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警戒してても懐いても、馬は嘶くものである

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 美味い話は罠がある。厩に着いて気付いたが、ここってギルドの反対側なんだよね。遠い。それに夕方は混むから往来が大変だ。後、井戸は馬と共用。けど部屋自体は宿よりちょっと広いしベッドもある。それに部屋を空けがちになるので鍵もしっかりしたのが付いていた。何より馬が警戒して鳴く。俺達が厩に着いた時点でヒヒンブヒヒン鳴くもんで、お休み中の御者さんが降りて来ちゃった程だ。
 罠と賃料を秤にかけて、即決した。

「賃料は毎月末に冒険者ギルド証から引き落とされますので、必ずお金を入れておいて下さいね」

 商業ギルドに戻って事務処理をし、手数料の1万ヤンを支払い鍵を受け取った。今月の分は後10日分なので6667ヤンだそうだ。
 念願の一人暮らしをする事になったが、露店街へ向かい歩いているうちに、色々と物入りな事が発覚してきた。まずは食事。昼飯のソーサーはあるので串焼きを買う。ここまではいつもと変わらない。変わるのは夕飯からだ。
 今夜は酒場で良いとして、朝飯どうしよう。酒場でソーサー買って朝食べれば良いか?朝昼ソーサーのみは悲しくなるな。冷めても食べられるスープも買うか。
 夜と言ったら明かりが無い。宿では部屋の外にランタンがかけてあって、それを部屋に持ち込んで照らすのだが、ここではそんなサービスは無い。ランタンと油、火を付ける道具も必要だ。これは野外でも使うな。
 野外と言ったら調理道具も皿も無い。今の手持ちは寸胴鍋とコップ、後はナイフか。いつか見た携帯用コンロとか欲しいな。それに皿とスプーンとフォークも…。

 色々欲しい物を考えながら露店を周り、2つの店で皿とカトラリー、油と火口と火打石を買えた。総額3500ヤン。そして串焼き300ヤン。
 皿とカトラリーは木製で、どこにでもある普通のやつ。お店で買うと○枚セットでいくら…って感じになるので単品で買えたのはありがたい。油は2000ヤン。1ナリ入って瓶付きでこれならぼってない。しかも火口と火打石はおまけで付けてくれたんだよ。火口は木箱入り。良い買い物をした。
 油を買った時にランタンの事を聞いたら、道具屋で新品買った方が先々良いって言われた。大通りに面した道具屋しか知らないけど行ってみる事にした。

 大通りの道具屋はやはり高かった。新品だし、装飾が派手で好みじゃない。逆に携帯用コンロは板金いたがねを組み合わせただけのシンプルさで投げ売りされていた。火に当たるとどうしても弱くなるので買い替えの頻度が高いからだそうだ。どちらも買わない事にして、困った時はあそこに行こう。

「いらっしゃい、坊や。今日はメンテナンスかしら?」

 やたら声の低い中古防具屋に来たよ。森の中を歩いたし、靴をお願いしようとしたら全身《洗浄》された。やはり俺は臭いのか?

「ありがとう。俺Cランクになったからダンジョンに潜ろうと思ってるんだ」

「あらおめでとう。早めに金属装備を揃えるのよ?特に靴は重要だから、覚えておいて」

「分かった。装備もそうだけど、準備する物が多くて今いろいろ探してる所なんだ」

「売ってる店を聞きに来たのね、嫉妬しちゃうわ」

「ランタンあれば買うよ?」

「残念ね、うちは防具屋よ。けどランタンなら…」

 奥の部屋、多分倉庫に行ったんだな。しばらくして四角い物を持って来た。

「私のお古よ。あげるわ」

 四角い箱の隣合う側面には観音開きの扉が付いていて、これを開閉する事で光量を調節する事が出来るそうだ。その代わり一方向しか照らせないようで、ダンジョンの為に作られたような代物だった。

