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【第三章】 旧校舎で肝試し
第53話 真相の断片
しおりを挟む「今日も青春してる~? 学園ライフを楽しんでる~? 青春とか学園ライフとか、言葉だけでキラキラしてて素敵よね。実情がどうだったとしても! 安心して、あたしも友人ゼロ人だったから。あなた側の人間よ~」
ローズは登場と同時に、私のことを勝手にぼっち認定してきた。
……いやまあ、『私』はその通りなのだが。
でも今は、ナッシュもジェーンもいる。エドアルド王子との関係も良好だし、ルドガーやセオとの関係だって悪くない。
ウェンディとも、そこそこ……のはず。あれ、どうだろう。
「じゃあ今日は、魔術協会と教会の関係について話してみよっか~!」
今日のローズは先生のつもりなのか、杖を指示棒代わりに振っている。
「魔術協会っていうのは、読んで字のごとく、魔法使いの魔法使いによる魔法使いのための協会ね。強力な魔法を使う魔法使いを崇めているの。ナミュリー家も魔術協会に支援しているわ」
原作ゲームではローズの家庭環境について詳しく描かれてはいなかったが、膨大な魔力量を持つローズは間違いなく強力な魔法使いの家系だ。
そのナミュリー家が魔術協会を支援しているのは、自然なことのように思える。
「あたしは強力な魔法が使えるから、将来、魔術協会の重役にどうかってスカウトされたこともあるわ。とりあえず学園を卒業するまで、この話は保留ってことになっているけれど」
すでにローズは、魔術協会に一目置かれているらしい。
高校の卒業とともに重役で採用したいなんて、ローズはどこまで天才なのだろう。
「そうそう、あたしの処刑が決まってから、魔術協会もお父様やお母様と一緒に働きかけてくれたらしいの。でもそれを邪魔してきたのが協会派でね~」
ローズはやれやれと肩をすくめた。
「協会はね、魔法使いじゃなくて聖女を崇めているの。主に魔力の少ない者たちに支持されているわ」
魔力の多い者が支持する魔術協会と、魔力の少ない者が支持する協会。
二つの協会が水と油だろうことは、すぐに想像ができる。
「聖女は常にいるわけじゃないから聖女の座が空席のことも多いんだけど、今はウェンディという聖女を得て、より協会の動きが活発になっているの。待ちに待った聖女様が現れた!ってね」
原作ゲームでも、聖女であるウェンディは、ただそこにいるだけで愛された。
学園内に味方が多いことはもちろん、町でも聖力を使うとウェンディを崇めて無償で助けてくれる人たちが現れていた。
「だから協会は、『死よりの者』を操って聖女ウェンディに危害を加えようとした、あたしのことが許せなかったみたい。あたしの減刑を求める魔術協会とぶつかっていたらしいわ……そもそも、あたしが『死よりの者』を操って聖女ウェンディに危害を加えようとした、って根本が間違っているのに。それが協会同士の抗争に発展するなんて、ちょっと滑稽よね~?」
原作ゲームでは学園内での生活がメインだったから、学園の外でそんなことになっていたなんて知らなかった。
「それくらい、協会同士がいがみ合っているってことね。だからあたしとウェンディのことは、単なる喧嘩のきっかけでしかないのかもね。だってすっごく仲が悪いのよ、魔術協会と協会って。昔からそうだったらしいわ」
信じるものが違う者同士はぶつかりやすい。それが正反対のものともなれば当然だ。
魔力を信仰する者たちと、聖力を信仰する者たち。
どちらが正しくどちらが間違っているわけでもないが、いいや、どちらが間違っているわけでもないからこそ、争いが生まれてしまう。
「だからさ~、あたしは思ってることがあってね。ウェンディは協会派の人間に、必要以上にあたしを嫌うように教育されたんじゃないかって。これってあり得る話だと思うのよね~」
協会同士の争いを考察していると、ローズは身近な話題を振ってきた。
