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85.親子2
しおりを挟む「……孫か。アレが本当に私の孫なら考えたであろうがな」
顔を上げると、そこには能面の父上が居た。
「あのような愚か者が私の孫なはずがないだろう」
「な、何を言うんです。あの子は、リリアナは間違いなく私の子です!」
「ああ、アレは間違いなくそなたの子供だ。だが、私の孫ではない」
「父上……?」
「そなたの母。我が国の王妃にしてチェスター王国の王女は、とんでもないワガママ王女だった。何もかも自分の思い通りになると本気で信じている愚か者。欲しい物は全て手にしなければ気が済まない性格だった。ああ、そなたの娘と同じ性分だな。流石は同じ血が流れているだけはある」
「ち……ちうえ……」
こんな顔の父を初めて見た。
表情全て落してきたかのような、それでいて目だけは何処までも暗い。
「私とエリーゼは結婚間近だった。にも拘わらず自分との婚姻を強引に推し進めてきた。こちらの足元をみて支援をちらつかせながらな」
母上が父上に一目惚れして嫁いで来た。
結婚するなら父しかいない、と懇願したとも聞く。
「で、ですが、父上は母上を娶ったではありませんか」
「国のために王女を娶った。王女を正妃にする約定まで交わしたというのに……連中は帝国まで巻き込んで内政干渉をしてきた。私はエリーゼを手放さざるおえなかった。公爵家の令嬢を“愛人”になどできん」
父上……。
そうか。父上は婚約者を「側妃」として迎えようとしていたのか……。邪魔をしたのは母上とチェスター王国。
『お父様がお母様を王妃にと望んでくださったの』
『お母様を唯一人の妻になさったほど愛してくださっているのよ』
幼い頃の母の言葉が蘇る。
母上は何度も言っていた。
自分達は相思相愛だと。
幸せそうに語る母の言葉に嘘はなかった。
現に父上は母上を大切に扱っていた。
母上の願いは常に受け入れられてきた。
それは母上を愛していたからではないのか?
「ち、父上は母上の言葉に“否”を唱えたことはなかったではありませんか。それは父上が母上を『愛しい』と思ってのことではないのですか?」
「そうせねば、そなたの母は何をするか知れたものではなかった」
「え……?」
「一国の王女だというのに教養は最低限。王妃に相応しい教育を受けさせても身に付かず『何故自分が学ばねばならない』とまで言い出す。公務も満足に出来ないというのに『王国で最も高貴な女性である自分が雑務をするのは間違っている。下々にやらせればいい』と公言して憚らない。頭の中は自分を如何に美しく着飾る事しかないような王女だった。母国では余程自由気ままに過ごしてきたようだ。苦言を呈する侍女達を酷く罵り折檻する。自分の思い通りにならなければ癇癪を起こしてあたり散らす。邪魔だと思えば相手に危害を加える事を躊躇なくやれる。王妃にあるまじき浅ましい性根の持ち主ときている」
父の言葉に唖然とする他なかった。
母は私が物心つく頃から既に最小限の公務しかしていなかった。それは世継ぎを生むことのに専念するためだと聞いていた。慣れない異国での生活はさぞ苦労した事だと思っていたのだが……父の話からして違うと分かる。思い返してみれば、母はティレーヌ王国語を未だに苦手としていた。母と話す時は専らチェスター王国語だった。
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