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19.男爵領警備隊の作戦

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「よし、皆タイミングを合わせろ!土壁!」

「「「土壁!」」」

 一列に並んだ200ほどの兵士たち全員が、同じ魔法を発動する。
 地属性の初級魔法、土壁だ。
 地面を盛り上げ壁とするだけの魔法だが、200人で一斉に使えば横に長大な一枚の壁とすることができる。
 兵士たちは100人ずつの2手に別れ、壁の切れ目から先に更に壁を作っていった。
 走っては壁を作り、また走る。
 その繰り返しによって1時間ほど後、2手に別れた兵たちが合流する頃には2キロに渡る切れ目の無い壁が出来上がっていた。

「これは素晴らしい」

「ええ。これなら森からゴブリンなどの魔物が出てきて畑を荒らす心配も大分減ることでしょう」

「あとは人が出入りするための扉をつければ、完璧ですね」

「今日は兵たちも魔力切れでしょうが、後日さらに壁を補強してもいいですね」

 俺と男爵は、男爵領警備隊のみなさんの訓練を拝見していた。
 今日は戦争を想定した野戦築城訓練と称して、一応男爵領の領都ということになっている港町に防壁を作ったのだという。
 壁はせいぜい2メートルくらいの高さしかないが、それでも登ってこちらまで来るような魔物はそうそういないだろう。
 ゴブリンなどはひっきりなしに人里に下りてきて、作物を盗んだり家畜を襲ったりするようだから男爵は以前からなんとかしなければいけないと思っていたようだ。
 しかし柵や壁を作るにはその領民の皆さんを人足として働かせねばならないというジレンマ。
 資材などの金もかかる。
 貧乏な男爵領では、町や村に立派な壁を築くことは今までできなかった。
 しかし男爵領警備隊のみんなが全員初級とはいえ魔法を使えるようになれば、地魔法を用いて壁を築くことができる。
 そしてそれはそのまま戦争の作戦として使える。
 1時間で2キロに渡る壁を築くことができたんだ。
 築城能力としては脅威だ。
 戦争において素早く拠点を作ることができるというのはとても役に立つ。
 羽柴秀吉の墨俣一夜城の逸話は日本でも語り草だ。
 土魔法を使えば同じようなことができるのだ。
 戦争の要点となるような重要なポイントには、敵も陣地を作られないようにと見張っている。
 そこへ行ってぱっと2、3日で拠点を作成する。
 それだけでも戦争の流れというものが変わってしまうこともあるだろう。
 王国軍も俺達の作った砦が惜しくなって援軍を寄こすかもしれない。
 男爵の狙いはそこにある。
 おそらく俺達の回されるのは負けることが最初から決まっているような戦場になるだろう。
 そこを勝てるかもしれないと王国中央の偉っそうな貴族たちに思わせることができれば、手柄を奪うかのように俺達の作った砦に他の貴族が送られてくる可能性が高い。
 貴族というのは奪える手柄は積極的に奪うものだと男爵は語る。
 手柄を奪われるのは悔しいけれど、そのまま戦えば少なくない人数の犠牲が男爵領警備隊には出てしまうだろう。
 わずかな名誉を奪い合って命を削るのは、中央のお馬鹿貴族共に任せておけば良い。
 俺達は名誉よりも明日の飯と酒だ。
 多くの人たちが、また明日も美味いものを食い美酒を楽しめるほうがいい。
 
「あとは魔力量をどれだけ増やせるかですか」

「そうですね。あと1ヶ月でどこまでいけるかわかりませんが、みんなにはちょっと頑張ってもらいますか」

 魔力というのは、筋肉などと同じように鍛えれば増やすことが可能だ。
 兵士のみんなはまだ魔法を使えるようになってから日が浅いので、土壁を一人10枚も張れば魔力は空になってしまう。
 しかしこれから毎日のように訓練していけば出兵の日までに倍程度までは増やすことが可能だろう。
 俺達の作戦は、最初の1日でどれだけの拠点を作れるかにかかっている。
 最低でも夜安心して寝れるだけの拠点を作ることができなければ、200の兵なんてあっという間にやられてしまう。
 そのためには少しでも魔力を増やさなくてはならない。
 幸い神酒には魔力を回復する力もあるようなので、最悪飲みながら築城すればいい。
 酒を片手に拠点作成なんて俺達らしいじゃないか。




 訓練を兼ねた近隣の町村への壁の設置が終了した。
 最終的には港町の防壁の高さは6メートルほどに、村々の壁は4メートルほどになった。
 この高さを超えてこられる魔物はなかなかいない。 
 魔物による農作物や家畜の被害は著しく減ることだろう。
 壁を作る過程で、男爵領警備隊の築城能力や魔力量も増加して一石二鳥だ。
 出兵まであと2週間に迫った今日は、攻撃魔法の訓練を行う。
 
「発動準備!」

「「「発動準備!」」」

「発動!」

「「「発動!」」」

 警備隊のみんなは土壁の魔法によって作られた一段高い位置から、手を下にかざして魔法を発動する。
 見えない砲弾がみんなの手のひらに発生し、一斉に放たれた。
 土壁の下には縛られたゴブリンがグギャグギャ騒いでいる。
 ゴブリンたちは苦しそうに呻き、全員失神した。
 
「なんて魔法だ……」

 誰かが呟く。
 この魔法は俺が考えたオリジナルの魔法といってもいい魔法だ。
 俺の中にはこの世界の魔法に関する全ての知識がある。
 新しい魔法を作ることも難しくない。
 それにこれは難しい魔法でもない。
 ただ単に二酸化炭素を集めて相手の顔付近に飛ばしてやるだけだ。
 大量の二酸化炭素を吸えば中毒死するし、うまく吸わなかったとしても窒息して失神するくらいはするだろう。
 それに二酸化炭素は空気よりも重たいために上から下に向かう性質がある。
 高い位置から低い位置に向かって攻撃するには向いている。
 王国軍が俺達の手柄を横取りしに来るまでの間、戦線を維持できるかどうかというのが俺達の作戦の肝だ。
 時間を稼ぐための作戦を幾重にも立てておく必要がある。
 この魔法もその一環だ。
 ぐったりとして動かないゴブリンの姿を見るに、この魔法はとても使える。
 他にも初級魔法の範囲内で、有用な魔法を作っておくとしよう。



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