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番外編【詩理】
私に言葉をささやいて
しおりを挟む「うわぁ!可愛いですね。詩理さん、制服に合ってますね」
「そんなことありません。月子お姉様も同じ制服じゃありませんか」
卒業アルバムを見ながら月子お姉様と二人で『ときラブ』2をプレイし、語り合っていた。
私のために月子お姉様がご購入してくださった。
異世界編と銘打ったこの続編の見どころは衣装だという。
それぞれのキャラクターカラーに合わせた部屋、服、学園編の話を引き継いだアイテム。
秀逸で素晴らしいと月子お姉様が語っていた。
学園編の話から、女子高だった話をすると同じ学校の先輩と後輩にあたることがわかり、卒業アルバムを見ることになった。
月子お姉様は自分のアルバムは見せれません!とかたくなに拒否されたので、私の卒業アルバムだけだったけれど―――
「こんな可愛い詩理さんをふるなんて……。どんな傲慢な人間ですか」
チラチラと月子お姉様は天清お兄様と仕事の話をしている遠堂を横目で見た。
「よっぽどのイケメンじゃないと許されませんよ」
ばむっとアルバムを閉じて、じぃっーと遠堂を見ていた。
「まさか自分は鷹影龍空様よりかっこいいと思っているんじゃ……」
月子お姉様のナンバーワンにしてオンリーワンの龍空様と比べられて勝てるのは天清お兄様だけだと思いますけどと思いながら、ちらりと遠堂を見た。
遠堂は始めはきこえないふりをしていたものの、とうとう根負けして反論した。
「いろいろと事情があるんですよ。月子さんには想像できないレベルの話です」
「はー……八十瀬勝巳様なら、カッコよく『今は無理でも後で迎えに行く、きっとだ』って言う所ですよ」
「おかしな妄想はやめて下さい」
「ノリが悪いですね。これだから、遠堂さんは……」
がっかりですと月子お姉様が言った。
「月子、俺は言えるよ!」
お兄様はさわやかな笑顔をで月子お姉様にアピールしていた。
意外と尽くすタイプですよね……お兄様。
「天清さんは特別ですから」
月子お姉様は得意げな顔で頷いていた。
「夫婦の信頼関係の差がここででるな。遠堂」
お兄様までドヤ顔をしていた。
遠堂は苦い表情で書類をめくり、お兄様には反論できず、黙っていた。
言い返して欲しかったのに。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「なにか機嫌が悪くありませんか」
帰りの車の中で遠堂は助手席に座る私に聞いてきた。
ふくれっ面にもなるわ。
私は遠堂の奥さんになったのに―――
「ねえ、遠堂。いつになったら、その敬語はやめてくれるの?」
「それは……」
「私は名前で呼んでもいいわよね?」
渋々遠堂はうなずいた。
今、私は車の助手席に座っているのだって、後部座席に座るべきだという遠堂を説得して助手席に座っている。
隣に座りたいのに座れないなんて、絶対におかしい。
しかも新婚の新妻という私の立場で後部座席行きとはあまりにもラブラブ要素が少なすぎる。
むうっと遠堂をにらみつけた。
「私達、結婚したのよね?どうして距離を置くの?」
泣きたい気持ちでうつむくと遠堂は車をとめた。
「置いたつもりはありません。ただまだ天清さんに仕事でアドバイスを受ける身です。せめて一人前になってから―――」
ぐいっと遠堂の腕をひっぱり、頬に不意打ちでキスをした。
お兄様、お兄様って、いつも遠堂はお兄様が一番なんだから。
いつもの仕返しのつもりだった。
遠堂は慌てるだろうと思って、くすりと笑うとそんなことはなかった。
目を細め、私を見下ろし、ふっと口の端をあげた。
「悪い子ですね。こちらが我慢しているというのに」
「遠堂―――」
顎をつかまれ、唇を重ねた。
結婚式以来のキス。
でもそれは浅いキスなんかじゃなくて、深い大人のキスだった。
息ができず、遠堂にしがみつくと耳元でそっと囁いた。
「好きですよ、詩理さん」
ず、ずるい。
今、私がなにも言えないと分かっていて。
呼吸を整え、恨めしい顔で遠堂を見ると笑っていた。
本当は私が笑うはずが……
「キスは唇にするものですよ?夫婦なんでしょう?」
ちょんちょんっと唇を指で押さえた。
く、悔しい。
また私は敗北感を味わった。
もしかして、遠堂って私が悔しがる顔を見て楽しんでない?
車を運転する横顔は満足そうで、その疑惑は疑惑のまま。
私が思うより、遠堂は悪い男なのかもしれない―――
その顔を見て、そう思わずにはいられなかった。
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