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第五十九話 剣聖と騎士団(1)

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「…は!?」

書類の題に目を疑った。

「これは…どういうことです!?」
「姉上…いえ、ヴィルテローゼ落ち着いて下さい。
明日の夜、それについての説明を行います。」

「…失礼、いたしました。」

わなわなと震えた体を落ち着かせた。

「ではこれで私は失礼しますよ。
紅茶ご馳走様でした」

グラディウスが出ていき、一分間の沈黙が訪れた。

「…見ないのか?」

ユーシアスが机に置かれた書類に目を落とした。

「…明日正式な話がされるのなら、明日聞くとします。
でも…これだけ聞かせて下さい。
これはあなたが何かした結果ですか」
「…そうだ」

ユーシアスが剣聖にだけ汚れ仕事をさせることを嫌っていたことも
剣聖に敬意を払っていたことはもちろん知っている。

だが、だからと言って剣聖制を廃止にするまで話を進めるなんて…
かなり驚いた。
だがこの制度廃止には剣聖の承諾が得られている物ではないと考える。

剣聖制廃止の話が決定しているのならば剣聖全員の承諾が必要である。
十三人いる剣聖のほとんどが自分たちだけが汚れ仕事をすることを
良く思っていないはずだが、中には剣聖という仕事がなければ生活が成り立たない
者がいるはずなのだ。

そういう話し合いがされていない以上、剣聖制の廃止はただの案に過ぎないこと
のような気がする。

だが正式な発表の前にあれこれ推測を立ててもしょうがない。
だから次の夜まで、待つことにしよう。


そして次の夜、王城内にある会議室に、
十三人の剣聖及び騎士団全員への招集がかかった。

「剣聖の皆さま、今夜はお集まりいただきありがとうございます」

剣聖は二階席に案内され、一階席の壇上にいるユーシアスが頭を下げた。
それに残りの十二人は顔をしかめた。

「こんな席用意して俺らに不満でもぶちまけるつもなのか騎士団は」

ハヤテがイライラ度マックス…キレる寸前、そしてピリピリとした雰囲気だ。
そしてそれは十二人の剣聖全員が放っていた空気でもある。

「お行儀が悪いですよハヤテ。
確かにこんな席を設けられるのは初めて不服なのは分かりますけど、
騎士団長様の話を聞こうじゃありませんか」

ツキヤがふむ…と腕を組む。

「ええ~、シュリどうせつまんない話聞きたくな~い、
退屈なんだけど」

そうシュリがふあ…とあくびをした時だった。


「今日お集まりいただいたことについてですが…
剣聖の皆様には剣聖制度廃止についての了承を得たくこの席を設けました」

それにシュリが眠そうにしていた目をカッと開ける。
「…は?」

もちろん驚いたのはシュリだけではない。
剣聖全員が驚きの声を上げる。

「…しずかに。団長様のお話はまだ終わっていなくってよ」

シアンが制したため、全員が黙る。

「説明を続けて頂戴」

「はい。剣聖制廃止といっても、完全なる廃止ではございません。
ただ剣聖という役職を廃止し、剣聖の皆様には騎士団の一員になっていただきたく存じます。」

「…それはつまりぃ、騎士団の人間も汚れ仕事をする…
そういうことでございんすか?」

アカネが扇子で口元を隠し、目に光が入っていない笑みを見せた。

「その通りです。そのことについてですが…」

副騎士団長が説明を続けようとした時だった。
ハヤテがが二階席から飛び降り、壇上に着地した。

「…は?お前何言ってんの?…おかしいだろ!!!
今更剣聖の制度をなくすだ!?ふざけたこと言ってんじゃねえっ!!
遅すぎんだろうが!!しかも剣聖制度をなくして騎士団の一員として働け…?
俺らを散々こき使って陰でぐちぐち言うくせに自分の尻も自分でふけないような騎士団の一員に
なるだなんて反吐が出るぜ!!
そんぐらいならまだ汚れ仕事専門、一見華やかに見える剣聖でいた方が百倍マシだっつうの…」

ハヤテはもう怒りの感情をむき出しにして怒り狂っていた。
だが、話はまだ最後までされていない。
剣聖の全員が今のハヤテの言葉に共感を覚え、その通りだと思ったことだろう。
だがユーシアスが全員の反感を買うような意見をほいほいという訳がない。
ならば、最後の話が終わるまで聞かなければならない。

壇上に飛び降りようと柵に足をかけた。

「!!…待ちなさいローアン!あなた間に入って止めに入る気!?」
「まだ話は終わってませんので。それに、大切な人が悪く言われてるのも、
嫌なんです」

シアンの声を無視して壇上に着地する。

「戻ってハヤテ、まだ団長の話は終わってない」
「あ?てめえ騎士団の肩を持つ気か」
「そうじゃない。話は終わってないって言ってるんです」
「俺の話も終わってないんだよ…どけ」
「…聖剣を使った戦いになってもどきません」
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