すぐ死ぬ女王これで最後にいたしましょう

ろろる

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第十三話 父の本音

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……きゃあああ、すごいことになってしまった。
私、コルゼが好き……。
キスもしちゃったし、王配になってもいいと言ってくれた。かっこ、よかったなぁ……。
ベッドで足をバタつかせながら、眠りについた。

「で、いいお相手には巡り会えましたか」
翌日、イグレット公爵にしかめっ面で聞かれた。

「……その」
言って、大丈夫…?
「はい」
「あの中にいなかった相手でもいいのですか」
「と、いいますと?」
「もちろんお相手は貴族の方です。」
「……誰か申し上げて下さい」
「……コルゼ・アルティア様」

「……なるほど。王宮専属医のコルゼ・アルティア殿ですか」
「ダメでしょうか?彼は公爵家の人間でしょう?
王宮専属医なので聡明な方ですし」
「……私としては何も言うことはありません。
ですが彼は側室の子。アルティア家が良しとするかどうか…」
「……それも、確かにありますね。
1度レオンハルト様の求婚を断ったこともありますし」
「は!?初耳なのですが!?」

「す、すみません」
「んー…、コルゼ殿は良しとしているのですか」
「告白、してくれましたの。私も好きですわ」
「両思い…ですか。アルティア公爵と話をしなければなりませんね」
「すみません公爵。ご迷惑を」
「いいえ。素敵なお相手に巡り会えたようで何よりでございますよ。……ですが、ティーヌ家のアザナス様が強くあなたを所望しているとか。
アザナス様はティーヌの正室のお子ですし、若干ですがアルティアより力がある家です。」

「……それは望みません。」
「御意に。お心は決まっているのですね」
「はい。」
「それは何より。では失礼」

……これでいいのかな。
確かにイグレット公爵が言う通り、ティーヌ家の方が力は大きい。
でも、決めている。私は、コルゼと一生を共にすると。
ならば迷うことなし!

「国王陛下の元へ参ります。」
「はいスノーリリー様。公爵とのお話は済んだのですか?」
「ええ。行きましょう」

庭園を通って、王の間途中、ふと思った。
……そういえば、コルゼと初めて会ったのもここだよね?

「あー!スノーリリー様!」
「!アザナス……」

何でここにアザナスがいるんだ……?
別に来るとかそういう予定なかったよね?

「会いたかったよ。」
満面の笑みで微笑まれる。
「嫌ですわティーヌ公子。今から王女殿下は国王陛下に拝謁しますの。ご用なら私が聞きますけれど」

カヌレぇ…!救世主すぎる。
「あれー、アルティア家のカヌレ嬢じゃん?
スノーリリー様の侍女になったんだっけ」
「ええ。」
「僕スノーリリー様に用があるんだけど」
「おほほほ。拝謁に向かわれる途中だと説明しませんでしたっけ?」
「えー、そうだっとかな」

待って2人の空気黒すぎない?
よく漫画であるバチバチバチってやつが見えるくらいなんだけど…。
まぁ、ちょっとだけならいいか。

「……ティーヌ公子、少しだけですよ」
「ありがたき幸せにございます。じゃあ少しだけ借りますね」


「……アザナス。用って何?戻らないといけないから早くして頂戴」
「リリー冷たくない?…見ちゃったんだけど、
リリーってあの王宮専属医と両思いなんだね?」
「!」

見ら、れてた?
「……」
「沈黙は肯定と判断しまーす。ねぇリリー。
あいつのどこがいいの?」
「こ、コルゼはっ…、先生は、私にすごく優しくしてくれる。弱さも、全部受け止めてくれる。
そんな、あの人が好きなの」

まっすぐな瞳でアザナスを見た。
「ふーん、本気、なんだね。」
「うん。…用ってそれだけ?」
「それだけって、ひどいよリリー。」
「うわっ!」

壁に体を押し付けられる。
壁ドン……ですか。

「リリーの弱さも、痛みも、全部全部、僕だって受け止めてあげられる。君にずっと優しくするよ。
ねぇリリー…、僕じゃ、ダメなの?」

アザナスが、ほわんとしている雰囲気でなく、真剣な顔を見せた。

「……ダメだよ。」
それに苦笑いした。

「何で!?僕の方がリリーのことよく知ってるじゃないか!!小さい頃から、僕の方が……」
「ごめんね。私の1番辛い時、側にいてくれたのは、コルゼだから」
「……」

「何してるんですか、アザナス」
「!コルゼ…」

い、いやだ。こんな所、見られた。
「へぇー、コルゼじゃん。久しぶりぃ……」
「そうですね」
「何、怒ってんの」
「怒ってます」
「……ティーヌがアルティアより力持ってるの知ってるよね?国のためを思って身を引いてくれない?」

