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57.過去3 ~王太子妃side~

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 男友達。
 
 高位貴族の友人の皆には「婚約者」がいる。
 それでも友人達は私の方が綺麗だと可愛いと褒めてくれる。プレゼントを山のように送ってくれて、デートもして、婚約者とできない夜の営みをしても……友人達は「婚約者」の元に帰っていくのだ。
 誰一人として「婚約者」を捨てる者はいなかった。「婚約者」ではなく「サリー」を選ぶ者はいなかった。
 結婚するならば貧乏な男爵令嬢よりも、裕福な高位貴族の令嬢が選ばれる。
 私の方が断然美しいというのに。
 
 気狂いの女と話し合った彼は、友人の中で一番身分が高くてお金持ちだった。
 その彼の「婚約者」は伯爵令嬢。
 地味で影の薄い女だった。

 あんな冴えない女より私の方が百倍良い女だというのに!
 どう考えても私の方が彼の隣に立つのに相応しい美貌の持ち主なのに!

 学園の渡り廊下で偶然を装って近づいた。
 近くで見たら、そこそこ整った顔立ちである事に気付いた。
 それでも、私の方が数百倍綺麗だわ!
 あんな真面目で面白味のない女が彼と結婚すると思ったら無性に腹が立った。
 だって彼は友人の中で最も美形だったから。
 優美な容貌とクールな性格は単純に好みだった。一見、冷たそうな性格だけど小動物に優しいところなどギャップがあって彼の魅力を一層引き出していた。どの友人達よりも体の相性が良かった。結婚するなら彼が良いと本気で思ったほどだ。
 

 ハンカチをわざと落とした。拾うフリをして話しかけるためだ。

「婚約者の方とさせてもらっている、サリー・ビットです」

 ちょっと嫌味だったかな?
 でも、良いわよね。本当の事だし。
 伯爵令嬢は見た目も中身もおっとりした少女だった。
 一通り彼との関係をほのめかす内容を話して聞かせた。

 
 すると――

 
「存じております」

 意外な答えが返ってきた。

「何時も夜遅くまでの有難く思っております」

「……知ってたの?」

「勿論です」

 なんだ。
 知ってたのなら話は早いわ。

「なら、分かるでしょう」

「何をでしょう?」

「私の方が彼に相応しいって事が!」

「相応しいですか?」

「そうよ!」

「私の婚約者は侯爵家の嫡男です。次期侯爵になる方に相応しいのはではありませんよ?」

「はっ!?」

「ビット男爵令嬢がどのような自信をもって侯爵家に相応しいと思われているのか知りませんが、高位貴族としての舞いが何一つできない女性を選ぶほど私の婚約者は『愚か者』ではありません」

「な、なんですって!」

 思わず手を振り上げた。

「それです。そのように本当の事を言われたからと野蛮な行為に走る癖は到底高位貴族に相応しくない振る舞いです」

 振り上げた手を何とか降ろしたけど屈辱だった。

「お話に伺った通り、素直な方のようですね。ですが、そのように感情の赴くままに行動なさるところは貴族社会には適しません。感情のコントロールが出来ない方を『正妻』に迎い入れる貴族はおりません。ビット男爵令嬢は学園に入ってもうすぐ一年となりますから、そろそろと将来を見据えて行動をなさった方が宜しいですわよ。聞き及んだところ、未だに婚約者がいらっしゃらないと伺っておりますし……今後の事も考えた上で発言なさった方が身のためです。勿論、現状維持のままで良いと考えているのなら赴くままに突き進まれると宜しいかと思いますよ。残りの学生生活を唯意義にお過ごしください」

 にいいように言われて反論一つできなかった。
 



 

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