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【第1部】5.誕生日
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***
聡子は化粧を落とし、着替えて、トモの待つ場所へ急いだ。
「トモさん」
「おう」
「お待たせしました」
「……」
トモは聡子を無言で見つめている。
「どうかされましたか?」
「いや、さっきまでと全然違うなと思って」
「すみません……」
「どうして謝る」
「着飾ってるほうがお好きそうですよね」
「そんなことはねえけど」
そういえばこの人は、化けても自分だと気付いた。どうして「気が強い」という理由で気付いたのだろう、不思議だった。
聡子は早速ネックレスをつけていた。トモにもらったネックレスだ。自分はアクセサリーを一つも持っていないので、似合っているのかいないのかわからない。似合うと思って贈ってくれたのだろうと思い、自信を持つことにした。
コートで隠れて見えなくなっているが、きっと「似合う」と言ってもらえるはずだ。聡子の中で、言ってもらえたらいいな、という願望が先走っていた。
行くぞ、とトモに促され、歩き出した。
「さっき、来るときに見つけたんだよ、よさげなカフェ」
トモは、カフェに連れていってくれるらしい。うきうきしながら彼に付いていく。
──カフェはもうしまっていた。
「さっきまで開いてたのにな……くそっ」
午後十一時を過ぎていれば、閉まっているだろう、カフェなら。
トモは落胆した顔を見せた。
「あ、あのっ、じゃあ、そこのファミレスはどうですか? スイーツ、結構おいしいですよ?」
ファミレス頼みか、とトモは声まで落胆いている。
「せっかくの誕生日祝いだったのに」
「いえいえ、お気持ちが嬉しいので」
結局は二人はファミレスに行くことになった。
「二十歳なら、もう酒が飲めるな」
「法律的には! ……でも、お酒はどうも口に合わないみたいです」
「そうか……。じゃ酒飲みに連れてくのも無理か?」
「んー……お酒、飲めるようになります! 見習いとはいえホステスなのにお酒飲めないなんて……ちょっと格好がつかないですからね」
ハハハ、とトモは笑った。
聡子は胸がドキドキした。
異性と二人で並んで歩くのは初めてだった。
「ほら来いよ」
トモが振り返り、足の遅い聡子を振り返る。
「す、すみません」
──ファミレスで、チーズケーキセットをご馳走になり、聡子はしっかり礼を言った。何度も言いすぎだと言われたが、都度伝えるのが当然だと思ったのだ。
「上手そうに食うんだな」
「美味しいので」
「食うところ初めて見たな。女はこんな時間に食ったら太るとか言うけどな」
「今日だけ特別です。普段は食べませんよ」
「トモさんは召し上がらないんですか?」
主役はおまえだろ、とトモは笑う。
なんだか悪い気がしたが、見抜かれたのか、
「じゃあ一口」
聡子が口に運ぼうとした一切れを、手を掴んで自分の口に運んだ。
「ひゃっ」
「ごちそうさん」
「あ……」
なかなかいい味だな、と言った。
「なんだよ」
「……フォークが……」
「あ? ああ、悪い。潔癖か? 気にするのか?」
「……べ、別に気にしてはないですけど」
気にしてんじゃん、と彼は聡子の口元についてケーキのかけらを拭った。
「なっ……」
(距離感どうなってんのよ……)
「潔癖じゃなくて、間接キスが気になるか」
「べ、別に!」
勝手にどぎまぎして馬鹿みたいだ、と残りを平らげた。
トモは涼しげな目で聡子を見ている。気恥ずかしくて見返すことが出来ない。
どうしたのだろう、いつもなら軽口叩いて言い返せるのに。
心臓の音がうるさくなっていった。
聡子は化粧を落とし、着替えて、トモの待つ場所へ急いだ。
「トモさん」
「おう」
「お待たせしました」
「……」
トモは聡子を無言で見つめている。
「どうかされましたか?」
「いや、さっきまでと全然違うなと思って」
「すみません……」
「どうして謝る」
「着飾ってるほうがお好きそうですよね」
「そんなことはねえけど」
そういえばこの人は、化けても自分だと気付いた。どうして「気が強い」という理由で気付いたのだろう、不思議だった。
聡子は早速ネックレスをつけていた。トモにもらったネックレスだ。自分はアクセサリーを一つも持っていないので、似合っているのかいないのかわからない。似合うと思って贈ってくれたのだろうと思い、自信を持つことにした。
コートで隠れて見えなくなっているが、きっと「似合う」と言ってもらえるはずだ。聡子の中で、言ってもらえたらいいな、という願望が先走っていた。
行くぞ、とトモに促され、歩き出した。
「さっき、来るときに見つけたんだよ、よさげなカフェ」
トモは、カフェに連れていってくれるらしい。うきうきしながら彼に付いていく。
──カフェはもうしまっていた。
「さっきまで開いてたのにな……くそっ」
午後十一時を過ぎていれば、閉まっているだろう、カフェなら。
トモは落胆した顔を見せた。
「あ、あのっ、じゃあ、そこのファミレスはどうですか? スイーツ、結構おいしいですよ?」
ファミレス頼みか、とトモは声まで落胆いている。
「せっかくの誕生日祝いだったのに」
「いえいえ、お気持ちが嬉しいので」
結局は二人はファミレスに行くことになった。
「二十歳なら、もう酒が飲めるな」
「法律的には! ……でも、お酒はどうも口に合わないみたいです」
「そうか……。じゃ酒飲みに連れてくのも無理か?」
「んー……お酒、飲めるようになります! 見習いとはいえホステスなのにお酒飲めないなんて……ちょっと格好がつかないですからね」
ハハハ、とトモは笑った。
聡子は胸がドキドキした。
異性と二人で並んで歩くのは初めてだった。
「ほら来いよ」
トモが振り返り、足の遅い聡子を振り返る。
「す、すみません」
──ファミレスで、チーズケーキセットをご馳走になり、聡子はしっかり礼を言った。何度も言いすぎだと言われたが、都度伝えるのが当然だと思ったのだ。
「上手そうに食うんだな」
「美味しいので」
「食うところ初めて見たな。女はこんな時間に食ったら太るとか言うけどな」
「今日だけ特別です。普段は食べませんよ」
「トモさんは召し上がらないんですか?」
主役はおまえだろ、とトモは笑う。
なんだか悪い気がしたが、見抜かれたのか、
「じゃあ一口」
聡子が口に運ぼうとした一切れを、手を掴んで自分の口に運んだ。
「ひゃっ」
「ごちそうさん」
「あ……」
なかなかいい味だな、と言った。
「なんだよ」
「……フォークが……」
「あ? ああ、悪い。潔癖か? 気にするのか?」
「……べ、別に気にしてはないですけど」
気にしてんじゃん、と彼は聡子の口元についてケーキのかけらを拭った。
「なっ……」
(距離感どうなってんのよ……)
「潔癖じゃなくて、間接キスが気になるか」
「べ、別に!」
勝手にどぎまぎして馬鹿みたいだ、と残りを平らげた。
トモは涼しげな目で聡子を見ている。気恥ずかしくて見返すことが出来ない。
どうしたのだろう、いつもなら軽口叩いて言い返せるのに。
心臓の音がうるさくなっていった。
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