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第63話:古代遺跡の守護者
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封印の扉の向こう側は、空気が一変した。
今までの通路よりも、さらに古く、神聖な、それでいてどこか物悲しい雰囲気が漂っている。壁には、星々や神話の生物を描いたと思われる、精緻なレリーフが施されていた。ここは、単なる地下遺跡ではない。かつて、何らかの儀式が行われていた神殿のような場所なのだろう。
「すごい……こんな場所が、王城の真下にあったなんて」
リリアが、感嘆の声を漏らす。彼女は、壁画に描かれた古代エルフの文字を、懐かしそうに指でなぞっていた。
「へっ、大したもんだ。うちの爺さんたちが作った扉が、まだピンピンしてやがったとはな」
フレアも、自分の先祖の仕事ぶりに、満足そうな笑みを浮かべていた。
だが、感心してばかりもいられない。
俺たちの前には、広大なホールが広がっていた。そして、そのホールのあちこちに、人影のようなものがいくつも佇んでいる。
それは、人間ではなかった。
全身が、黒曜石のような滑らかな石でできた、人型の石像。その数は、二十体以上。彼らは、槍や剣を構え、まるで衛兵のようにホールを警護していた。
古代遺跡の守護者、ガーディアン・ゴーレムだ。
俺たちがホールに足を踏み入れた瞬間。
全てのゴーレムの、顔のないはずの顔に、赤い光が灯った。
『侵入者ヲ、確認』
『排除、スル』
合成音声のような、感情のない声が、ホール全体に響き渡る。
ギギギ……と、石が擦れる音を立てて、ゴーレムたちは一斉に動き始めた。その動きは、フレアが戦った鉱山のゴーレムとは違い、驚くほど滑らかで、洗練されていた。
「ちっ、面倒なのが出てきやがった!」
フレアが、ウォーハンマーを構える。
「アッシュ様、フレア様、お下がりください! ここは、わたくしが!」
リリアも、弓を構え、破魔矢をつがえた。
だが、俺は二人を手で制した。
「待て。戦うな」
「はあ? 何言ってんだい、アッシュ! やらなきゃ、やられるぞ!」
フレアが、焦ったように言う。
「いいから、俺を信じろ」
俺は、静かに言った。そして、一人で、ゆっくりとゴーレムの群れへと歩み寄っていった。
『排除対象、接近。攻撃ヲ、開始スル』
一体のゴーレムが、俺を標的と定め、その石の腕を振り上げた。
リリアとフレアが、息を呑むのが分かった。
俺は、足を止めなかった。ただ、まっすぐに、ゴーレムの群れの中心へと歩いていく。
俺が願うのは、一つだけ。
(ここは、ただ通り抜けたいだけだ。争うつもりはない)
ゴーレムの拳が、俺に向かって振り下ろされる。
だが、その拳が俺に届く、ほんの数センチ手前で、ゴーレムの動きが、ぴたりと止まった。
『……?』
ゴーレムの頭部で、赤い光が困惑したように明滅する。
『エネルギー循環、エラー。原因不明ノ、機能不全』
そのゴーレムは、腕を振り上げたまま、完全に沈黙してしまった。
それを皮切りに、信じられない連鎖反応が起きた。
俺が、一体のゴーレムの横を通り過ぎる。
その瞬間、そのゴーレムの赤い光が、ふっと消えた。
『動力炉、停止』
また一体、俺の近くで槍を構えていたゴーレムが、突然ガクンと膝をつき、そのまま前のめりに倒れた。
『関節制御システム、ダウン』
俺が、ゴーレムの群れの真ん中にたどり着く頃には、俺の周囲半径五メートル以内にいた全てのゴーレムが、その動きを止めていた。
あるものは、片腕を上げたまま固まり、あるものは、その場で崩れ落ち、ただの石の瓦礫と化していた。
「……な、なんだ、こりゃあ」
フレアが、呆然と呟いた。
「……古代のゴーレムは、周囲の魔力の流れを動力源としています。アッシュ様の力が、この遺跡の正常な魔力の流れを、強制的に『中和』あるいは『無効化』してしまっている……? そんな、馬鹿な……」
リリアが、信じられないという顔で分析する。
俺の力が、この古代遺跡のシステムそのものに、バグを発生させている。
それは、もはや『幸運』という言葉では説明できない、規格外の現象だった。
俺という存在自体が、この世界の理にとって、強力なアンチウィルスソフトのようなものなのかもしれない。
俺が、ホールの中心を通り過ぎ、出口へと向かう。
すると、俺の背後で、停止していたゴーレムたちが、再び動き始めた。
赤い光が灯り、システムが再起動する。
だが、彼らはもう、俺たちを追ってはこなかった。
『脅威レベル、再計算。……理解不能。監視ヲ、継続スル』
彼らは、俺という理解不能な存在を、敵と認識することを、放棄したようだった。
俺たちは、一体のゴーレムにも傷つけられることなく、広大なホールを無傷で通り抜けることができた。
「……おい、アッシュ」
フレアが、俺の顔をまじまじと見つめてきた。
「あんた、ひょっとして、歩くゴーレムキラーなのかい?」
「……さあな」
俺は、曖昧に笑うしかなかった。
ホールの向こう側は、一本の長い通路になっていた。
そして、その通路の突き当たり。
そこから、複数の人の話し声と、禍々しい魔力の気配が、はっきりと感じられた。
間違いない。
この先に、ヴァルザーと魔族がいる。
俺たちは、ついに、密会の現場へとたどり着いたのだ。
俺たちは、顔を見合わせ、力強く頷いた。
そして、息を殺し、音を立てないように、ゆっくりと、その声がする方へと、近づいていった。
