すぐ死ぬ女王これで最後にいたしましょう

ろろる

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第二十四話 女帝

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「うん、妊娠していますね。」

ハルの口から、はっきりと妊娠していると言われた。

「…リリー!」
「うわっ」

コルゼがぎゅうぎゅうと抱きしめてくれた。
「…よかった…」

それで実感が湧いたのか、私の目にも涙が浮かんだ。

「妊娠三か月ってところですかね。
でも、いいですか女王陛下。陛下はあまり体が強いとは言えません。
ですから、無理は決してなさらぬように。」
「はい…。ありがとうハル。
また何かあればよろしく。もう下がってよいですよ」
「はっ。では失礼いたします」


…妊娠、妊娠…。
つまりは、今このお腹には、コルゼとの子が…いるんだ。
お腹をさすると、それにコルゼの手が重なる。

「元気に生まれてきてくれるといいですね。」
「ええ。それを祈りましょう。」
「元王宮専属医でしたから、すぐそばにいるのが私であれば私に。」
「ええ。頼もしいわ。」

…はやく、無事に生まれてくるといいな。
あなたと会えるのを、母は楽しみにしていますよ。


その知らせから、一か月たった頃だった。

「女王陛下!!こっ、これを…」
「どうしました宰相」

執務室で仕事をしていると、宰相が真っ青な顔で入ってきた。
これは…フォイリスからの書状?
何かしら…

「!!!!」

何、ですって…?
書状に書かれていたのはこうだった。

ただ戦が始まるとだけ書いており、その敵はフィオンシーナを含む五か国の同盟国の敵、
大帝国テレーゼ…。
しかも標的にされているのはフィオンシーナ…。
王が変わったから攻めてくるつもりか…?

しかもテレーゼはかなり手ごわい。
はるか昔から敵対関係にあり、何回も戦をしては何も得られず、
この大国と同等の力を持つ大帝国…。

もし戦になれば長期戦は間違いない…。
人が妊娠したばっかだっていうのに…、やってくれる。

「急ぎイグレット公爵、ティーヌ公爵、アルティア公爵、
フレイヤ侯爵、シルヴァレイド伯爵をここに!!」
「はっ!!」

戦上手で、何回もテレーゼを敗北に追いやったイグレット公爵、アルティア公爵、
財力を誇り、相手の裏をかくのが得意で国の情報屋と呼ばれるティーヌ公爵、
王国の第一騎士団団長、フレイヤ侯爵、第二騎士団団長シルヴァレイド伯爵。

この五名の力と、家の力があれば…。
でも確か…テレーゼも王が変わったんじゃなかったっけ…。
それも、私と同じ女王…、いや、帝国だから女帝か。

フィオンシーナで対応できなくなれば、最悪同盟国の力も借りなければならない。
それと、絶対フォイリスの力を借りてはならない。

何故なら、新しい夫を勧められているから。
もしこれが戦になって、フィオンシーナが莫大にフォイリスの力を借りるとなれば、
それだけ大きな恩を作るということになる。
それで見返りに皇子と結婚しろなんて言われたら、さすがに飲むしかなくなるからね…。

一時間後、呼び出した五名が会議室に到着した。
「ご命令によりはせ参じました、女王陛下」

「ご苦労。」
「それで…私達をお呼びということは…戦ですかな?」
と、ティーヌ公爵が聞いた。

それに、コクンとうなづくざわめきが起こる。
「あ、相手は…」
「フィオンシーナを含む五か国の敵、テレーゼ帝国がフィオンシーナを標的にしている。」
『!!!』

「…なんということ…。陛下は今妊娠されており、無理をしてはいけないというのに…」

シルヴァレイド伯爵が青ざめた顔をする。
第二騎士団団長も務める女伯爵、マリアローズ・シルヴァレイド。
19歳にして騎士団長の座を継ぎ、伯爵家の仕事も立派にこなし、家臣や周りからの信頼も厚い。

「お気遣い感謝します、シルヴァレイド伯爵。
ですが、気遣いは無用。今ここには私の跡継ぎがいますが、これは国をかけた戦いである故、
甘えてなどいられません。」
「失礼いたしました…。」
「いいや。…宰相、テレーゼも確か代替わりしていますよね?」

「はい。ノエル・アクアライト・デ・テレーゼ…、陛下と同じ18歳、
そして最近即位したばかりでございます。」

「ほう、即位したばかりでこの大国に攻め入ろうなどとは肝のすわった女よ。」
「まったくです…。
ですが相手はテレーゼ。一回のミスも油断も許されない…。
我が国の勝利のため、ご協力を。」

「今さら何をおっしゃいますか。
主の望みならそれを叶えるのが我ら家臣でしょう。」

イグレット公爵がにっとほほ笑むと、それに皆が笑って膝まづく。

『女王陛下の御心のままに。』

…よし。

「いつ攻めてこられるかわかりません。
早急に準備を!!害をなすものに、鉄槌を!!」
『はっ!!』

家臣が帰った誰もいない会議室に、ぺしゃりと座り込んだ。

「ううっ…」

気持ち悪い、吐き気が止まらない。
…なさけない。女王であるスノーリリーでいる時は、堂々としていられるくせに…、
やはりスノーリリーの体はコルゼやハルが言うように強くない…。