「店主さんは冒険者だったの?」

「うふ、ないしょ。私だと思って壊れるまで使いなさい」

「壊れたら嫌だから大事に使うよ」

「良い子ね。無事で帰りなさい?」

 お礼を告げて店を出た。部屋で試してみたいけど、まだ昼飯も食べてないので待たねばならない。串焼き買って帰った。

 厩の前で馬が鳴く。本当セキュリティはバッチリだな。1頭1頭前に立って自己紹介して鼻面を撫でてやると、幾分か大人しくなってくれたよ。

「誰だ?」

 またお休み中の所を起こしてしまったようだ。挨拶して、ここでの生活の仕方など聞いてみた。自炊したりお茶を淹れたりもするそうで、竈や簡易コンロの事も教えてもらえた。御者の人は新人冒険者より野外活動の経験が豊富なので、いろいろ聞けて勉強になったよ。自分を照らさないランタンは相手に自分の姿を見えにくくするとか、簡易コンロはほとんどダンジョン用で、野外だと地面を掘ったり石などで竈を作るのだとか。地面に釘三本刺して五徳にしたりするんだって。後は、室内でお湯を沸かす時は炭を使わないと煙で死ぬとか。ちなみに炭は野外で使った消し炭を集めとくんだって。石炭の活用先が見つかりそうだね。おすすめの酒場も教えてくれたので、夜になったら他の御者さん達と一緒に行く事になった。
 お礼を言って2階に上がり、ベッドに布団が付いてない事に気付いてしまった。買いに行くのも面倒なので、今夜はポンチョ被って寝る事にして、まずは昼飯のソーサーと串焼きに噛み付き攻撃を繰り返した。

 夜になり、仕事を終えた人達と、本日休業の人達が集まって、みんなで酒場に繰り出した。
 酒場と言ったら酒。とりあえずエールの掛け声でみんなエールを頼んでる。エールは飲むソーサーって言われてて、御者の人達はみんな焼肉とエール2~3杯で1回の食事って感じだった。食べるソーサーは朝と昼にしか食べないんだって。俺は食べるソーサーと焼肉とスープと水。生活習慣はなかなか変えられるもんじゃないからね。
 帰り間際、ソーサーと干し肉を買って、テーブルに置かれたランタンからもらい火して帰るのがルーティンワークみたいだ。俺もそれに倣いソーサーと干し肉を買ってランタンに火を付けた。

 朝昼晩の食費は1400ヤン。ソーサー3枚200ヤン×3食分で600ヤン、焼肉300ヤン、スープ1杯100ヤン、干し肉2食400ヤンと言う内訳だが、ソーサー買い過ぎた感じ。俺は2枚で良いから次からはもう少し安くなるかな。ちなみに御者さん達が飲んでたエールはでっかいジョッキに並々注がれて200ヤンだった。

 翌日、と言うか今はまだ夜明け前だ。御者の朝は冒険者より早い。馬のお世話があるからだ。家にも馬が居るから慣れてるが、久しぶりに馬の嘶きで起こされたのはなんか懐かしい感じがするよ。
 今日からしばらくダンジョン日帰りツアーだ。慣れるまではじっくり行こう。干し肉とソーサーを齧りながら装備を着けたら、鍵をしっかりかけて厩を出た。

 ダンジョンはこの街の西門から街道を進み、休憩地を超えた先、遺跡と宿屋しかない集落にある。正しくは、遺跡の周りに宿屋が出来た集落だ。ここの宿はめちゃくちゃ高い事で有名で、ダンジョンに潜った事のある冒険者は必ずダンジョン宿の愚痴を零す。俺がここの宿を無視して賃貸を探した理由もそこにあるのだ。走って走って集落へ向かい、朝日が山から出てきた頃には到着できた。

