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第四章 世界の片隅で生きる者たち

272 倉庫街の戦い3

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「三班から五班! 魔物が逃げた! 目標は改造作業車、蒸気機関を三筒積んでるんで勢いがあるから注意しろ、発見したら全員に連絡して包囲せよ! 警鐘を鳴らして追い詰めろ!」
『了解しました!』

 衛兵隊長が通信で指示を飛ばす。
 途端に周辺からカンカンカン! という鐘の音が響き出す。
 今度はあえて音を立てて追い立てる作戦のようだ。

「二班は連中が出て来た倉庫を探索しろ。あの作業車は人数が乗れない、もしかすると要救助者が残っている可能性がある」
「はっ!」
「一班! 車が破壊されたものは二班の車に乗り換えろ、俺に続け! 魔物狩りだ!」
「はい!」

 次々と指示を出し、東国貴族を追い詰めにかかる。

「オウガ隊長」
「おう?」
「こっちは従魔を使って空から探すぞ」
「っ、民間人を捕物に関わらせるのはマズイんだが、もう今更か。頼んだ」
「おう! フォルテ頼んだぞ」
「ピャウ!」

 バサッと羽を広げたかと思うと、すぐに上空高くに舞い上がる。
 こういうところは普通の鳥と全く違う部分だ。
 フォルテは飛ぶときに反動を必要としないし、翼を羽ばたかせて飛ぶというよりも魔力で自分を動かしているという感じなのである。
 鳥に見えてもその本質はドラゴンの盟約なのだなと感じる。

 急発進した車に同乗しながらフォルテの意識を追うのは辛いが、まぁ自分で走るよりはマシだ。
 ガッタンガッタン揺れ動く体を意識しないようにフォルテの目から風景を見る。
 周囲を見回しても、あの特徴ある作業車の姿がない。
 おかしい、あんな目立つ姿がわからないはずがない。
 そこで、すでにどこかに隠れているか、停まっているのかもしれないと考え、動いているものを探すのを止め、あの金属の魔物のような姿を風景のなかから探す。

「いた! いや、あった!」
「本当か? どこだ」
「ん~なにやら大きなガラクタみたいなものがいっぱい積み上げてあるところに転がしてあるぞ、なかに人はいないようだ」
「なんだと……しまった! そういうことか」

 俺の報告に、衛兵隊長が悪態をつく。
 そしてすぐさま通信の魔具を手にする。

「今手が空いている全車に告ぐ! すぐさま東国技術の工場の入り口を抑えろ! 裏門も見落とすな! 東国貴族の特徴がくっきりと出ている連中だ。火薬筒を所持している。発見したら撃ってもいい」
「工場?」

 俺は引き続きフォルテの視界からあの東国貴族たちを探そうを意識を向けながら、衛兵隊長の言葉に感じた疑問を口にした。

「ああ、東国資本の下請け工場なんだが、そこに逃げ込まれると私有地なんで、捕まえるのが難しくなる。なにより、海に面した工場には専用港があってな。船を持ってやがるんだ」

 その言葉に、俺は強い危機感を覚えた。

「つまりその工場に逃げ込まれたら逃げられてしまうってことか」
「ああ、東国資本の工場は言うなれば距離の離れた東国の国土のようなもんだ。逃げ込まれたら終わりだ」

 やばいな、最初の手配で作業車を追っていたせいで、人間は見逃してしまった可能性がある。

『隊長!』
「どうした?」
『工場は丁度昼休憩の終わり時間で、工場に戻る作業員がごった返していて、全てを足止めするのが厳しそうです』
『……ああん? お前ら、遅れた分の給金払ってくれるんだろうな? クビになったらどうしてくれるんだ?』

 報告する衛兵の近くから別の声が聞こえた。
 工場の作業員だろう。
 くっそ、タイミングが悪すぎる。
 俺は焦りを抑えてフォルテの目に集中した。
 相手は犯罪者だ。しかも貴族だ。一般の作業員と同じ行動を取るはずがない。
 集団に紛れようとすれば必ず違和感がある。

「いたぞ!」
「本当か? どこだ!」
「工場の裏口か? 比較的人が少ない入り口の向かい側の角から様子を窺っている。この車が一番近い」
「ちっ、間に合え! おい、ルートの指示を出せ」
「ああ、次の角を右に、そのまま真っすぐだ」

 衛兵隊長は警鐘を止め、車をすごい勢いで突っ走らせた。
 ガンガンと車体が跳ねて、下手をすると舌を噛みそうだ。
 その無茶が功を奏して、今にも飛び出そうとする犯人たちの目前に回り込むことに成功した。

「っ! 貴様らぁ!」
「それはこっちのセリフだぁ!」
「ちょ、おい!」

 あろうことか、衛兵隊長は車の操作を放り出して外に飛び出した。
 おい、これ、俺にどうしろって言うんだ?
 もちろんどうも出来るはずもない。
 車は直進し、壁に激突した。

「ってぇ、くっそ」

 ほうほうの体で車体から這い出し、隊長と東国貴族たちのいるはずの方向を見る。
 その途端、ガァアアアアン! という、聞き覚えのある音が響いた。
 隊長さんがその体を小さく揺るがせる。
 例の銃だから火薬筒だかいうやつの攻撃が当たったのか?
 だが、衛兵隊長は倒れることも後退することもなかった。

「ガアアアアアアッ!」

 まるで、彼こそが魔物であるかのように叫ぶと、犯人たちに飛び掛かっていく。
 相手がまたあの銃とかいうものを構えているのが見える。

「フォルテ!」

 俺の言葉にしない指示を受けて、フォルテが銃を持つ東国貴族に突っ込む。

「こ、こいつなんだ! うわぁ私の銃が!」
「死にさらせぇ!」

 隊長さんが叫びながらその東国貴族を殴りつけた。
 おい、殺しちゃ駄目なんだろ?
 それを見たもう一人が、必死に工場のほう、つまり俺がぶつかった壁のほうへと走って来た。

「まぁ、捕まっとけ」
「ひ? えっ?」

 俺は軽くその東国貴族の足元を払うと、転がったところに体重を掛け、軽く背中に手刀を叩き込んで体の機能を一瞬止めてやり、その間に両腕を背中にまわして完全に身動き出来ない状態にしてやった。

「ゲホッ! き、きさま私を誰だと!」
「知らん。ああいや、誘拐犯だろ、知ってた」
「はなせぇ!」
「うるさい」

 腕をギリギリと背中側に引っ張る。

「ギャアアア!」
「うるさいって言ってるだろ? 騒ぐとまたやるぞ」
「ひぃ……」

 うん、おとなしくなったな。
 俺はもう一人をズルズルと引きずって来る衛兵隊長さんを、東国貴族の上に座り込んで待つことにしたのだった。
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