大人の恋愛の始め方

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【第4部】浩輔編

9.関係(後編)

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「そういえば髪、色入れたんだね」
 浩輔は人生で初めて髪の色を変えた。茶髪かな、と思う程度に明るくしただけだ。市販のヘアカラーで祐策がやってくれた。
「いいね、三原君はカッコいいから似合ってる」
「ありがと……」
 ストレートに言われると恥ずかしいものだ。
 確かに周囲の評判は悪くない。
「……そんなにカッコよくなっちゃったら駄目じゃん」
「え?」
「店の他の子がね、三原君が来てくれたら次は自分が付きたいって言うんだよね」
「え? 神崎さんじゃなく?」
 服を着て、帰り支度をしている時だ。ふいにミサが言った。
「高虎さんとトモさん目当ての女の子、すっごい多いんだけど、倍率高いし」
「あー……」
 高虎の倍率が高いのはよく知っている。女好きなのもよく知っている。しかし、手当たり次第ではないようなのだ。トモ──影山智幸のほうはというと、単純な女好きで、日々誰かと寝ているという話だ。だが誰にも本気にはならない。顔は強面なのに、なぜかお目当てにする女性が多いと聞く。男の自分には何が好みで寝たがるのかはよくわからない。後腐れがないからだろうか、と思ったりもするが真実はわからないし、浩輔は興味が無い。
「だからって三原君を狙うなんておかしくない?」
「はは……前も言いましたけど、俺には何の魅力もないんですけどね」
 そんなことないからね、とミサは背後から抱きついてきた。
「祐策君は、ユキミのお手つきだし」
「あー……うん、そうなんだ」
 やはり、祐策とユキミという女性も関係があるようだ。大人同士だし、遊びだと割り切って、誰にも迷惑をかけていないなら、他人がどうこう言うこともないだろう。
 自分たちも同じだ。
「たぶん、その子、わたしがいない日にもし三原君が来たら、たぶん席に付くと思うから。気をつけてね」
「ああ、うん、気をつける? わかった」
 何を気をつけるんだ、と思ったが素直に頷いた。
「手が早い子だから」
 ミサも充分早かったのでは、と思っても言うわけにはいかない。
「他の子と寝てもわたしには関係ないけど、わたしの知ってる子……同じ店の子とか、そういう子とは寝てほしくないな」
「うん、わかった。……ていうか、俺はミサさんとしか寝てないけど」
「今はそうかもしれないけど、これから先わからないじゃない? セックス覚えたから、わたし以外の人としたくなることもあると思うから」
 今のところそんな予定ないんだけどな、と口にしかけて黙った。
 その代わり、浩輔はこう言った。
「ミサさんも、俺がつまんなくなったら呼び出さなくていいからね。いい相手とか本気の人が出来たら、俺のことは忘れてよ」
「……しばらくはない。そんなつもりない。だから三原君に抱いてほしい」
「わかった、から」
 回された腕に自分の手を乗せた。
 恋人じゃないのに、なんでこんなこと言ってるんだ、と思った。
(恋人でも言わないか……?)
 恋人がいたことのない浩輔は小さく笑った。
「ミサさん、俺、帰るね。遅くなってごめんね。ちゃんと鍵締めて、ちゃんと寝ること。美容に悪いんでしょ」
「……うん。なんかお母さんみたい」
「そうかな」
 お母さんってそんなこと言うんだ、と心の中で思った。
(ミサさんには、そう言ってくれるお母さんがいるってことだね……)
 ドアを閉めて、ミサの部屋を出た。
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