 地下に降りる階段の前には雨避けの屋根が建ち、衛兵が二人並んでる。その横には記帳所があって名前を書いたりギルド証を見せる事で中に入る事ができる。その反対側には簡易買取所もあって、重い物や壊れやすそうな物はさっさと捌いてしまうのだそうだ。

「こんにちはー。今日からしばらく下見です」

「ギルド証を出すのだ。死ぬ前に逃げて来い」

 ギルド証を機械に通して返却される。コレでよし。帰りも必ずこれをやらないとダンジョンから出てない扱いになってとても困るらしい。なので忘れてはならない。
 記帳を終えたら端っこの方で火口と火打ち石を使って種火を作り、小さな焚き火を作る。ランタンに火を灯すのだ。ランタン持って、武器も携え準備よし。衛兵に挨拶して中に入って行った。


 ダンジョンの中は、暗い。階段を下る時から既に暗く、下の階に着いて天井が見えなくて焦る。上から来たら見えないな。

「外で松明でも作ってくれば良かったか?」

 上の方も見れるようになるかも知れんが、下手に炙ると敵を増やす事になりかねないのできっとやらなくて正解だろう。ランタンで通路を照らし、上下左右をキョロキョロしながら通路を進んだ。

「ギャッギャ!」

 一本道での遭遇戦は殺らざるを得ない。しないと来たばかりで帰る事になるからな。まだ明かりの範囲に入らないがヒタヒタペタペタ近付いて来るのは分かる。察知と探知で確認すると、通路の端をゴブリンが1匹ずつ、2匹居るのが分かった。あれ?ランタン、無くても…。
 ランタンを置いたら、両手をかざして一斉射。2匹の眉間を抉って戦闘修了だ。金銀チップの効果たるや、白チップ1000枚とかアホかと思う程だな。けど1度やり始めたら辞める事などできない。麻薬みたいだ白チップ。
 死んだゴブリンはチャリンと袋を残して消えた。今回は臭い袋だったが、時にはナイフやチップを落とすらしい。拾わないとこれらも消えるらしいので拾って中身だけ布カバンに放り込む。小石もちゃんと回収しなきゃ!

 地下1階なんてゴブリンしか居ないのだが、それでも宝箱は湧くようで、俺の目の前にデンっと置いてある。中身に期待しても詮無き事なので、箱を収納して小部屋を出た。
 実はこの箱、俺ん家にもいくつかあって、服とか食料、お金なんかを入れてたりしてたのだ。ダンジョンの浅層せんそうでは箱の中身なんてしょぼい薬草や小銭程度にしかならないが、箱は1000ヤン程になる高級品なのだ。この重くてかさばるのを持って帰れれば、ね。マジックバッグさまさまだ。

 地下1階を歩き回り、いつの間にか湧いてるゴブリンを臭い袋やチップに変えて、下へ向かう階段も見つける事ができた。仕舞っていたランタンを出して昼飯のソーサーと干し肉を齧っていると、下から誰か歩いて来たみたい。階段を上がる足音が聞こえた。

「な!誰だお前は?」

「昼飯中のゲインだけど?」

「冒険者だね?びっくりさせんでないよ!?」

「お前らもな。人だと分かってまだ殺意を向けるのか?」

「ちっ」

ガガガガガッ!

「な、なんだい!?」

 敵意を持った相手には、何があっても容赦するな。冊子にも書いてあるくらいの常識を実践しただけなんだけどね。前衛と思われる男に石大を射出しながら威圧をかけて、顔や手足、そして股間にダメージを与え、ダガーで顎から頭頂部へ向けて串刺しにしただけだ。狼狽えてる女にも小石大を射出し、剣鉈を脳天から突き刺した。

「やったか?」

 下の階まで転がって行った2人を追いかけ、倒れた2人の爪先を足で触り収納した。男の方は装備が重く、収納できない事に焦ったが、先に鎧をひん剥くように出し入れしたら収納する事が出来た。どうやら無事、殺れたようだ。
 貴重な石もできるだけ回収して上に戻り、ゴブリンを屠りながら外に出た。

