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~第二章~
26.旅の始まり
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旅は順調だった。
南の大地に広がる花々の絨毯に大の字で寝転がった。
蒼い海と白い砂浜を背景に石畳みの古い街並みを散策する。
活気に満ちた市場での喧騒に唖然とし、屋台の料理に舌鼓を打つ。
水の都で可愛らしいゴンドラに乗り、ゆったりとした時間を過ごした。
港の商店で彩り豊かな果実を買い、かぶりつく。
どこまでも広がる草原。
遊牧民族たちとの交流とその生活に驚いた。
東の国では修行僧と熱く討論した。
山の奥地で悠久の時を過ごしてきた古の民族との出会い。
雄大な滝から現れた虹を間近で見た。
ガヤガヤと騒がしい。
宿屋の一階にある酒場はいつもならギルドの男達や、旅人で賑わっている。
ただ今日はその騒がしさとは別の緊迫した雰囲気に包まれていた。
「それで、あいつは大丈夫なのか?」
「それは……」
「おい!よせ」
「だが……あれではな」
「回復魔法の使い手なら治せるだろう!!」
どうやら旅人が病に侵されたようだ。
男達が口々に話す声から察するに、かなり深刻な状況のようだった。
「……回復魔法は怪我しか治せないんだ」
「そんな……」
「まさかこんな場所で病気にかかるなんて誰も思わないだろ!?」
「だからって見殺しにするのかよ!」
「落ち着けお前たち!!いい加減にしねえか!!!」
一人の男が怒鳴るとピタリと話し声が止み静寂が訪れる。
この場にいる全員が男の言葉に従い黙ったのだ。
男は全員の顔を見渡すとゆっくりと口を開いた。
「すまなかったな。皆も知っての通り俺達は冒険者ギルドの者だ。兄さん、病人には気の毒だがアレは諦めた方がいい。今、医者を連れてきているが多分無理だろう」
「なっ?! なんでそんなことを言い切れるんだ!!?」
「病人の顔を見ただろうが。赤い湿疹が全体に広がっていて目まで塞がれている。もう長くはない」
男の冷静な判断を聞き周りの人間も悲痛な面持ちで俯いた。
「くそぉー!!!」
そう叫ぶとテーブルを強く叩きつけ病人は泣き崩れてしまった。
酒場にいた他の客達からも、すすり泣きの声が聞こえてきた。
暗い空気の中、医者が宿に着いた。
病人の診察をしていたものの、首を横に振る。
「この患者さんは南から来た者じゃないかい?」
「は、はい」
「やはりな。最近、南で妙な流行り病があるらしくてな。こっちにきて症状が出てくる者がいま多いんじゃ」
医者の話を聞いて酒場中がざわつき始めた。
患者の連れだろうか。男は思わず立ち上がり、医者に詰め寄った。
「それってどんな症状なんだ?」
「最初は喉に痛みを感じ、次に高熱が出て徐々に全身へと広がるらしい。魔法薬で治療しても効果は出ないもんじゃ。感染症でない事だけが幸いじゃな」
医者の説明を聞いた男は顔を青ざめさせ、絶望に打ちひしがれた。すると、一人の冒険者が呟きながらフラリと立ち上がった。
「……南の流行り病か」
「おいっ!」
「かまわん。役人も知っておることじゃ」
知っている?
有名なのかな?
僕は医者だけでなく役人まで知っている事に驚いた。これは上層部も知っているって事じゃないかな?
