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第8章 ヴァロン王国遠征

第254話 脱出

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「ただいま。待たせたな」
「ヘンリー隊長。何をしていらっしゃるのです? クレアは良いのです?」
「プリシラ、違うッス。きっと師匠は、クレアにも特訓をしてあげているッス。拘束され、身動きが取れない状況で精神的に責められ、溶岩の熱で……」

 プリシラもドロシーも何を言っているのだろうか。
 プリシラはともかくとして、ドロシーに至っては喋っている内容すら理解出来ないのだが。

「何か誤解しているみたいだけど、サラマンダーなら元の状態に戻してきたぞ」
「流石に、ヘンリー隊長の足が早いと言っても、その冗談は笑えないのです。ここからだと、まだかなりの距離が残っているのです」
「いや、本当なんだよ。だよな、ラウラ」

 小脇に抱えたままのラウラに目をやると、

「……ん、確認した」

 面倒臭そうにはしているが、一先ず同意してくれた。

「という訳だ。今すぐクレアの所へ戻るぞ」

 小首を傾げるプリシラを促し、相変わらずユーリヤを背中におぶさり、ラウラを小脇に抱えたままで走りだす。
 猛ダッシュでドワーフたちが居た場所へ戻ると、

「おいっ! 今すぐ七番炉の調整を頼むっ!」
「マズイぞっ! 五番炉に亀裂が入ったらしい!」
「待て待て! それより、固まりかけていた溶岩を何とかするのが先だっ! 排出が間にあわねぇぞっ!」

 ドワーフたちが右へ左へと大慌てで走り回っている。

「これは……どういう状況なんだ?」
「……聞こえてくる話から推測すると、兄たんが火の精霊力を強くし過ぎた」
「え……それって、結構マズイのか?」
「……炉が壊れたら、とてつもなくマズイ。けど、壊れなかったら性能向上に繋がる」
「じゃあ、ちょっとだけ火の精霊を弱めに行って来ようか」
「……ううん。今更変な事しない方が良い。調整したのが、またやり直しになる」
「つまり、現状のまま何とか乗り切ってもらうしかないのか」

 一先ず、慌ただしいドワーフたちの邪魔にならないようにしつつ、クレアが居そうな場所をラウラに教えてもらい、

「クレア!」
「ヘンリー様っ! ……もう解決してくださったんですか?」
「あぁ。全速力で行ってきたぞ」
「ありがとうございます。……もう少し、私の事を考える時間が長くても……」
「ん? 何か言ったか?」
「いえいえ。何にも言ってませんよ?」

 無事にクレアと再会した。
 といっても、牢屋などに入れられている訳でもなく、鍵すらかかって居ない家に居た訳だが。
 とりあえず、クレアを無事に救出した訳なのだが、今度はドワーフに聖銀を鍛えてもらわなければ。

「ラウラ。この騒動は、どれくらい待てば収まりそうか分かるか?」
「……んー、良くも悪くも、明日の朝には収まるはず」
「ん? 良くも悪くもっていうのは、どういう意味だ?」
「……明日の朝には、炉が持ちこたえて調整が済むか、炉が壊れているかの、どっちか」
「そ、そうか。じゃあ、一先ず明日に改めて来るか」

 そう言うと、プリシラとヴィクトリーヌが露骨に嫌そうな表情を浮かべる。
 まぁそうなるよな。

「ラウラ。確か、ドワーフ専用の地上へ一瞬に出られる装置があるんだよな」
「……? 兄たん、何言ってんの?」
「ほら、さっきサラマンダーが居た所で教えてくれたじゃないか。一瞬で、あっという間に遠くへテレポート出来る装置があるって」
「……あー、そういう話ね。うん、ある」

 ラウラが俺の言いたい事を察してくれたようで、話を合わせてくれた。
 というか、実際そういう出入り口とか、装置とかが必要だと思うんだよね。
 でないと、不便過ぎる。

「じゃあ、一旦街へ戻って明日訪れようか。勝手に姿を消すのはマズイと思うんだけど、誰に話を通しておけば良い?」
「……誰でも良いと思うけど、誰も話を聞いてくれないと思う」
「あー、この状況だもんな。じゃあ、手紙を置いておくか」

 小さな荷物袋から取り出す振りをしながら、空間収納魔法で便箋とペンを手にすると、火の精霊力を強めた事とクレアを連れて行く事。それから、明日の朝に再び訪れる事をしたためた。

「じゃあ、クレアが居た場所にこの手紙を置いておけば良いかな」
「……待って。ラウラちゃんからも一言添えておく」
「あぁ、そうだな。俺がラウラを振り切って逃げたと思われても困るし、ラウラからもメッセージを記しておいて貰えると助かる」
「……ん、書いた」
「ありがとう。じゃあ、皆一旦戻ろうか」

 小脇に抱えたラウラに教えてもらい、適当な人気の無い場所へと案内してもらうと、

「……ワープ・ドア」

 小声でこっそり魔法を使い、地上へ繋がる扉を作る。
 全員で地上へ戻ると、既に陽が落ちかけて……って、かなりの時間を土の中で過ごしていたんだな。

「……凄い。あっと言う間に地上……これが、外の世界……」

 初めて見る外の世界に感動しながらも、やっぱり歩こうとはしないラウラを連れて街へと戻ると、簡易の小屋では無く、ちゃんとした宿でぐっすり休む事にした。
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