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第十二話 自惚れて下さい
しおりを挟む……最悪だ。
予算の件にかたがついて、スッキリするどころか、
最悪だ。
帰ってきたら私イグレット公爵になんて言われたと思う?
あまりにも婚約者を決めるのが遅いからって、
お見合い組まされたんだけど……。
しかもパーティー式で!何?婚活パーティーなの?
最っ悪……。
「まぁまぁスノーリリー様。そんな気を落とさずに……」
「カヌレぇ…。どおしよぉ私足蹴り姫なんていう名前ついたらしいの。嫁の貰い手ないかも」
「そんなことありませんでしてよ。間違いなく明日の目玉はスノーリリー様です。放っておいても男の方から寄ってきますわ」
「それはないでしょお。あはは」
で、その今日になってしまった訳ですが……、
「スノーリリー殿下!ぜひ私とおしゃべりでも」
「こちらに美味しいお菓子が……」
「いえ私と!!」
うるさぁぁあい。
てか誰!?名乗ってくれる!?
「ちょっと、そんなに群がっては失礼ですよ。」
「!」
救世主!!……あ、攻略対象の1人、
アザナス・ティーヌ……。ランディー伯爵の後の、
新しい行政官になった人で、スノーリリーとヒロインの幼なじみポジションだ。
公爵家の人間の注意には皆従うようで、私のテーブルから去っていった。
「大丈夫でした?」
エモいいいいいっ、最高にエモい!!
かっ、かわいいいいいいっ!!
アザナスは推しだったんだよね……。
近くで見るとまじイケメンだ。
「ひ、久しぶり?」
「何で疑問形?」
「な、なんとなく。助けてくれてありがと」
「いえいえ。やっぱり今日の主役はリリーだもんねぇ。おっと、スノーリリー殿下ってお呼びしないと」
「リリーでいいわ。人前じゃなければ」
「ありがたき幸せにございま~す」
このほわほわオーラかんわいい!!
「囲まれたら体調が悪くて…的なこと言って追い払わなきゃ」
「それってお持ち帰りされない?」
「確かに。じゃあダメだ。……スカーレットのこと、大変だったね」
「……うん。ありがとう」
と、苦笑いしながら俯いた。
「……リリーは頑張った。えらいえらい。いい子だね」
「!」
頭ポンポンはずるくないですか?
「……あのぉ、アザナス?
あんまり私といると勘違いされるんじゃありませんこと?」
「わざとだよ?わかってるくせに」
「!?」
「こうやって、わざと見せつけてるの。
私はスノーリリーにしか興味がないってね」
「わ、私たち幼なじみでしょ?」
「そう思ってるのはリリーだけなんだけど?
いつになったら男として見てくれるのやら」
「おほほほほほ……」
ちょっと待って?スカーレットが死んだ今、
攻略対象の好意が私に向いたとかそういうことなの?
攻略対象のレオンハルトとアザナスが私にそういう姿勢を見せた。
全員がそうとは限らないんだけど、ありえるのか?
なら尚更婚約者は早く決めないと…。
出来るだけ面倒事には巻き込まれたくないし。
でもなかなかいい人がいないんだよね。
もちろん目の前にいるアザナスも、求婚を断ったレオンハルトも、すごく結婚相手としていい人だ。
……恋愛結婚なんて出来ないと思った方がいいんだろうなぁ。
"スノーリリー様"
「!」
何で、今コルゼの顔が思い浮かんだんだろ。
熱を出した時、すごく優しくしてくれた。
あんまり覚えていなのに、まだこの腕にぬくもりが残っている様な気さえする。
……会えば、この気持ちの正体が、わかるのかな?