歴史が、動く瞬間が、すぐそこまで迫っていた。
今までの通路よりも、さらに古く、神聖な、それでいてどこか物悲しい雰囲気が漂っている。壁には、星々や神話の生物を描いたと思われる、精緻なレリーフが施されていた。ここは、単なる地下遺跡ではない。かつて、何らかの儀式が行われていた神殿のような場所なのだろう。
「すごい……こんな場所が、王城の真下にあったなんて」
リリアが、感嘆の声を漏らす。彼女は、壁画に描かれた古代エルフの文字を、懐かしそうに指でなぞっていた。
「へっ、大したもんだ。うちの爺さんたちが作った扉が、まだピンピンしてやがったとはな」
フレアも、自分の先祖の仕事ぶりに、満足そうな笑みを浮かべていた。
だが、感心してばかりもいられない。
俺たちの前には、広大なホールが広がっていた。そして、そのホールのあちこちに、人影のようなものがいくつも佇んでいる。
それは、人間ではなかった。
全身が、黒曜石のような滑らかな石でできた、人型の石像。その数は、二十体以上。彼らは、槍や剣を構え、まるで衛兵のようにホールを警護していた。
古代遺跡の守護者、ガーディアン・ゴーレムだ。
俺たちがホールに足を踏み入れた瞬間。
全てのゴーレムの、顔のないはずの顔に、赤い光が灯った。
『侵入者ヲ、確認』
『排除、スル』
合成音声のような、感情のない声が、ホール全体に響き渡る。
ギギギ……と、石が擦れる音を立てて、ゴーレムたちは一斉に動き始めた。その動きは、フレアが戦った鉱山のゴーレムとは違い、驚くほど滑らかで、洗練されていた。
「ちっ、面倒なのが出てきやがった!」
フレアが、ウォーハンマーを構える。
「アッシュ様、フレア様、お下がりください! ここは、わたくしが!」
リリアも、弓を構え、破魔矢をつがえた。
だが、俺は二人を手で制した。
「待て。戦うな」
「はあ? 何言ってんだい、アッシュ! やらなきゃ、やられるぞ!」
フレアが、焦ったように言う。
「いいから、俺を信じろ」
俺は、静かに言った。そして、一人で、ゆっくりとゴーレムの群れへと歩み寄っていった。
『排除対象、接近。攻撃ヲ、開始スル』
一体のゴーレムが、俺を標的と定め、その石の腕を振り上げた。
リリアとフレアが、息を呑むのが分かった。
俺は、足を止めなかった。ただ、まっすぐに、ゴーレムの群れの中心へと歩いていく。
俺が願うのは、一つだけ。
(ここは、ただ通り抜けたいだけだ。争うつもりはない)
ゴーレムの拳が、俺に向かって振り下ろされる。
だが、その拳が俺に届く、ほんの数センチ手前で、ゴーレムの動きが、ぴたりと止まった。
『……?』
ゴーレムの頭部で、赤い光が困惑したように明滅する。
『エネルギー循環、エラー。原因不明ノ、機能不全』
そのゴーレムは、腕を振り上げたまま、完全に沈黙してしまった。
それを皮切りに、信じられない連鎖反応が起きた。
俺が、一体のゴーレムの横を通り過ぎる。
その瞬間、そのゴーレムの赤い光が、ふっと消えた。
『動力炉、停止』
また一体、俺の近くで槍を構えていたゴーレムが、突然ガクンと膝をつき、そのまま前のめりに倒れた。
『関節制御システム、ダウン』
俺が、ゴーレムの群れの真ん中にたどり着く頃には、俺の周囲半径五メートル以内にいた全てのゴーレムが、その動きを止めていた。
あるものは、片腕を上げたまま固まり、あるものは、その場で崩れ落ち、ただの石の瓦礫と化していた。
「……な、なんだ、こりゃあ」
フレアが、呆然と呟いた。
「……古代のゴーレムは、周囲の魔力の流れを動力源としています。アッシュ様の力が、この遺跡の正常な魔力の流れを、強制的に『中和』あるいは『無効化』してしまっている……? そんな、馬鹿な……」
リリアが、信じられないという顔で分析する。
俺の力が、この古代遺跡のシステムそのものに、バグを発生させている。
それは、もはや『幸運』という言葉では説明できない、規格外の現象だった。
俺という存在自体が、この世界の理にとって、強力なアンチウィルスソフトのようなものなのかもしれない。
俺が、ホールの中心を通り過ぎ、出口へと向かう。
すると、俺の背後で、停止していたゴーレムたちが、再び動き始めた。
赤い光が灯り、システムが再起動する。
だが、彼らはもう、俺たちを追ってはこなかった。
『脅威レベル、再計算。……理解不能。監視ヲ、継続スル』
彼らは、俺という理解不能な存在を、敵と認識することを、放棄したようだった。
俺たちは、一体のゴーレムにも傷つけられることなく、広大なホールを無傷で通り抜けることができた。
「……おい、アッシュ」
フレアが、俺の顔をまじまじと見つめてきた。
「あんた、ひょっとして、歩くゴーレムキラーなのかい?」
「……さあな」
俺は、曖昧に笑うしかなかった。
ホールの向こう側は、一本の長い通路になっていた。
そして、その通路の突き当たり。
そこから、複数の人の話し声と、禍々しい魔力の気配が、はっきりと感じられた。
間違いない。
この先に、ヴァルザーと魔族がいる。
俺たちは、ついに、密会の現場へとたどり着いたのだ。
俺たちは、顔を見合わせ、力強く頷いた。
そして、息を殺し、音を立てないように、ゆっくりと、その声がする方へと、近づいていった。
歴史が、動く瞬間が、すぐそこまで迫っていた。
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