「ふぅ~…」

「無事らしいな」

 入口を守る衛兵さんに労いの言葉をいただいた。

「死にかけましたよ」

「ゴブリンで苦戦するなら外でやった方が良い」

「人に襲われたんですよ。まともに殺りあってたら身ぐるみ剥がされてました」

「よく逃げおおせたものだな」

「殺しましたよ、外にまで追いかけて来たら嫌なので」

 衛兵の笑みが凍りついた。

「そ、そうか。気を付けて帰るのだぞ」

 それでも労ってくれる衛兵さんにお礼を言って、記帳所で処理を済ませて集落を後にした。時間には余裕はあるけどゆっくりし過ぎると門が閉まっちゃうからね!

 がっつり走って西門へ。そこから更にギルドへ走る。さすがに1日動くと疲れるな。けど早めに行かないと混むからなー。
 今回は買取りより先に受付に向かう。マーローネが対応してる相手を無視してこちらに手招きしているよ…。多分、違う列に並ぶと交代するだろうし、仕方なくマーローネの列に並んだ。

「こんにちはゲインさん。何かありましたね?」

 鋭いなー、さすがプロだ。まあ、何も無ければ買取りに直行だからな。

「ダンジョンで人に襲われた」

「ご無事で何よりです」

「死体検めあらた 宜しく」

 珍しくマーローネの目が開いた。が、すぐに閉じてため息をひとつ。

「今回はいつもの部屋で構いませんよね?」

「仕方ないね」

「では交代するので列を出てしばらくお待ち下さいね」

 カウンターを離れて壁際に立っていると、少しして交代したマーローネが2階に上がって行くのが見えた。

「ゲインさーん」

 壁際に立つ俺の更に後ろから声がした!…と思ったら窓の外にメロロアが立ってたよ。俺完全に死んでたな。疲れてるなー。

「死人に何か用か?」

「生きてるじゃないですか。それに今日はたまたまです!私はこれから夜勤なんですよ」

 依頼の報告は夜には無くなるが、買取りは深夜までやってるそうで、今日からしばらくメロロアは夜勤が続くそうだ。話してないで早く仕事に向かえよ。

「ゲインさん。あら、メロロアもいるのね。丁度良いから貴女も来て。ゲインさん、お部屋へどうぞ」

 勝手知ったる尋問室に入り、椅子にかける。

「ついにゲインさんもやらかしましたか」

「何をやらかしたのか分からないけど殺ったは殺ったね」

 何故か嬉しそうなメロロアに茶化された。マーローネがお茶を持ってきたけど飲みたくないなぁ…。

「とりあえず状況を説明するよ」

 対面に座り、紙とペンを用意するマーローネの準備が整い説明を始めた。

「…それで、2人を殺して来たと。死体は出せますか?」

「ここで出して良いなら」

「よろしくお願いします」

 空いてる床に2人を並べる。女はそのまま、男は鎧の無いまま出した。

「ゲインさんは甲斐性のある方なのですね」

「どう言う事だ?」

「強姦くらいしてても問題にはしませんよ?」

「しないよ。ダンジョンの中で弱点を晒すなんて馬鹿のする事だろ」

 メロロアはそう言う世界で育ったのか?村人育ちの俺には理解できないよ。エッチは安全な所でするものでしょ?した事ないけど。
 メロロアは変態さんなのかも知れない、なんて考えてるうちに調べ終わったようで、首にかけられたギルド証が2枚、机に乗せられた。

