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95.元王妃side
しおりを挟む「な……なぜ……このようなことをなさるのですか? 私は陛下の唯一の妻ではありませんか! 私は望まれて嫁いでまいりました。陛下も私を誰よりも大切になさってくださったではないですか! 急に何故!」
「急? そなたにとってはな」
「……陛下?」
「そなたと、チェスター王国に報復するために費やした時間は長かった。漸く、願いが叶う」
「な、何を仰っているんですか!? 私が一体何をしたと言うんです!!」
「何を、か……」
「そうです! 何もしていないではありませんか!」
「何もしていない……だと? はははっ……ここまで厚顔無恥な者は早々いないだろうな。己の罪深さを知らないとは」
蔑んだ眼差しで吐き捨てるように言う陛下は、私の知る陛下ではなかった。まるで見ず知らずの他人のよう……。陛下の皮を被った別人だと言われても信じてしまう程の変貌ぶり……。
「私のエリーゼにした非道な仕打ち、忘れたとは言わさん!」
エリーゼ……。
エリーゼですって!?
なんて忌々しい名前。それを今ここで聞くなんて!
「……それはエリーゼ・コードウェル公爵令嬢の事を仰っているのですか?」
声が震えるのが自分でも分かる。
何十年も聞かなかった名前。
それを今、陛下から聞くなんて……。
「それ以外に誰がいる。己の息のかかった貴族の子息達を嗾け襲わせた。その上、私の元婚約者という事を承知で……いや、ティレーヌ王家の許可なくエリーゼをチェスター王国の貴族と娶せようと画策せんとした。しかも、男爵だと? 王家に連なる公爵令嬢の相手には到底不釣り合いな者をだ。我が国を軽んじるにも程がある!!! エリーゼをチェスター王国に嫁がした後の事も計画していたようだな。そなたが祖国から連れてきた元女官が口を割ったぞ。『穢れた女はチェスター王国の玩具に相応しい』という実におぞましい内容だった」
「終わった事です!!!」
「……何だと?」
「結局、あの女はチェスター王国に嫁ぐことは無かったではありませんか! それに、一時とはいえ陛下のお情けを受けていた女に罰を与えて何が悪いのです!! へ、陛下とて今まで何も仰らなかったではありませんか! 結婚前も、その後も……何も仰らなかった。それは陛下も私を愛おしいと想ってくださっているからでしょう」
陛下は私を愛してくださっているわ。
あの女に関する私の誹謗中傷に耳を傾ける事はなかった。
例え、あの女を襲わせた証拠が出てきたとしても陛下は私を許し庇ったに違いないわ。幾ら王家の繋がりが強くても所詮は臣下、公爵家の娘でしかない。一国の王女である私とでは比べ物にならないのだから。
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