「アザナス!!」
「……引きません。悪いですけど、国のため、とかどうでもいいんで」
「それ次期王配が言っていいやつなの?」
「俺がスノーリリー様と結婚するのは国のためじゃなくて、スノーリリー様を愛しているからです。
国のためでなく、これは自分のためだ」
「!!」

「……僕だってリリーのこと好きだから求婚してるんだけど…、でもちょっと意地悪しちゃったね。
言っとくけど、諦めたわけじゃないから。」
そう言ってアザナスは去っていった。
……一件落着?

「スノーリリー様」
「!」
声が、怒ってる…。顔は笑ってるのに……。
何か、前世お母さんに怒られてる時思い出す…。

「ちょっと、いいですか」
「は、はい。…ひゃっ」
ななな、何で抱きしめられてるんだ……!?
怒ってるんじゃないの!?

「あの…、怒ってる?」
「怒ってますよ。めちゃくちゃ」

やっぱりぃぃぃ。
「あの、スノーリリー様。確認しますけど、
俺たち、恋人同士、なんですよね」

い、一人称がさっきから俺になってる…。
いつもは私なのに……。なんか本気って感じがして、すごくドキドキする。

「は、はい。」
「…今初めて自分の境遇を恨みました。
俺は、側室の子だから」
「そんなっ!そんなこと、どうか言わないで…」
「だって、正室の子であれば、すぐにでも婚約出来たのに」
「あなたが側室の子供でなければ、王宮専属医になることもなかったでしょう。だから、そんなことを言わないで。」
「…はい」

「よし、では戻りま……」
「まだ終わってません」
「え、んっ…ふっ…」

ちょ、こんな所でキス!?
「ちょ、コル…ゼ…んんっ」
し、舌が……

「んむっ…、ぷはっ」
や、やっと離してくれた……。
「わっ」
やば、腰が抜け…
「おっと。……まだ」
「んっ…」

唇を重ねる度、キスは甘くなっていく。
こんな感じ、初めて……。
キスから、愛情が伝わってくるみたいで、何だか気持ちよくて、ふわふわした気持ちになる。

「……ご馳走様でした」
「ぷはっ…、は、あっ……」
「あの…、あんまりそそるような顔しないで下さい…。我慢、出来なくなる」

コルゼの火照った顔を見て、すごくゾクゾクする。
ていうか、自分でしてきたくせに…。

「あなたが他の男の名前を呼ぶ度、どれ程嫉妬に狂ったか……。それに、アザナスにはリリーって呼ばれてるんですね」

「そ、それはアザナスは幼なじみだから…」
「じゃあ、恋人である俺にも、愛称で呼ぶ権利を下さいますよね」
「……コルゼがそうしたいなら」
「リリー…」

もう一度優しく抱きしめられた。
「はやく、リリーと結ばれたい。
そうすれば、リリーを欲しがっていいのは、俺だけになるのに。わがままだって分かってる。……あなたを離したくない」
「私も、離れたくない…。でも今からお父様の所へ参りませんと…」
「国王陛下の元へ私も参ります。」 
「あら、本当に?」
「はい。行きましょう」