「冒険者だったのか?」

「私は見た事ない顔ですね。メロロアは?」

「同じく。ギルド証を確認してみましょう」

 メロロアはギルド証を手に取ると、機械のある壁側の席で作業を始めた。

「…成りすましですね」

「どゆこと?」

「Cランクに上がった冒険者からギルド証を買ったり貰ったり奪ったりしてその者に成りすます悪党って事です」

「へー、よくわかったな」

「2人共男でしたから。まあ、そう言う趣味嗜好の者も居るでしょうけど、この女はちゃんと女でしたから」

「女だと思って強姦しようとしたら男でした、なんてネタとしては面白いな。話せるネタじゃないのが惜しいが」

「さて、この2人の身元は分かりませんがギルド証の不正使用である事は確認できました。野盗と同じ扱いですのでCランクの条件を満たせましたよ?おめでとうございます」

「ゲインさん、Cじゃないのにダンジョン行ったのですか?」

「それは後で私が説明してあげます。この者達の持ち物はこの程度ですか?」

「ああ、回収したのは男の鎧と剣だけだね。マジックバッグは死んだら消滅だろ?惜しい事したな」

 剣と鎧を床に出して見せてやる。メロロアがメガネかけて鑑定してるよ。

「これはオーダー品ですね。作者の銘もありますし、偽名でなければ追えるかも」

「悪党のくせにオーダー品?金持ちかよ」

「作者が生きてる事を祈りますよ」

 追える、って事はこの悪党が徒党の一味の可能性を見てるのか。まあ、小悪党が鎧をオーダーとかちょっと考えられんがな。しかしな…。

「なあ、なんでコイツのオーダーだと思ったんだ?中古防具屋で買ったかも知れないだろ」

「中古に入った時点でその店の銘を入れる決まりです。ゲインさんの防具にも入ってるはずですよ?ちなみに武器には入りません」

 剣鉈を出した俺に温かい眼差しが注がれる。けどこれ、銘だよな?…まあ、良いか。カエルのポンチョの内側、背中に2つの銘があるのを見つけたよ。1つは…フラウバー…かな?かすれて読みにくい。もう1つはジョーニアス・デロン。これが中古防具屋だな、初めて知った。

「これが街の子供にカエルびと現ると言わしめたカエル装備ですか。どれどれ…」

 勝手に鑑定すんな。

「これ、ニアさんの店で買ったのね…。で、その前は…フラウバー…?え?フラウバーさんのお爺様!?すっご!」

 やたら声の低い店主さんはニアと呼ばれてるのか。しかしジョーニアスとはなかなか男らしい名前だな、女の人なのに。
 フラウバーさんのお爺様は知らない人だが聞いた事あるようなないような…。

「何が凄いの?」

「ゲインさん、Sランクのフラウバーさんは知ってますよね?」

「ふらうばー…」

「破壊王、ディレッツ・フラウバーさんですよ?」

「破壊王…!王様か!」

「ぷ、王様ですか。その王様のお爺様で、とても優秀な皮職人がこのカエルの製作者さんです。新品だと目が出る程高いんですよ?」

 マーローネは淡々と、メロロアはニヤニヤしながら説明してる。

「6000ヤン…だったかな」

「うわぁ…」

「ニアさんの売値、安過ぎ」

「王様の一族には足向けて寝られないな。後で買取りに持って行く予定だったんだけど、ダンジョンの回収品も買い取ってくれ。箱を拾ってきたんだ」

「中身は?」

「まだ見てない。地下1階だし、ろくなもんじゃないだろ」

「確かに。メロロア、見てあげて」

「はーい」

 箱を出して、メロロアが鑑定してる間にゴブリンのドロップを出そうと思っていたら、メロロアとマーローネが凍り付いた。
 中身が入っていたらしい。

「何か入ってたのか?」

「ゲインさんなら小躍りするかも知れませんよ?」

回り込んで、メロロアの後ろから箱の中を覗くと、箱の中みっちり詰まったスキルチップだった。

「なんだそりゃ。つか何だこりゃ?」

「誰かが後で売るために保存していたとか?」

「ありえる話だけど家に保管すれば良いだけの話よね。ゲインさん、これは売らない方が良いですよね」

 買うより安いし、諦めて引き取ろう。ゴブリンからのドロップ品を机に並べ、マジックバッグの中身をできるだけ空にしたら、箱の中身を片っ端から収納した。7種入ると収納できなくなるのでその都度外に出し、まとめる事27種類。
 雑多なチップも紐でまとめたりカバンに入れて収納すると1つの塊と認識されるので少し便利だ。