だけど、王が優先すべきは愛する国民の命。
それを優先しなければいけないのは分かっているが、主がこれでは台無し…。

ホントに気持ち悪い…。

「ネア、ネア…!」
「はい、ここに…。
!!陛下!!」

「し、静かに…。あまり大きい声を出してはだめよ。
申し訳ないのだけれど…、コルゼを呼んできてくれる?」
「は、はい!!エレクトリカっ、陛下のお側に…!」

…ああ、もう無理。
「陛下っ…」

エレクトリカの声がぼやぼやしてきた…。
これは、まずい。


「ん…」
「リリー」
「コルゼ…」

ここは、寝室か。
運んでくれたのだろう。

「ごめんなさい、時間を割いてしまって。
仕事に戻るわ。」
「待ってください。今日城内でお父様とシルヴァレイド伯爵を見ました。
あの二人はあまり王宮には姿を見せない人達です。
…何があったのですか」

「…戦が始まるわ。テレーゼとのね。」
「!!」
「だから、国を導く存在の私が休んでいるわけにはいかない。
だから、仕事に、戻らなくちゃ」
「いけません!!そうとう疲れた顔をされています!!
もう少し…休まないと」

「ダメ!!
いつだって、どの王だって…、優先するのは国民の命、
私だってそうよ!この国の女王として、第一に優先するのは国民の命…。
自分の子ばかり可愛がってはいられない立場なの…。
私は、この国の王だから」

そうだ、休んでいる間にできることがあるはずで、
私が休んでいる間に、テレーゼはフィオンシーナをどう負かそうか考えてる。
皆がこの国のために何かしているときに、休むわけにはいかなくて、
女だからって、即位したばかりだからって、舐められるわけは…いかないのよ。

「あなたの言うことはごもっとっもですけどね、
もう少し信頼してほしいものですね!!」

「!?」

お、怒った…?

「そうですよ、あなたがこの国の王だ、主だ。
ですけど、そんな主がふらふらなのは、もっとダメです!!
優先するのはもちろん国民の命…。ですけどね、リリー…、
だからと言って、自分の体も、お腹の子の命も、大切にしなくていい理由にはならないんですよ。」

「あ…」

いつだって、コルゼの言っていることは、正しくて適格だ。
いつも私は先走って…。

「…ごめんなさい。」
「まったく、しょうがない人ですね」

…あきれられた、かな。

「うわ!?」
引っ張られて、ベットに引きずりこまれる。

「本当にしょうがなく可愛くて、真面目で、責任感が強くて、立派で、
頑張り屋さんな女王様ですね…。」
「っ…」

涙がこぼれそうになるのを、ぐっと堪えた。
ここで泣いては、いけない。
なるべく弱い所を見せてはいけないと思っていたのにな…。
スノーリリーはただの少女ではなく、この国の女王なのだと、思っていたのに…、
存外私は夫の前だと女王であることを忘てしまいそうになるらしい。

「まあそういうところに惹かれたのですけれど…。
愛するあなたとの子だから、大事にしてほしいし、大事にしたい。
どうかあなたの力となりたいと願うことをお許しください。」

…どこまでも甘やかしてくるな、この夫は…。

抱きしめられる手をほどいて、コルゼに笑いかけた。

「コルゼ・シェイド・フィオンシーナ…、私の夫…、
どうか弱くて未熟な私にどうかあなたの知恵を、力を。」

「もちろんです、陛下。」


「宰相、明日の朝、臣下を大広間に。
戦の開始を宣言いたします。」
「御意!!」

…戦。
女子高生として
暮らしていた私には無縁のものだった。
だから気を引き締めないといけないけれど…、

「あなたに無理をさせるのもよくないのよね…」
と、お腹に手を当てた。

幸いにも私には慕ってくれる、忠誠を誓ってくれる家臣が多くいる。
負けるわけには…いかない。
そろそろ寝ようと、部屋のランプを消そうとした時だった。

「…誰だ」

後ろに、誰かいる気がして、口から出た言葉だった。
気のせいか?いや、確かに…誰かいる。

おそるおそる、後ろを振り返る。

カーテンには確かに人影が写っている。
「…貴様、ここが誰の部屋か分かっているのか。」
「ええ。フィオンシーナの女王。」

…フィオンシーナの女王…と呼んだ?
てことは、もしかしたらフィオンシーナの人間じゃないかも…。
フィオンシーナで私を知るなら、「女王陛下」か「陛下」と呼ぶはずだ。

「誰だ貴様。」
「初めまして、フィオンシーナの女王。
私の名はノエル。テレーゼ帝国の女帝ですわ。」

…はぁぁ!?
なんでこんなところに今回の大将首がいるってのよ…!!
カーテンから人が出てくる。

クリーム色の髪色に、瑠璃色の瞳…、白い肌に華奢な体つき。
美しい、少女…。本当にこの子が…?

「ああ、私をここで殺しても意味はなくてよ。
この体は魔法で作り上げた私の分身ですからね。」

…なるほど、確かに実際の人間という感じはしない。
「へえ、で、その女帝様が私に何の用?
戦なら受けてたつけれど?」

「あら嬉しい。
でもね、フィオンシーナがあの五国同盟から抜けて、
テレーゼと手を組んでくれるというなら、戦を取りやめるつもりよ。」

「…馬鹿を言うのもいい加減にしなさいよ小娘が。
何でフィオンシーナがテレーゼと手を組まなきゃいけないわけ?
知ってるわよね、フィオンシーナとテレーゼが何回も戦を繰り返した、犬猿の仲であることぐらい。
もしフィオンシーナがテレーゼと手を組むなんてことがあれば、私は多くの臣下を裏切り、
他の四国を敵に回すことになる。そこまでする必要がどこにあるっていうの?」

「なるほどぉ。断ればここで私に殺されるとは思いませんのね」
「!」

「残念なお返事でしたわ、若き女王よ。
ここで死んでくださいます?」

にったりと、紅い唇が吊り上がった。







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