「対策は取っているんですか?このままでは犠牲者が増えるばかりでは?」
つい余計なことを口にしてしまった。
「うむ。その通りじゃ。だがな、この病は何故か南の国から来た者しかかっとらん。まぁ、今の処はと言ったとこじゃがな」
「そうなんですか?」
「ああ、じゃから南からの入国を制限するという話が出ておる」
「制限ですか?」
「今は様子見といったところじゃろう。ただ、わしの予想では……いずれこの国でも感染者が出ると思っておるがのう」
「なるほど……」
つまり南から来る者をチェックしている訳だ。
まだ自国民に被害が出ていないからこその判断だったんだろう。
南の大地に広がる花々の絨毯に大の字で寝転がった。
蒼い海と白い砂浜を背景に石畳みの古い街並みを散策する。
活気に満ちた市場での喧騒に唖然とし、屋台の料理に舌鼓を打つ。
水の都で可愛らしいゴンドラに乗り、ゆったりとした時間を過ごした。
港の商店で彩り豊かな果実を買い、かぶりつく。
どこまでも広がる草原。
遊牧民族たちとの交流とその生活に驚いた。
東の国では修行僧と熱く討論した。
山の奥地で悠久の時を過ごしてきた古の民族との出会い。
雄大な滝から現れた虹を間近で見た。
ガヤガヤと騒がしい。
宿屋の一階にある酒場はいつもならギルドの男達や、旅人で賑わっている。
ただ今日はその騒がしさとは別の緊迫した雰囲気に包まれていた。
「それで、あいつは大丈夫なのか?」
「それは……」
「おい!よせ」
「だが……あれではな」
「回復魔法の使い手なら治せるだろう!!」
どうやら旅人が病に侵されたようだ。
男達が口々に話す声から察するに、かなり深刻な状況のようだった。
「……回復魔法は怪我しか治せないんだ」
「そんな……」
「まさかこんな場所で病気にかかるなんて誰も思わないだろ!?」
「だからって見殺しにするのかよ!」
「落ち着けお前たち!!いい加減にしねえか!!!」
一人の男が怒鳴るとピタリと話し声が止み静寂が訪れる。
この場にいる全員が男の言葉に従い黙ったのだ。
男は全員の顔を見渡すとゆっくりと口を開いた。
「すまなかったな。皆も知っての通り俺達は冒険者ギルドの者だ。兄さん、病人には気の毒だがアレは諦めた方がいい。今、医者を連れてきているが多分無理だろう」
「なっ?! なんでそんなことを言い切れるんだ!!?」
「病人の顔を見ただろうが。赤い湿疹が全体に広がっていて目まで塞がれている。もう長くはない」
男の冷静な判断を聞き周りの人間も悲痛な面持ちで俯いた。
「くそぉー!!!」
そう叫ぶとテーブルを強く叩きつけ病人は泣き崩れてしまった。
酒場にいた他の客達からも、すすり泣きの声が聞こえてきた。
暗い空気の中、医者が宿に着いた。
病人の診察をしていたものの、首を横に振る。
「この患者さんは南から来た者じゃないかい?」
「は、はい」
「やはりな。最近、南で妙な流行り病があるらしくてな。こっちにきて症状が出てくる者がいま多いんじゃ」
医者の話を聞いて酒場中がざわつき始めた。
患者の連れだろうか。男は思わず立ち上がり、医者に詰め寄った。
「それってどんな症状なんだ?」
「最初は喉に痛みを感じ、次に高熱が出て徐々に全身へと広がるらしい。魔法薬で治療しても効果は出ないもんじゃ。感染症でない事だけが幸いじゃな」
医者の説明を聞いた男は顔を青ざめさせ、絶望に打ちひしがれた。すると、一人の冒険者が呟きながらフラリと立ち上がった。
「……南の流行り病か」
「おいっ!」
「かまわん。役人も知っておることじゃ」
知っている?
有名なのかな?
僕は医者だけでなく役人まで知っている事に驚いた。これは上層部も知っているって事じゃないかな?
「対策は取っているんですか?このままでは犠牲者が増えるばかりでは?」
つい余計なことを口にしてしまった。
「うむ。その通りじゃ。だがな、この病は何故か南の国から来た者しかかっとらん。まぁ、今の処はと言ったとこじゃがな」
「そうなんですか?」
「ああ、じゃから南からの入国を制限するという話が出ておる」
「制限ですか?」
「今は様子見といったところじゃろう。ただ、わしの予想では……いずれこの国でも感染者が出ると思っておるがのう」
「なるほど……」
つまり南から来る者をチェックしている訳だ。
まだ自国民に被害が出ていないからこその判断だったんだろう。
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