推しが目の前にいるのに、頭に浮かぶのは、
コルゼのことだけ。
「……ごめんなさい、体調が優れないから医務室に行くわ。」
「えっ、ちょ……!」
すぐに戻れば、大丈夫……。
小走りで医務室まで向かった。
っていうか、医務室にいるのか?考え無しで出てきちゃったけど……。
「スノーリリー様?」
「!」
呼ばれた声に、嬉しそうに体がビクンと跳ねたことが、嫌という程分かった。…何、この感じ…。
「こ、コルゼ…」
「どうされたのですか?顔が赤い様ですが」
「えっ!?あー…、」
「立ち話も何ですし、座りませんか」
「は、はい」
テラスにあったベンチに座った。
「ご、ごめんなさい。今日、結婚相手を見つけるのが遅いからって、婚活パーティーみたいなの組まされてしまって…、囲まれてしまったり幼なじみに変なこと言われるから少し休憩したくて逃げて来てしまったの」
「そういうことでしたか……。確かにスノーリリー様は次期女王ですから婚約者はいないとダメですよね。」
「え、ええ……。その、本当はコルゼを探してたの」
「え?」
「あ、あの……、この前は、ありがとうございました。多分凄く恥ずかしいことを言ったんだと思うけど、許してくれる?」
「かまいませんよ。全然。で……、何故私を探していたのですか?」
「そっ、その…、会い、たくて」
「え」
言っちゃったぁぁあ……!!
「…」
今、どんな顔してるんだろ?コルゼの方をそーっと、見た。
すると、コルゼは口元を押さえて、そっぽを向いていた。
それを見て、すっごくドキドキした。
もしかして、これって…、恋なの?
「あ、あの……、コルゼ?」
「あ、あのですねスノーリリー様!」
コルゼが勢いよく立ち上がり、こちらに膝を折った。
「そんなこと言われてしまったら、自惚れてしまいますよ…?」
「!?」
手を取られ、口づけされる。
「ひゃぅっ…」
びっくりして、変な声が漏れてしまった。
は、恥ずかしい!!
コルゼってこんな感じだったっけ?
すごく、かっこいい…。それは前からだけれど、
今、私を見つめる目は、いつも私に微笑んでくれる柔らかい目じゃなくて、まるで何か愛おしいと見つめる様な、そらせない目。
どうしよ……、すごくドキドキする。
これって、ちゃんと女として意識されてるってことで、いいんだよね…?
「う、自惚れて下さい」
「え」
多分じゃない。私、この人のことが好き。
最初からコルゼは、私を次期女王じゃなくて、スノーリリーとして、普通の女の子みたいに扱ってくれた。いつだって心配してくれた、弱さも受け入れてくれた。……こんなこと言われたら、私の方が勘違いしそうだよ…。
「あの…、スノーリリー様」
「は、はい」
「…今、言ったことがどういうことか、わかってますか」
「分かっています!…ご迷惑でしたか?」
「迷惑だなんてとんでもない!!むしろ、嬉しすぎて、死にそうです」
「コルゼこそ分かっていますか?そんなことを言われたら、私はあなたに好かれているなどと、勘違いしていまいます」
「そ、それは勘違いではないですから!!」
「!」
「…、あなたを、お慕いしていると自覚した時から、私は王宮専属医ですから、思いを伝えていいのかどうか、迷っておりました……。でも、あなた様も同じ気持ちというのなら、もう、遠慮しませんよ」
「!!」
ちょ、ヤバ……。
嬉しい……。
取られている手を、ぎゅと握られる。
「スノーリリー様、あなたをお慕い申し上げております」
「コルゼ……、それが、どういうことか分かっていますか?」
「あなたと一生添い遂げる覚悟で申しております。……スノーリリー様といられるのなら、王配にだってなれます」
目がうるうると、潤んだ。
「私も、あなたをお慕い申し上げております……。どうか、一生側に……」
「誓います。」
膝まづくコルゼの額に、キスをおとした。
「!」
「わ、私ったらつい…」
「ああもうっ…、可愛すぎ。反則ですよそんなの……」
「わっ」
手を引っ張られると、抱きしめられた。
…コルゼの、香りがする。この香り、好き…。
「スノーリリー様……」
「……コルゼ」
コルゼの手が、私の頬を撫でた。
「んっ…」
「本当に、可愛い……」
そんな恥ずかしいこといわないでよっ!!
顔赤くしすぎて死にそうだわ!!
こんなに積極的だっけ……、コルゼって
「どうかあなたが、私の気持ちを疑うことがありませんように」
そう言われて、私たちは唇を重ねた。
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