……待って、カヌレにこのこと言ってない。
コルゼって、カヌレの弟だよね……。
あ、やばい

「お帰りなさいませスノーリリー様。…あら?
今日はご結婚相手のことで陛下に拝謁しますのよね?…何故コルゼが?」
「……えっと…」
「あー…(察し)」

「もう!何でそんな大事なことを教えてくれないのですか!」
「てっきりティーヌ公子がそのお相手なのだと思っていましたよ。」

「ご、ごめんね。ネア、シャルド、カヌレ。
拝謁が終わったら話そうと思ってたんだけど、コルゼも一緒に来てくれるって」
「そうでしたか。では参りましょう」

今日はお父様の調子が良いらしく、王の間の玉座に座っているとのこと。
……うう、着いていまった。

「国王陛下、第一王女、スノーリリー様と王宮専属医のコルゼ様がいらっしゃいました」
宰相が父に声をかけてくれた。
「入れ」

しわがれた声が響いた。
「拝謁します、お父様」
「拝謁します、国王陛下」

「…面をあげよ」
「「はっ」」

玉座に座ってると、さらに威圧がすごい。
若干、震える……。

「して、二人して何用か?
もしやこの前の話を真剣に考えてくれたとか?」

…この前の話?
あーー、恋仲がなんちゃらって言ってたことか。
現実になってるやん!!

「その通りでございます、陛下」
「なぬ?」
「私と、スノーリリー様との婚約を、お許し願いに
参った所存です」
「…え、あ、うん?」

て、ていうか…私から進言しなくてよかったの?
まあ、真剣に考えて、男の方から言ってくれるのは、
すごく嬉しいけど。

まず、お父様自分から聞いといて混乱してるし…。

「す、スノーリリー。説明を」
ですよね、はい。

「お父様。私たちは結婚を考えている所存です。
そして、私は先生をお慕い申し上げております。
先生も同じ気持ちだとおっしゃってくださいました。
コルゼ・アルティア様は王宮専属医であるからして、
聡明な方でございます。次期女王となる私の夫として、
相応しいお方と存じます。
お願い申し上げます、国王陛下。
…このスノーリリー・ベル・フィオンシーナと、
コルゼ・アルティアの婚約、結婚をお許し願えないでしょうか」

「…コルゼよ」
「はい、陛下」
「そなた、私の娘を、幸せにしてやってくれるか?
そなたは婿に入るということになるが、
どうか娘を、スノーリリーを頼む。
この子は強がるフリしたか弱い女子だ。どうか、
二人で支えあって生きてくれ」

…てことは
「はい!!ここに、必ずやスノーリリー様と
支えあい、愛し合い、共に歩んでいくことを、
このコルゼ・アルティアは誓います」
「…うん、いい子だ」

父が、優しく微笑んだ。
なんか、本当にお父さんって感じだな。

「婚約の件についてはアルティア家に書類と
手紙を送ろう。…すまんがスノーリリー、
残ってくれるか」
「はい。」
「では、失礼いたします、陛下」
「ああ。我が息子よ」
「!!ありがたき、幸せにございます」

…よかった。許してもらえて。
嬉しい。すごくホッとした。

「楽にせい、ヒマリ」
「…結婚、許してくれてありがとうございます」
「確認するが、本当にコルゼのことを
好いているのか?」
「ええ。愛して、おります」
「…そうか。知らぬ世界で良い人に出会い、
結ばれたこと、父として嬉しく思う。」

この人、出会ってからそんなに日にちが経たない
私に、「父として」、なんて言ってくれた。
それに初めて会った時から、私がまったく別の人間だと、
見抜いた。

…そんな些細な事で、普通気がつかない。
だから、そんな些細なことでも分かったこの人は、
本当はスノーリリーが消えた時、悲しかったんじゃないの?

「ねえ、本当にいいの?」
「何がだ」
「私さ、スノーリリーじゃないんだよ。
知ってるよね?
なのに、スノーリリーの体で結婚して、女王になって、
子供を産む。…あなたさ、初めから私が別の人間って分かるくらいには、
スノーリリーのこと愛してたんじゃないの?
さっきの、本当に本心?」

ずっと聞けなくて、聞きたかった言葉。
この人が、私を家族といってくれた時、正直
嬉しかった。
でも、ずっと心に秘めていた、気持ち。

「そう、だな。父として、スノーリリーを
愛していた。だが、この子を本当に王にしてよいか
不安だった。また、あの子自身も次期女王の
プレッシャーが大きく、疲れた顔をしていた。
こんなことを言ってはなんだが、あの子を休ませてあげてくれて、
ありがとう。申し訳ないが、強く女王として生きて、
このフィオンシーナを頼む。」

それが、本音なのね。
聞けて安心した。

「はい、お父様」
「うむ。…うっ」
「お父様?」

ガタンという音をたてて、椅子からお父様が
胸を押さえながら、倒れた。

「お父様…、お父様っっ!!!!」
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