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おじさん、出戻るの巻
第8話 おじさん、冒険者ギルドに行く
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ボロぉ……。
「え、ここが冒険者ギルド……?」
見るからに陰気な感じ。
っていうかボロい。
(なんだ? ちゃんと掃除も出来てないのか?)
昔の華々しかった頃の面影すらない。
しかも、入口の前にはくっちゃくっちゃとガミの皮を噛みながら座り込んでる若者の集団までいる。
「残念ながらこれが現状よ。まだ見る? 私としてはあまり近づかないことをおすすめするけど」
「ん~……」
よくない。
こういうのはよくないなぁ……。
なんだか俺の唯一の思い出が汚された気分だ。
スッ……。
俺は若者の加えてるガミの皮を取り上げる。
「んだぁ、おっさん!?」
「ガミの実はよく使われる一般的な果物だ。しかし、その皮には中毒性がある。食べられるようにするにはそれなりの手間と技術が必要。これは……処理されていないようだな。よくない、こういうのはよくないぞ」
「あ? 関係ねぇだろ! 返せよ!」
サッ。
「くっ、こいつおっさんのくせに生意気に……」
「おう、おっさん何してくれてんの?」
「オレたちを誰だと思ってんだ? あぁん!?」
若者たちが俺を取り囲む。
中にはカミソリを持ってる者も。
(ふむ……足運びは素人のそれか)
「オラぁ、お前らやっちまえ!」
「おぅ!」
ハァ……まったく。
「……潜る」
五秒後。
「ぶくぶくぶく……」
「ど、どうなってんだ……! こんな弱そうなおっさんが……!」
地に伏した若者たちが唖然とした顔をする。
(潜るするまでもなかったか……)
「世の中にはな、ちょこっとだけ腕のたつおっさんもいるってことだよ。これに懲りたら覚えとくことだ──なっ」
地面に落ちているカミソリを拾い上げると。
上に投げたガミの皮を──。
シュババババ──ッ!
っと、切り裂く。
もう噛めないようにね。
「ふぅ。やっぱり都会のカミソリはいいなぁ。俺のは何年も使ってるからもうガタガタでな。ほい、返すよ。次からは邪魔にならないところいるんだぞ?」
「ひ、ひぃぃ~……!」
カミソリを手に握らされた若者は腰を抜かしたように叫ぶ。
(おいおい、人を化け物みたいに……)
「な、な……何分割にしてんだよぉ……! ただのカミソリ……だろぉ……!? そんな……ま、まさか宙に浮いた皮を数百分割……だってぇ……!?」
「? なにをそんなに驚いてるんだ? 冒険者にはもっとすごいやつもいるだろうに」
「お、おい……逃げるぞ……こんなのいるなんて聞いてねぇぞ……! 俺たちゃ、ここでギルドに人が入るのを邪魔しとけとしか言われてねぇのに……」
「邪魔? 誰から頼まれたんだ?」
「ひぃっ……! そ、それだけは言えねぇよ! こっちだって命が惜しいからな……」
「そうか……。なら……」
「ひぃぃぃぃぃ!」
泣き出しそうなほどに震え上がる若者たち。
「もうガミの皮だけは噛まないようにな」
「……へ?」
「いや、それほんとに体に悪いから。若い時はいいと思ってても年取ったら絶対に後悔するぞ?」
「へ……? そ、それだけ……?」
「ああ、そうだが?」
「わ……わかりましたぁ~!」
ぴゅ~。
若者たちは脇目も振らず一目散に走り去っていく。
「ケント、大丈夫か?」
「ああ、なんてことはない。鳥や獣を獲る時のほうが大変なくらいだ」
「そ、そう……。ケントの住んでいた地域の凶暴な魔獣と比べればたしかにそうだろうが……」
「わっ、入口に蜘蛛の巣張ってるじゃねぇか! ったく~、絶対掃除してないなこれ~」
ギィィィ──。
軋む扉を開ける。
そして俺の目に映ったのは。
英気溢れる冒険者たちでごった返す活気に満ちた広間──。
ではなく。
薄暗く。
誰もいない。
埃の積もった。
廃墟のような広間だった。
「おいおい……これ……マジか……?」
軽くショック。
マジかよ。
これ落ちぶれてるってレベルじゃねぇぞ。
マジでオワコンなのか、冒険者?
そんでそれが俺のせい?
うそだろ?
ガタッ!
物音。
かつて何度も依頼を受けたカウンターの奥から。
のそり……。
なにかが起き上がってきた。
(酒の匂い……しかもかなり飲んでるな)
「ったく誰だよ……金なら払えねぇって何度も……」
そうクダを巻きながら現れたのは──。
「ベルド? お前、ベルドか?」
「あ? なんだよ、気安く人の名前を呼ぶんじゃねぇ……って、お前……ケント? ケント・リバーか!?」
俺のかつての友。
冒険者ギルド長、ベルド・クレアラシルだった。
「え、ここが冒険者ギルド……?」
見るからに陰気な感じ。
っていうかボロい。
(なんだ? ちゃんと掃除も出来てないのか?)