 そんな事より、俺はまた引きこもらねばならんのか…?
 呆然とする俺を横に、ゴブリンのドロップと箱の鑑定が終わり、黒板に値段が書かれて差し出された。

トレジャーボックス 品質並 1箱×900ヤン 900ヤン
ゴブリンナイフ 品質低 22本×50ヤン 1100ヤン
臭いお金 品質並 6258ヤン
総額 8258ヤン

「あ、お金も出しちゃってたか。全部振込みで頼む」

「この2人の装備は後日鑑定の上で支払われますので少しお待ち下さいね?」

「売られたくない物とかはありますか?女性の下着とか」

「履かないよ?」

「メロロア、下ネタはそろそろ止めなさい。この者達には当てはまりませんが、人の物をすぐに使うと殺して奪った扱いをされかねませんので、全て売りにするのが一般的です。ゲインさんなのでスキルチップがあれば残しておきますね」

 何がゲインさんなので、なんだ?まあ買うより安いから貰うけど。出し切った荷物をまとめ、収納したらギルドを出た。家まで遠いけど、風呂まで近いと思えば気が楽だ。飯を食うのに外に出なきゃいけないし、宿より高いので気が重い。厩に着くと馬がスリスリしてくれて気が休まる。みんな撫でて欲しいみたいでヒヒンヒヒンと始まってしまった。撫でてあげるので気を静めてくれ…。

「お、やっぱりゲインか。おかえり」

「騒がしくしてすみません」

「良いさ。お前馬に好かれてるよな」

 俺の左右にいる馬は俺の体に顔をスリスリ。離れた馬達は地面をカリカリ。離れるにつれてガリガリ、ブヒヒンヒンと変わってく。

「馬は家で飼ってましたからね。背が届かなかったので餌やりと掃除しか出来なかったけど」

 なでなで行脚の2周目をしながら、馬談話に付き合った。スリスリなでなでべろんべろん。飯の前に風呂に行こう。後ろ髪をハムハムされて部屋に戻った。
 荷物を降ろして服を着替えて金とタオル、油を補充したランタンを持ったら馬達に見送られて風呂屋に直行した。湯に浸かって溶けだした辺りで洗濯物があったのを思い出し、考える事を、止めた。後は飯食って寝るだけだし魔法でやってやる!
 湯上りのその足で昨夜の酒場に行き、焼肉とソーサーと水。帰りに干し肉とソーサーを2セット買い、ランタンに火を付けて帰宅した。ただいま馬達。
 洗濯物を集めたら、洗濯魔法を…、さすがに部屋ではできないので外に出た。また来たよ馬達、使ってない飼葉桶を借しておくれ。
 まずは桶にウォッシュをかけると、桶全体がバシャバシャしてしっとりした。飼葉のカスが消えているが、洗い物以外を溶かす魔法の液体なのだろうか?水気は普通に水だった。
 桶に洗濯物を押し込んで再びウォッシュ。やはり桶まで洗ってる。しっとりした桶と洗濯物になった。ステータスを確認したらMPが16%減っていた。1回で8%減るみたい。デリートウォーターも確か8%だったよな。桶に入った洗濯物をデリートウォーターすると、桶ごとカラカラになった。洗濯物が、桶の形に固まってシワシワだ…。平たくのしてからやるべきだな。板があると便利そうだ。汚れが無くなったので今回はこれで満足しよう。キレイになった飼葉桶を返して部屋に戻った。おやすみ馬達。

