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第13話:彼女が傍にいてくれたら…~ジルド視点~

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翌日、嬉しそうに外に出る準備をしているジャンティーヌ殿。やんわりと外は危険と伝えたのだが、全く私の言う事を聞かない。本当にこの子は…

仕方がない、私が彼女を守りながら戦おう。そう思い、皆で地上に出た。外には魔物がうようよいるのだ。気を引き締めないと!

そう思っているうちに、ゴブリンの群れが襲って来た。急いで攻撃魔法を掛けるが、なぜか固まって動かないジャンティーヌ殿。どうやら目の前の魔物を見て恐怖を抱いた様で、ガタガタと震えていた。やっぱり彼女も令嬢なのだな。

それなのに私たちの為に、無理をして。その姿が可愛くて、つい見とれてしまった。

その時だった、ジャンティーヌ殿めがけて、デビルが襲い掛かって来たのだ。間一髪、助ける事が出来た。とにかくここは危険だ、一刻も早く、彼女を安全な地下に連れて行かないと。

そう思ったのだが、何を思ったのか私の手を振り払うと、震える手で必死に炎魔法を使っていた。ただ…炎の勢いが強すぎて、魔物だけでなく味方までにも火の粉が掛かっていた。

必死に謝り治癒魔法を掛けるジャンティーヌ殿。その姿がまた可愛くてたまらない。なぜだろう。彼女がいると、いつも殺伐としていた空気も、和やかな空気になるのは…

その後は何人かに分かれて、食糧を届けに行く。ただ、途中で魔物たちに襲われた民たちの遺体が…

またこんなに犠牲者が…私たち王族のせいで、罪もない人々が殺されていく。それが辛くてたまらないのだ。そんな私の手をそっと握ってくれたジャンティーヌ殿。

さらに、自分も魔女が憎い、私たちと共に戦いたい!必ず何か方法があるはずだから、諦めないで共に戦おうと言ってくれたのだ。

その瞳は、同情とかそういったものではなく、本当に彼女はそう思っているのだろう。本気でジャンティーヌ殿は、私たちの為に動こうとしてくれている。それが痛いほど伝わって来た。

そんな彼女の瞳を見た瞬間、どうしようもないほど泣きたくなった。今まで張りつめていた糸が、一気に切れそうになるのが分かる。

でも…今泣く訳にはいかない。必死に涙を堪える。そんな私に今出来る事をやろう、そう言って笑顔を向けてくれるジャンティーヌ殿。

昨日会ったばかりなのに、どうしてこんなにも彼女の存在が私を支えてくれるのだろう。彼女の言葉1つ1つが、私の胸に突き刺さる。

もしかしたら彼女は、本当に聖女様なのかもしれない。私たちを助けに来てくれた聖女様…ついそんな事を考えてしまう。

彼女が傍にいてくれるだけで、私はこれからも前を向いて生きていける。そんな気がした。

翌日からも、私たちと一緒に食糧を配りつつ魔物討伐に参加するジャンティーヌ殿。やはり彼女の魔力はすさまじく、日に日に攻撃魔法もマスターしていく。

さらに、いつも元気で明るいジャンティーヌ殿は、その場にいるだけで、皆に笑顔を与えてくれる。そう、彼女の存在自体が、皆に生きる希望を与えてくれるのだ。

さらに彼女は、よく未来の話をするのだ。

「早く魔女を倒して、お日様の光をいっぱい浴びたいですわ。太陽が出れば植物も育ちますし。この国は昔、緑豊かな国だと聞いたことがあります。きっと素敵な国だったのでしょうね。あぁ、早く見たいわ」

そう言って目を輝かせているのだ。確かに昔は緑豊かで美しい国だった。でも、もうそんな大昔の事、皆忘れてしまっている。それでも彼女は、いつも目を輝かせて、魔女がいなくなった世界の話をするのだ。

そして

「ジルド殿下、どうか少しはご自分の幸せを考えて下さい。あなた様は今まで、ずっと頑張って来たのです。あなた様は、誰よりも幸せになる権利があるのですから。その為にも、早く魔女を倒さないといけませんね!」

そう言ってジャンティーヌ殿が張り切っている。私にも幸せになる権利があるか…その言葉が、胸に響く。

ただ、家臣たちは何を寝ぼけた事を言っているのかと笑っていた。それでも毎日毎日、魔女を倒した後の話をするジャンティーヌ殿、家臣たちも次第にジャンティーヌ殿の話に加わる様になっていった。姉上も

「なんだかジャンティーヌちゃんが来てから、皆明るくなったわね。私ね、両親が亡くなってから、未来なんて考えられなかった。その日を必死に生きる事に精一杯で。でも、ジャンティーヌちゃんと話をしていたら、なんだかまた昔の豊かだった国を夢見る様になったの。いつか昔の美しい国に戻ってくれたらって」

そう言って嬉しそうに笑っていた。

私も姉上と同じで、日々の生活に精一杯で、未来なんて考える余裕なんてなかった。でも…ジャンティーヌ殿と話をしていると、いつか昔の美しい国を取り戻せるような気がする。もし…もし昔の美しい国を取り戻せることが出来たら、私はジャンティーヌ殿と共に、歩んでいけたら…

そんな事を考えてしまう。一生そんな未来は来ないかもしれない。それでもなぜだろう。彼女といると、つい未来を考えてしまうのだ。

このままずっと、彼女が傍にいてくれたら…

そんな事を考えてしまう。でも…いつまでも彼女をこんな危険な場所に置いておく訳にはいかない。なるべく早く、両親の元に帰してあげないと。頭では分かっているのだが、心のどこかで、ずっと彼女が傍にいてくれたら…そう願っている自分もいるのだ。

ジャンティーヌ殿、私の傍にいてくれてありがとう。必ず君を両親の元に帰してあげる。でも、あと少し…あと少しだけ私を君の傍に居させて欲しい。

今日も私は、彼女の笑顔を見つめながら心の中でそっと呟いたのだった。



※次回、ジャンティーヌ視点に戻ります。
よろしくお願いしますm(__)m
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