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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

130-1.赴くままに

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 シャルロットが屋内へと運ばれるも、その容体は芳しくないらしかった。
 彼女が居室へ運ばれてすぐ、クリスティーナ達は使用人に促される形で館を離れることになる。

 宿へと向かう足取りは重く、三人の間には自然と沈黙が訪れる。
 だがそれもやがてクリスティーナが口を開いたことで破られる。
 彼女は隣を歩いていたエリアスを横目で見やった。

「……助かったわ。ありがとう」
「へっ? あっ、オレですか?」

 何に対して礼を述べられてるのかがわからないというようにエリアスは目を丸くし、聞き返す。
 それにクリスティーナは静かにうなずきを返した。

「私達だけが取り残された時、助言をくれたでしょう。お陰で無意味に取り乱すこともなかったわ」
「ああ……気にしないでください。仕事柄、偶然喀血時の処置法を把握していただけですから」

 実戦の経験を積んでいるエリアスはいくつかの怪我に対する応急処置に対し心得があった。
 喀血した相手を見て咄嗟に動けたのも、内臓損傷によって血を吐いた人物に施す処置を目の当たりにしたことがあるからである。
 動揺し、自分だけでは何もできなかったという情けなさに顔を曇らせるクリスティーナを見て、エリアスは苦笑した。

「適材適所ってやつですよ。オレはクリスティーナ様やリオみたいに頭は回らないし、そっち方面では頼りっきりになっちまうけど、それについて二人が咎めることはないじゃないですか。おんなじことです」
「……そうだとしても、心強かったのは事実だわ」
「ははっ、お役に立てたのであればよかったです」

 クリスティーナの口から漏れる素直な言葉に慣れず、目を瞬かせるも、エリアスは照れ臭そうにはにかんだ。
 しかしその微笑も数秒後には鳴りを潜め、彼は深刻な面持ちで呟いた。

「けど、血を吐くくらい衰弱してるってのを考えると、シャルロット様のことが心配ですね。快方に向かえばいいんだけどなぁ」
「……その件なんだけれど、少し妙なことがあったの」

 クリスティーナは先程経験したことをリオとエリアスへ共有する。
 シャルロットに絡まる闇と、それが館の中まで続いているように見えたこと、こっそりと聖女としての魔法の行使を試みて闇を祓ったもののすぐに再びシャルロットへと纏わりつくように姿を見せたこと。
 それらを一通り聞き届けたところでリオが呟いた。

「お嬢様にしか見えない例の闇が良からぬ力が作用している証であると仮定するのであれば、シャルロット様が衰弱している理由はただの病ではないのかもしれませんね」
「けどその闇って、前見えたのはベルフェゴールが何か企んでた時だよな? ってことは魔族関係か……? 近くまで迫ってるってんなら危険だよな」

 クリスティーナのみに見える『闇』に関してはベルフェゴールからの逃亡に成功した後、二人に共有済みである。
 発生する『闇』の正体は明確ではないが、それがある種の危険信号的存在であるということはクリスティーナ達の間の共通認識であった。
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