 とは言えまだ寝る訳にはいかない。戦利品の仕分けがあるからね。箱に入ってた27種類の他に、数は少ないがゴブリンからドロップしたチップもあるのだ。全部ひっくるめて種類と数を検めよう。床に座ってチップを出す。ゴブリンから出たチップは布カバンに、箱から出たのはリュックと草編みカバン2つ、更に寸胴鍋にも入れてギリギリだった。

ウサギ 3266
ハシリトカゲ 3047
ハチ 2726
カメ 2500
石 1201
スライム 1024
鳥? 861
サル 622
オオカミ 583
腕 441
脚 424
体 423
棒 420
ナイフ 358
蝶 199
花 160
水滴 158
立方体? 25
ハチS 5
トンビ?S 3
ヨロイトカゲS 2
石S 2
脚S 1
水滴S 1
ナイフS 1
ワニS 1
ウサギG 1

 か…、数え切った…。全部で18455枚。仕分けはマジックバッグに7種類入るのですぐに終わったけど数えるのがとにかく大変だった。何だよウサギ3266枚って!他にも星2がいくつもできちゃう枚数だよ!
 知らない白チップはサイコロ型のが25枚。色からして箱では無いよな。
 銀チップは全て箱からなんだけど、8種類も入ってた。しかしハチとか石みたいに白チップと同じ絵柄で色違いなのがある。トンビっぽいのもあるし、ブラウンさんだけでなく、ダンジョンまでもが俺を飛ばそうとしているのか?ヨロイトカゲやワニはコレクションしたくなる気持ちが分かるね。かっこいい。
 そして金チップ!銀を飛ばして金でウサギが来るとはさすがウサギである。ヘビロテの走るはどれだけあってもありがたい。

スキル : 走る☆ 走る☆ 走る

走る : 早く移動する為のスキル。速度が僅かに増し、更に僅かに増し、更に大幅に増し、体力の消耗を僅かに抑え、更に僅かに抑え、更に大幅に抑える。

 大幅!移動が早くなって疲れなくなったのはダンジョン通いするにはとてもありがたいぞ。しかし白も金も表示は同じ走るなのでちょっと分かりづらいな。ウサギとトカゲで3種類あるなら、走るが6つ並ぶ事になる。他にも走るチップがあるかも知れないし。

スキル : 刺突☆ 刺突

刺突 : 刺突武器を効率よく扱う為のスキル。攻撃速度と命中率が少し増し、更に少し増し、無駄な動きを少し抑え、更に少し抑える。

スキル : 硬化☆ 硬化

硬化 : 攻撃を受ける為のスキル。装備と肉体の防御力が僅かに増し、更に少し増し、痛みを僅かに抑え、更に少し抑える。

スキル : 投擲☆ 投擲

投擲 : 投擲武器を効率よく扱う為のスキル。投擲速度と命中率が僅かに増し、更に少し増し、無駄な動きを僅かに抑え、更に少し抑える。

スキル : 脚力強化☆ 脚力強化

腕力強化 : 脚力を強化するスキル。脚力が僅かに増し、更に少し増す。

スキル : 噛み付き☆ 噛み付き

噛み付き : 効率よく噛み付く為のスキル。攻撃速度と命中率が僅かに増し、更に少し増し、無駄な動きを僅かに抑え、更に少し抑える。歯の強度が僅かに増し、更に少し増す。

スキル : ナイフ格闘術☆ ナイフ格闘術

ナイフ格闘術 : ナイフを用いた格闘術を僅かに強化し、更に少し強化するスキル。

スキル : 水魔法☆ 水魔法

水魔法 : 水魔法を扱う為の基礎、初級スキル。
ウォーター : 魔力を消費し水を発生させる。
ウォッシュ : 魔力を消費し対象を洗浄する。
デリートウォーター : 魔力を消費し対象の水分を消滅させる。

ウォーターバレット : 魔力を消費し水の弾を射出する。
ウォーターウォール : 魔力を消費し水の壁を発生させる。
ボーグ : 魔力を消費し対象の土壌を泥に変える。

