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3.普通男子×地味女子
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当時の由衣は、大人しく、休憩時間はみんなと遊ぶこともあったが、一人イラストや漫画を描いていることも多かった。
ちょうど次の時間が図工で、下絵も描かねばならなかったし、ちょっと絵を描いてみようというそんな軽い気持ちで絵を描いていた。
「こいつまたキモイ絵描いてるぞ!」
と、意地悪な男子児童がそれを取り上げた。
「こいつさ、変な漫画描いてる! 気持ち悪い少女漫画描いてるぞ! 男と女がチューしてるエロ漫画描くんだろ!」
今の自分なら無視するところだが、その頃の由衣は子供だった。そしてこの年頃の男子は、女子よりもっと子供だった。
「返して……」
由衣は弱々しく反抗する。
「聞こえねえー!」
意地悪男子の取り巻きと一緒に、絵を描いた紙を順番にリレーしていく。
「返してよ……」
半泣きで手を伸ばして取り返そうとするが、リレーは思いのほか早い。
「エロ漫画!」
「エロ漫画!」
「描いてない……!」
ほかのクラスメート達は遠巻きに見ているだけで、誰も助けてはくれない。
その時だった。
休憩時間が終わる前に運動場から帰ってきた祐輝が、教室の騒ぎに気付き、揶揄う男子に体当たりしてきたのだ。男子は吹っ飛び、机や椅子も飛ばされた。
「迫田、何やってんだよ!」
「何すんだよ!」
「それは俺が今訊いたんだよ。由衣に何しやがった」
状況を見た祐輝は、取り巻きの手にあった紙を奪い、内容を確認した。
「ほら、これ由衣のだろ?」
「う、うん。ありがとう」
祐輝は取り返してくれて、
「大丈夫か? ほかに何かされてないか?」
泣いている由衣の顔を覗き込んだ。
「うん、大丈夫」
「そっか。よかった」
祐輝は安心したように笑った。
「おまえらデキてんのか? 由衣由衣言ってさあ、チューしてんのか? 祐ちゃん好きあぁんって?」
迫田がしなを作ると、取り巻きたちも同じようにしなを作って冷やかした。
「よし、じゃあ片付けるか」
飛ばした机を椅子を、祐輝は片付けようと背を向けた。
「くっそお……!」
無視をされた意地悪男子迫田が声を発した。
彼がその近くの机の上の彫刻刀セットから一本を掴むのが見えた。
「祐ちゃんっ! 危ない!っ」
「え?」
祐輝が振り向く。
咄嗟に由衣は振り向く祐輝の前に立ちはだかった。
──教室に悲鳴が上がる。
由衣は左頬に痛みを感じた。
「いたっ……」
咄嗟に頬を押さえた。
「由衣!?」
ぺたり、と由衣は床に座り込んだ。
由衣の前に回り込んだ祐輝がしゃがみ、由衣の手を取った。
「大丈夫か!? おい、誰か先生呼んで来い! 早く!」
誰かが教室を慌ただしく出ていく足音が聞こえた。
祐輝はポケットからハンカチを出すと、由衣の頬に当てた。
「まず止血しないと。見せてみろ」
由衣は頬を祐輝に見せた。
「畜生……痛いよな? 大丈夫か?」
「……痛い。でも大丈夫。祐ちゃんが怪我しなくてよかったよ」
「バカ! 俺のことなんていいんだよ! しっかり押さえとけよ? 誰か、綺麗なハンカチないか!?」
祐輝が声をあげても、クラスメートたちは呆然として誰も動かなかった。
「もういい! 由衣、立てるか? しっかり押さえてろ。椅子に座れ。血が止まったら保健室に行こう」
「う、うん」
祐輝は立ち上がり、由衣を座らせてくれた。
側で呆然としている迫田を、足で一発蹴飛ばした。
「邪魔なんだよ!」
始業のチャイムが鳴った。
そのあと、すぐに担任が飛んできた。
何の騒ぎだ、と隣のクラスの生徒たちも窓や扉から覗いている。
担任は、教師になって二年目の若い男性教師で、その惨状に驚愕した。
「春川さん、保健室へ行こう。誰か付き添って」
「俺が行きます。先生、警察に電話してもらえますか」
「え?」
「傷害事件ですから。迫田を警察に引き渡してください」
周囲がざわついた。
「そ、それは後だ。取りあえず春川さんを保健室へ。治療が先だ。迫田君は先生と一緒に職員室へ行こう。みんな、図工の授業はちょっと待ってくれるか? ほかの先生に代わってもらえるよう頼んでくるから、それまで自習していなさい。はいはい、二組のみんなも教室に戻って」
