エチルはこのあとお仕事でしょ……?」

 本当に言いたいことをごまかすように、口から出てきたのは別の言葉だった。
 でもあとは家に帰るだけの私と違って、エチルがこのあと騎士団のお仕事なのは本当だ。
 騎士なんて身体を使うお仕事なのに、仕事前にこれ以上疲れることをするのは良くないと伝えてみるが、エチルは不満気に眉をひそめる。

「だからだよ。またしばらくトワと触れ合えない」

 たしかに同じ魔法省勤めでも魔法騎士団副団長のエチルと資料室勤務の私では休みがなかなか合わなくて、今日だってとても久しぶりのデートだ。
 エチルがくるりと身体を半回転させ私の両側に手をつくと、長い手で囲うようにしながら見下ろしてきた。
 いつもはきちっと整えられているエチルの金の髪が無造作に乱れて垂れ下がってきていて、こうしているとなんだか少しだけ幼く見える。
 それがまだ私がエチルに片想い中だった頃を思い起こさせて、切ない気持ちを思い出してそわそわと心が落ち着かなくなってしまう。
 こんな顔で頼まれたら断れない。

「いいだろ?」

「でも……あの……お風呂とか入りたいし……あっ……」

 下半身をくっつけてきたエチルが、硬くなり始めた雄を私の秘部に擦りつけた。
 足の間からグチュリと卑猥な水音がする。
 私は両手でエチルの胸を押し返しながら、顔を赤くした。

「や……」

「ほら、もうすぐにでも入りそう」

 エチルが少し意地悪に笑い、その笑顔がまた魅力的で私の中がキュンと疼いた。
 エチルが出したものと私が出したもので混ざりあったものが中からあふれ出てきて、それがまた私の秘部をたっぷりと濡らしていく。
 エチルが小刻みに腰を揺らし、その先端が私の敏感な粒を押して刺激した。

「あっ、あっ……ダメ……」

「あとで浄化魔法かけるからさ。ここ出るギリギリまでしたい。しよ。ね、トワ。避妊魔法をかけていい?」

 待って。待って。それじゃダメなの。

 そう言いたいのに、口から出るのは甲高い喘ぎ声ばかりで。

「あっ……やっ……ま……っ」

 快感に流されて何も考えられなくなってきて、エチルの胸板を押し返す手から力が抜けてしまったところで、ソレが鳴った。

「ピーッ! ピーッ! ピーッ!」

 ソレは騎士団専用魔道具の呼び出し音だった。
 小さな笛型の魔道具は、緊急時に魔力を込めて吹くと騎士団全員に連絡が行くようになっている。
 エチルは動きを止めて、大きく息を吐いた。

「ごめん。緊急の呼び出しだ」

「あ、うん……」

 エチルはすぐに私の上から降りると、魔道具に触れてその音を止めた。
 火照る身体を沈めながら、私はベッドの上でホッと小さく息を吐く。
 エチルは床に散らばった服を拾い集め、私の分を手渡してくれた。

「トワ、ほら」

「ありがと、エチル。あの、気をつけてね」

「あぁ。浄化魔法かけるよ」

「あ、ちょっと待って!」

 私が服を受け取ると同時に、エチルが私の裸の肩に手を置いて浄化魔法をかける。

「あ……」

 すぐにふわりとエチルの魔法が私を包み、全身をきれいさっぱりと洗い上げていく。
 相変わらず早くて正確な魔法だ。
 そしてさっさと自分にも浄化魔法をかけると、素早く騎士服を身につけた。

「ここにお金を置いておくから。トワは泊まっていってもいいよ」

 手早く着替えを終えたエチルが財布からお金を出して、ベッドサイドの小さなテーブルの上に置いた。
 おそらくそこには、この連れ込み宿の一泊分のお金が置かれているのだろう。
 この連れ込み宿はいわゆるそういうことをする所で、時間貸しと宿泊の両方をやっていた。
 私の住まいは男子禁制の女子寮だし、エチルも男ばかりの騎士団寮に私を連れ込みたくないと私たちのデートはもっぱらこの連れ込み宿だ。

「じゃあ、いってきます」

「……うん。いってらっしゃい」

 名残惜しそうに一度だけふり返ってから、エチルが部屋から飛び出して行った。
 パタンと音を立てて部屋のドアが閉まってから、ひとりとり残された暗い部屋の中で私は大きくため息をつく。

「はぁ~……」

 テーブルに置かれた多すぎるお金から、この部屋の利用料の半分だけもらって残りは別にしておく。

(これはあとでエチルに返そう。それにしても……)

「また言えなかった……」

 このお金を返す時に今度こそ言おう、と私はもう何度目になるかわからない決意をするのだった。
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