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さん ~ウィリアム
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ウィリアム目線
チェルシーの手を引いて食堂に向かう。
白いワンピースドレスに着替えさせ、髪を整えた我が娘チェルシーはそれはもう、とてもとても可愛らしい。
食堂に入ると、妻のマーサの姿はない。
チェルシーに気付かれないように小さく息を吐いて椅子を引いた。
「さあ、お座り。今日からこの食堂で食事をとるんだよ」
チェルシーはこくりとうなずいて、すとんと椅子に腰掛けた。
こういう仕草はやはり平民のそれだが、ここで暮らすうちに貴族令嬢らしく成長していくだろう。
まだ10歳の子どもだ、慌てる必要はない。
ゆっくり、ゆっくりで良いのだ。
私もいつもの席に座り、料理が運ばれてくるのを待つ。
昨日まで孤児院暮らしだったチェルシーは食事のマナーもわからないだろう。
「今はまだマナーなどは気にしなくて良いからね」
優しく語りかけると、チェルシーはまたこくりとうなずいた。
「遅れて申し訳ございません」
そう言って食堂に入ってきたのは妻のマーサだった。
てっきり今日は自分の部屋で食事をとるものだと思っていたが・・・・・・
チェルシーに嫌みのひとつでも言いに来たのか。
マーサはいつもの席に腰掛けると、チェルシーをちらりと見て口を開いた。
わたしの頭に警戒のベルが鳴る。
チェルシーを守らなければ!
「あなたがチェルシーね、まぁ、可愛らしいこと。わたくしは貴女のお父様、ウィリアムの妻のマーサよ。これからよろしくね」
チェルシーがピンと背筋を伸ばしてはい、と答えると、マーサはつり上がり気味の猫目を細めた。
とりあえずは、マーサがチェルシーを無視したりキツい態度をとったりしなかったことに安堵した。
わたしには昔、心から愛した平民の恋人がいた。
貴族と平民、結婚は出来ないと解っていたからこそ燃えるように愛し合い、彼女、ソフィはその腹に子を宿した。
そんなとき、わたしと当時伯爵令嬢だったマーサとの結婚が決まった。
親が勝手に決めた政略結婚だった。
わたしはマーサと結婚しても、ソフィと生まれてくる子どもに不自由ない生活を送らせるつもりでいた。
貴族男性が妻とは別に愛人を囲うことは特に珍しいことでもないし、マーサもわたしもお互いを政略結婚の相手としてしか見ていないのだから特に問題はない。
──しかし、ソフィは突然わたしの前から姿を消した。
わたしは必死にソフィを探した。
大きなお腹を抱えて泣いてるだろうと思うと、胸が苦しくて張り裂けそうだった。
新妻のマーサのことなどそっちのけで、毎日毎日ソフィを探して回った。
そして、探し続けること10年、やっとわたしとソフィの娘、チェルシーを見つけたのだ!
ソフィはチェルシーを産んですぐに亡くなっていた。
わたしが必死に探している間、既にソフィはこの世にいなかったのだ。
ソフィは凄まじい陣痛の中、何とか自分が育った孤児院にたどり着き、そこでチェルシーを産んだ。
長い間ソフィの足取りを掴めなかったのは、孤児院の院長が代替わりしていたことが原因だった。
元院長の話によると、ソフィは元々心臓が弱く子を産める身体ではなかったそうだ。
ソフィは自分の命と引き換えにチェルシーを産んだのだ。
そして、最後までチェルシーの父親であるわたしの名前は口にしなかった。
マーサには申し訳ないと思っている。
しかし、わたしは娘を、チェルシーを守る。
世界中を敵に回してもチェルシーだけは守ってみせる。
神に、ソフィに誓って。
チェルシーの手を引いて食堂に向かう。
白いワンピースドレスに着替えさせ、髪を整えた我が娘チェルシーはそれはもう、とてもとても可愛らしい。
食堂に入ると、妻のマーサの姿はない。
チェルシーに気付かれないように小さく息を吐いて椅子を引いた。
「さあ、お座り。今日からこの食堂で食事をとるんだよ」
チェルシーはこくりとうなずいて、すとんと椅子に腰掛けた。
こういう仕草はやはり平民のそれだが、ここで暮らすうちに貴族令嬢らしく成長していくだろう。
まだ10歳の子どもだ、慌てる必要はない。
ゆっくり、ゆっくりで良いのだ。
私もいつもの席に座り、料理が運ばれてくるのを待つ。
昨日まで孤児院暮らしだったチェルシーは食事のマナーもわからないだろう。
「今はまだマナーなどは気にしなくて良いからね」
優しく語りかけると、チェルシーはまたこくりとうなずいた。
「遅れて申し訳ございません」
そう言って食堂に入ってきたのは妻のマーサだった。
てっきり今日は自分の部屋で食事をとるものだと思っていたが・・・・・・
チェルシーに嫌みのひとつでも言いに来たのか。
マーサはいつもの席に腰掛けると、チェルシーをちらりと見て口を開いた。
わたしの頭に警戒のベルが鳴る。
チェルシーを守らなければ!
「あなたがチェルシーね、まぁ、可愛らしいこと。わたくしは貴女のお父様、ウィリアムの妻のマーサよ。これからよろしくね」
チェルシーがピンと背筋を伸ばしてはい、と答えると、マーサはつり上がり気味の猫目を細めた。
とりあえずは、マーサがチェルシーを無視したりキツい態度をとったりしなかったことに安堵した。
わたしには昔、心から愛した平民の恋人がいた。
貴族と平民、結婚は出来ないと解っていたからこそ燃えるように愛し合い、彼女、ソフィはその腹に子を宿した。
そんなとき、わたしと当時伯爵令嬢だったマーサとの結婚が決まった。
親が勝手に決めた政略結婚だった。
わたしはマーサと結婚しても、ソフィと生まれてくる子どもに不自由ない生活を送らせるつもりでいた。
貴族男性が妻とは別に愛人を囲うことは特に珍しいことでもないし、マーサもわたしもお互いを政略結婚の相手としてしか見ていないのだから特に問題はない。
──しかし、ソフィは突然わたしの前から姿を消した。
わたしは必死にソフィを探した。
大きなお腹を抱えて泣いてるだろうと思うと、胸が苦しくて張り裂けそうだった。
新妻のマーサのことなどそっちのけで、毎日毎日ソフィを探して回った。
そして、探し続けること10年、やっとわたしとソフィの娘、チェルシーを見つけたのだ!
ソフィはチェルシーを産んですぐに亡くなっていた。
わたしが必死に探している間、既にソフィはこの世にいなかったのだ。
ソフィは凄まじい陣痛の中、何とか自分が育った孤児院にたどり着き、そこでチェルシーを産んだ。
長い間ソフィの足取りを掴めなかったのは、孤児院の院長が代替わりしていたことが原因だった。
元院長の話によると、ソフィは元々心臓が弱く子を産める身体ではなかったそうだ。
ソフィは自分の命と引き換えにチェルシーを産んだのだ。
そして、最後までチェルシーの父親であるわたしの名前は口にしなかった。
マーサには申し訳ないと思っている。
しかし、わたしは娘を、チェルシーを守る。
世界中を敵に回してもチェルシーだけは守ってみせる。
神に、ソフィに誓って。
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