ちょうど次の時間が図工で、下絵も描かねばならなかったし、ちょっと絵を描いてみようというそんな軽い気持ちで絵を描いていた。
「こいつまたキモイ絵描いてるぞ!」
と、意地悪な男子児童がそれを取り上げた。
「こいつさ、変な漫画描いてる! 気持ち悪い少女漫画描いてるぞ! 男と女がチューしてるエロ漫画描くんだろ!」
今の自分なら無視するところだが、その頃の由衣は子供だった。そしてこの年頃の男子は、女子よりもっと子供だった。
「返して……」
由衣は弱々しく反抗する。
「聞こえねえー!」
意地悪男子の取り巻きと一緒に、絵を描いた紙を順番にリレーしていく。
「返してよ……」
半泣きで手を伸ばして取り返そうとするが、リレーは思いのほか早い。
「エロ漫画!」
「エロ漫画!」
「描いてない……!」
ほかのクラスメート達は遠巻きに見ているだけで、誰も助けてはくれない。
その時だった。
休憩時間が終わる前に運動場から帰ってきた祐輝が、教室の騒ぎに気付き、揶揄う男子に体当たりしてきたのだ。男子は吹っ飛び、机や椅子も飛ばされた。
「迫田、何やってんだよ!」
「何すんだよ!」
「それは俺が今訊いたんだよ。由衣に何しやがった」
状況を見た祐輝は、取り巻きの手にあった紙を奪い、内容を確認した。
「ほら、これ由衣のだろ?」
「う、うん。ありがとう」
祐輝は取り返してくれて、
「大丈夫か? ほかに何かされてないか?」
泣いている由衣の顔を覗き込んだ。
「うん、大丈夫」
「そっか。よかった」
祐輝は安心したように笑った。
「おまえらデキてんのか? 由衣由衣言ってさあ、チューしてんのか? 祐ちゃん好きあぁんって?」
迫田がしなを作ると、取り巻きたちも同じようにしなを作って冷やかした。
「よし、じゃあ片付けるか」
飛ばした机を椅子を、祐輝は片付けようと背を向けた。
「くっそお……!」
無視をされた意地悪男子迫田が声を発した。
彼がその近くの机の上の彫刻刀セットから一本を掴むのが見えた。
「祐ちゃんっ! 危ない!っ」
「え?」
祐輝が振り向く。
咄嗟に由衣は振り向く祐輝の前に立ちはだかった。
──教室に悲鳴が上がる。
由衣は左頬に痛みを感じた。
「いたっ……」
咄嗟に頬を押さえた。
「由衣!?」
ぺたり、と由衣は床に座り込んだ。
由衣の前に回り込んだ祐輝がしゃがみ、由衣の手を取った。
「大丈夫か!? おい、誰か先生呼んで来い! 早く!」
誰かが教室を慌ただしく出ていく足音が聞こえた。
祐輝はポケットからハンカチを出すと、由衣の頬に当てた。
「まず止血しないと。見せてみろ」
由衣は頬を祐輝に見せた。
「畜生……痛いよな? 大丈夫か?」
「……痛い。でも大丈夫。祐ちゃんが怪我しなくてよかったよ」
「バカ! 俺のことなんていいんだよ! しっかり押さえとけよ? 誰か、綺麗なハンカチないか!?」
祐輝が声をあげても、クラスメートたちは呆然として誰も動かなかった。
「もういい! 由衣、立てるか? しっかり押さえてろ。椅子に座れ。血が止まったら保健室に行こう」
「う、うん」
祐輝は立ち上がり、由衣を座らせてくれた。
側で呆然としている迫田を、足で一発蹴飛ばした。
「邪魔なんだよ!」
始業のチャイムが鳴った。
そのあと、すぐに担任が飛んできた。
何の騒ぎだ、と隣のクラスの生徒たちも窓や扉から覗いている。
担任は、教師になって二年目の若い男性教師で、その惨状に驚愕した。
「春川さん、保健室へ行こう。誰か付き添って」
「俺が行きます。先生、警察に電話してもらえますか」
「え?」
「傷害事件ですから。迫田を警察に引き渡してください」
周囲がざわついた。
「そ、それは後だ。取りあえず春川さんを保健室へ。治療が先だ。迫田君は先生と一緒に職員室へ行こう。みんな、図工の授業はちょっと待ってくれるか? ほかの先生に代わってもらえるよう頼んでくるから、それまで自習していなさい。はいはい、二組のみんなも教室に戻って」
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