昔の華々しかった頃の面影すらない。
しかも、入口の前にはくっちゃくっちゃとガミの皮を噛みながら座り込んでる若者の集団までいる。
「残念ながらこれが現状よ。まだ見る? 私としてはあまり近づかないことをおすすめするけど」
「ん~……」
よくない。
こういうのはよくないなぁ……。
なんだか俺の唯一の思い出が汚された気分だ。
スッ……。
俺は若者の加えてるガミの皮を取り上げる。
「んだぁ、おっさん!?」
「ガミの実はよく使われる一般的な果物だ。しかし、その皮には中毒性がある。食べられるようにするにはそれなりの手間と技術が必要。これは……処理されていないようだな。よくない、こういうのはよくないぞ」
「あ? 関係ねぇだろ! 返せよ!」
サッ。
「くっ、こいつおっさんのくせに生意気に……」
「おう、おっさん何してくれてんの?」
「オレたちを誰だと思ってんだ? あぁん!?」
若者たちが俺を取り囲む。
中にはカミソリを持ってる者も。
(ふむ……足運びは素人のそれか)
「オラぁ、お前らやっちまえ!」
「おぅ!」
ハァ……まったく。
「……潜る」
五秒後。
「ぶくぶくぶく……」
「ど、どうなってんだ……! こんな弱そうなおっさんが……!」
地に伏した若者たちが唖然とした顔をする。
(潜るするまでもなかったか……)
「世の中にはな、ちょこっとだけ腕のたつおっさんもいるってことだよ。これに懲りたら覚えとくことだ──なっ」
地面に落ちているカミソリを拾い上げると。
上に投げたガミの皮を──。
シュババババ──ッ!
っと、切り裂く。
もう噛めないようにね。
「ふぅ。やっぱり都会のカミソリはいいなぁ。俺のは何年も使ってるからもうガタガタでな。ほい、返すよ。次からは邪魔にならないところいるんだぞ?」
「ひ、ひぃぃ~……!」
カミソリを手に握らされた若者は腰を抜かしたように叫ぶ。
(おいおい、人を化け物みたいに……)
「な、な……何分割にしてんだよぉ……! ただのカミソリ……だろぉ……!? そんな……ま、まさか宙に浮いた皮を数百分割……だってぇ……!?」
「? なにをそんなに驚いてるんだ? 冒険者にはもっとすごいやつもいるだろうに」
「お、おい……逃げるぞ……こんなのいるなんて聞いてねぇぞ……! 俺たちゃ、ここでギルドに人が入るのを邪魔しとけとしか言われてねぇのに……」
「邪魔? 誰から頼まれたんだ?」
「ひぃっ……! そ、それだけは言えねぇよ! こっちだって命が惜しいからな……」
「そうか……。なら……」
「ひぃぃぃぃぃ!」
泣き出しそうなほどに震え上がる若者たち。
「もうガミの皮だけは噛まないようにな」
「……へ?」
「いや、それほんとに体に悪いから。若い時はいいと思ってても年取ったら絶対に後悔するぞ?」
「へ……? そ、それだけ……?」
「ああ、そうだが?」
「わ……わかりましたぁ~!」
ぴゅ~。
若者たちは脇目も振らず一目散に走り去っていく。
「ケント、大丈夫か?」
「ああ、なんてことはない。鳥や獣を獲る時のほうが大変なくらいだ」
「そ、そう……。ケントの住んでいた地域の凶暴な魔獣と比べればたしかにそうだろうが……」
「わっ、入口に蜘蛛の巣張ってるじゃねぇか! ったく~、絶対掃除してないなこれ~」
ギィィィ──。
軋む扉を開ける。
そして俺の目に映ったのは。
英気溢れる冒険者たちでごった返す活気に満ちた広間──。
ではなく。
薄暗く。
誰もいない。
埃の積もった。
廃墟のような広間だった。
「おいおい……これ……マジか……?」
軽くショック。
マジかよ。
これ落ちぶれてるってレベルじゃねぇぞ。
マジでオワコンなのか、冒険者?
そんでそれが俺のせい?
うそだろ?
ガタッ!
物音。
かつて何度も依頼を受けたカウンターの奥から。
のそり……。
なにかが起き上がってきた。
(酒の匂い……しかもかなり飲んでるな)
「ったく誰だよ……金なら払えねぇって何度も……」
そうクダを巻きながら現れたのは──。
「ベルド? お前、ベルドか?」
「あ? なんだよ、気安く人の名前を呼ぶんじゃねぇ……って、お前……ケント? ケント・リバーか!?」
俺のかつての友。
冒険者ギルド長、ベルド・クレアラシルだった。
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