 銀チップの結果はこのようになった。以前掠れて絵柄の見えなかったチップは、新たなスキルが発生しなかったのでトンビだと思われる。他のチップも今あるスキルの上位互換ばかりだった。
 水魔法は初級となり、使える魔法が3つ増えた。ただ、収納した水を射出するのと、魔法で射出するので何が違うのだろう?どちらもやった事が無いので試してみなければ。

スキル : 土魔法

土魔法 : 土魔法を扱う為の基礎スキル。
ソイル : 魔力を消費し土を発生させる。
サンド : 魔力を消費し砂を発生させる。
ストーン : 魔力を消費し石を発生させる。

 初見最後の白チップである立方体は土魔法だった。はっきり言って扱いに困る。農家的に言えば土は養分次第でピンキリだし、陶器を作るにしても良し悪しあるだろう。せいぜい野糞して上からかける程度にしか使えなそう。砂もね。石は河原にいっぱい落ちてるが、弾切れした時の予備としては使えるかも知れない。まあ、魔力次第かな。星が付けば消費魔力も減るだろうし、あるだけ使って今日は寝る。おやすみなさい。



現在のステータス

名前 ゲイン 15歳
ランク C/-
HP 100% MP 76%
体力 D
腕力 E
知力 E
早さ D-
命中 E-
運 D

所持スキル
走る☆ 走る☆ 走る
刺突☆ 刺突
硬化☆ 硬化
投擲☆ 投擲
急所外物理抵抗☆☆
飛躍☆ 飛躍
木登り☆
噛み付き☆ 噛み付き
腕力強化☆
脚力強化☆ 脚力強化
知力強化☆
体力強化☆
ナイフ格闘術☆ ナイフ格闘術
棒格闘術☆
短剣剣術☆
避ける
魅力

鎧防御術
察知
探知
マジックバッグ

魅了
威圧

水魔法☆ 水魔法
ウォーター
ウォッシュ
デリートウォーター
ウォーターバレット
ウォーターウォール
ボーグ

土魔法
ソイル
サンド
ストーン

所持品

革製ヘルメットE
革製肩鎧E
革製胴鎧E
皮手袋E
皮の手甲E
混合皮のズボンE
皮の脚絆E
耐水ブーツ
耐水ポンチョ

草編みカバンE
草編みカバン2号
布カバンE
革製リュックE

木のナイフE
ナイフE
剣鉈E
解体ナイフE 
ダガーE
革製ベルトE

小石中328
小石大☆450
石大12

冒険者ギルド証 394300→392058ヤン
財布 銀貨9 銅貨54
首掛け皮袋 鉄貨31
部屋の鍵
 
冊子
寸胴鍋
コップ

カトラリー
ランタン
油瓶
着火セット
中古タオル
中古タオル(シワシワ)
中古パンツ(シワシワ)
パンツE
ヨレヨレ村の子服セット(シワシワ)
サンダル
革靴E
街の子服Aセット(シワシワ)
街の子服BセットE

スキルチップ
ウサギ 3266/3974
ウサギG 0/1
ハシリトカゲ 3047/3167
ハチ 2726/2859
ハチS 0/1
カメ 2500/3175
ヨロイトカゲS 0/2
石 1201/1854
石S 0/1
スライム 1024/2025
鳥? 861/1360
トンビS 0/4
サル 622/764
オオカミ 583/942
ワニS 0/1
蝶 199/204
花 160/161
腕 441/542
脚 424/525
脚S 0/1
頭 0/101
体 423/524
棒 420/521
ナイフ 358/459
ナイフS 0/1
短剣 0/101
鎧S 0/1
袋S 0/1

水滴 158/395
水滴S 0/1
立方体 0/25

魅了目S 0/1
威圧目S 0/1
頭三本線S 0/1
頭三本線G 0/1
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