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しおりを挟む「……僕を売る気か?それが妻のする事か?」
「嫌だわ。元妻よ。私達は今日で赤の他人になったの。間違えないで」
「ぼ、僕は、公爵家も辺境伯爵家も御免だ!!」
「それじゃあ、男爵令嬢の方がいいと?」
「ふざけるな!! 侯爵子息の僕がどうして男爵なんかに!!!」
あらぁ。思った通り勘違いしているわ。
私が何時、男爵令嬢と結婚すれば男爵位を得るなんて言ったかしら?一言も言ってないでしょうに。もしかして「男爵令嬢の婿を探している」と言ったから?バカね。人の話を聞かないにも程があるわ。勘違いも甚だしい。
まぁ、いいか。
親切に教えてあげる必要性は感じないもの。
「そもそも何故だ!? 何故そんな連中ばかりを!!」
「貴男に高値を付けてもいいと仰ったのが、その三名しかいなかったからです」
「ぐっ!」
苦虫を嚙み潰したような表情も美形がすると絵になるわ。
本当に顔だけは頗る良い。
中性的な美貌は絵本の中にしか存在しない王子様そのものだった。姿形は白馬に乗った王子様という風貌だもの。女性は放っておかないでしょう。
ただし――
女性は現実的だという事を彼は忘れている。
どんなに夢見がちな少女でも頭の片隅で算盤を弾いているもの。貴男が思っている以上に女という生物は強かで侮れない存在なのよ。特に、貴族の女はね。
「僕はここから動かないぞ!!」
「他人の貴男に居座られては困ります」
「なら、もう一度やり直せばいいだろう!!」
「それは私が嫌です」
「な、何でだよ……君は僕を愛していただろう?」
「ええ」
「それなら、いいじゃないか」
何がいいのかサッパリ解りません。
私に不良債権を持ち続けろと?御冗談。赤字決済など見たくもない!
「あらあらまあまあ。それじゃあ、この慰謝料請求はどうしようかしら?どこぞの高利貸しにでも売り払ってしまおうかしら? ふふっ。金貸しは裏社会と繋がりが深いという噂があるけど、いいの?彼らの取り立ては凄まじいと聞くし。そうなって困るのは誰かしら?」
「なに!?」
「そんなに怒らないで。だって貴男に慰謝料を支払えるだけの才覚がない以上は仕方ないでしょう?それにどちらにしても貴男自身が商品である事は変わらないわ」
「……この僕に体で支払えと?」
「それ以外の支払い能力はないのだから仕方ないわ。私は三名の貴族女性を紹介したけれど、金貸し達がそんな優しい事をするかしら?幸い、貴男は『美貌』と『若さ』という武器があるから最初の行き先は娼館が妥当ね。ただ、店によっては特殊な趣味の客を取らされる場所もあると聞くし、そういった場所に売られてしまえば御自慢の『美貌』は衰える一方だわ。『若さ』だって有限だもの。それを失えば買ってくれる人はいない。客を取れない男娼の行き先は鉱山あたりかしらね。その時、貴男どうなると思う?体力のない貴男じゃ、一年と持たない事は明白だわ」
「アザミ……っ!」
ガクガクと震える元夫。
恐怖か、怒りか……表情からして恐怖でしょうね。
本当に困った人。
元妻に切り捨てられていると漸く実感しているんだもの。遅すぎるくらいだわ。この人、よくこれで貴族をやってられるわね。あ、実家は貧乏侯爵家だった。そりゃあ、鈍感にもなる訳だわ。
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