ローズとウェンディの仲、か。
「ウェンディは故郷にいた頃に学園の関係者に勉強を習ったって言っていたのよ。それでね、聖女に勉強を教えたいって志願する人は、協会派の人間だとあたしは思うの。だって魔術協会派は聖女のことを何とも思っていないもの。わざわざ教えたいなんて考えないでしょ?」
確かにそうだ。
魔術協会の者が、わざわざ魔力に優れているわけではない一人の少女の教育のために、田舎まで出向くとは考えにくい。
「逆に協会派の人間は、崇めている聖女に自分が勉強を教えたい、ってなると思わない?」
ローズの言う通り、協会派の人間であれば、聖女の教育を行ないたい者はいくらでもいただろう。
「それで聖女に勉強を教えるついでに、敵対している魔術協会の悪口を吹き込んだんだと思うのよ。その中で、学園には魔術協会にスカウトされているローズ・ナミュリーという悪者がいる、みたいな話をしたのよ、きっと」
確証はないが、協会と魔術協会がいがみ合っているのであれば、十分にあり得る話だ。
同じ学園に通う魔術協会のエリートになるだろう敵対勢力のローズと、大切な聖女を、関わらせたくはないはずだ。
そのために入学前から聖女にローズの悪口を吹き込んでおいて、聖女が近付かないように対策していたのかもしれない。
「余計なことをしないでほしいわよね、まったく。おかげでちょっと意地悪を言っただけで、ウェンディを守る騎士たちに睨まれちゃって困ったわ~」
……でも。
単にローズがウェンディに意地悪をしていたから、ウェンディに嫌われたような気がしてしまうのは何故だろう。
こんなにも理由らしい理由があるのに、全てはローズの性格のせいに思えてくる。
「あと、協会と魔術協会の勢力争いは王宮でも起こっているの。エドアルド王子殿下は第一王子のお兄さんと母親が違ってね、第一王子が協会派で、第二王子が魔術協会派。だからあたしは第二王子のエドアルド王子殿下の婚約者に選ばれたの」
魔力が強く魔術協会に支援をしているナミュリー家の娘が第一王子と婚約をすることに、協会派の者たちが難色を示したのだろう。
逆に魔術協会派はローズを第一王子と婚約させることで得られるものが多い。時期王と王妃が協会派になって協会ばかりを優遇するのを防ぐことが出来る。
しかし、あえてローズを魔術協会派の第二王子と婚約させた上で、第二王子が王になったら……さらに得るものは多い。
「そんなわけで、通常なら第一王子の婚約者だけが王妃候補って呼ばれるけれど、魔術協会派は第二王子を王にする気満々で、あたしのことを王妃候補って呼んでいるの。第一王子が王になることは認めないって意思表示らしいわ。もちろん、王の前でそんなことは言わないけれど」
王宮としては、莫大な財力を持つナミュリー家と繋がれるなら、ローズが第一王子と第二王子のどちらの婚約者になろうとも利がある。
だからこの争いは、王よりも、王妃とその支持者たちの勢力争いなのだろう。
「周りはこんなだけど、王子同士の仲は良好よ。幼い頃には、あたしを含めた三人で遊んだこともあるわ。ただ第一王子は穏やかというか呑気というか……正直、王の器ではないのよね。善人なことは確かなんだけど。って、これは内緒ね」
ああ、神輿に乗せられた王子同士は仲が良いというのも、悲しい話だ。
せっかく二人の仲が良いのに、神輿を担ぐ人たちのせいで、ただの仲良し兄弟ではいられない。
「……ってところで、今日はおしまいにしようかな。まだまだあたしの話を聞きたいだろうけど、それは明日のお楽しみ。代わりにあたしの愛を持って帰ってね~」
ローズが唐突に話を打ち切った。
みるみるうちにローズの姿が薄れていく。
もうそんな時間なのか。
ローズの話を聞いている間は、嫌なことを忘れていられるのに。
もっと夢の世界で、ローズの話を聞いていたいのに。
現実になんか、戻りたくないのに。
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