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2章 闇の魔力
27 禁忌魔法であの日に戻る
しおりを挟む「ドクトリング! 俺はやり直したい」
ドクトリングの研究所で、俺はやり切れない気持ちをぶつけた。アカツキにはやられっぱなしだし、父と母はあいつのせいでいなくなるし悔しかった。
「お兄ちゃん」
ちょうど研究所に来ていた愛里と会った。ドクトリングとお茶を飲んでいたようだった。
「やり直したい、とは?」
ドクトリングは困った顔をして俺に言った。
「なんか、時を戻すような魔法とかない? それか、肉体強化魔法とか?」
俺は大まじめに言った。
「お兄ちゃん、無茶を言わないの! そんな魔法……「あるには、ある……」」
「「あるの!?」」
俺と愛里は同時に叫んだ。
「ただ……。それは、禁忌魔法じゃが……」
ううむ……。と口ごもって黙ってしまった。
「肉体強化魔法は、上級魔法使いなら使えるじゃろ。アリシア姫様とかなら……」
姫様、上級魔法使いなんだ。凄い。
「時を戻す魔法というより、一人を少しだけ過去に戻す禁忌魔法は、ある」
少しだけ過去に戻す、禁忌魔法!?
ドクトリングは「しまった」と言った。口を滑らせたのだろう。
「ム、ム、ムりじゃ!」
両手を左右に振って、汗をかきながら無理と言っている。
「たとえば、ドクトリングが言った禁忌魔法を行うとしたらどうするの? お兄ちゃん」
ゆったりとお茶を飲んでいた愛里が、立ち上がって俺に話しかけてきた。にこやかな表情から真剣な顔になった。
「アカツキに会った、あの日に戻ってやり直したい!」
「えっ!」
あの時に戻ってアカツキを捕まえれば、城壁を壊されなかった。
父と母もいなくなる事なんて無かった。
あの時に戻れれば……!
「でも、禁忌魔法なのでしょう? ドクトリング」
愛里がドクトリングに振り返って聞いた。長い艶のある髪の毛はサラリと流れた。今はベールを被っていない。
「まあ、そうじゃが……。やれんことはない」
ひげを触り考え込んでいる。禁忌魔法というぐらいだから、危険なのだろうか?
「危険なのですか?」
「半分は……、な」
ドクトリングは俺達交互に見て話しかけた。
「この魔法は未知のモノじゃ。何が起きてもおかしくない」
俺はゴクリとツバを飲み込んだ。
「俺は……。このままジッとしてられない」
指を強く握りしめた。
「ウウム……。この禁忌魔法は儂が禁忌にしたのじゃ。力のない者が使うと、暴走する」
「暴走……」
やはり危険なんだ。
「じゃが、儂と愛里様が同時に力を使うなら、可能じゃ」
え? 愛里となら?
「私?」
愛里はキョトンとしていた。ドクトリングと一緒とはいえ禁忌魔法を使えると言われて、動揺していた。
「愛里。ドクトリングと、その禁忌魔法を使って俺を少し前の過去に送ってくれないか?」
自分でむちゃを言っているのは分かっている。だけど、このままじゃ。また、アカツキが奇襲しに来るだろう。そうなったらまた犠牲者が出る。
それならこちらが先に手を打つ。
「……分かったわ、お兄ちゃん。ドクトリング、お願いしてもいいかしら?」
愛里は何か決心したように、俺とドクトリングに言った。
「愛里……! ありがとう」
「……分かった。しかし。過去に行き、何かを変えようとしたら今の何かが、変わってしまうことを覚悟してくれ」
今の何か……?
「過去を変えるということは、そういうことじゃ」
「わか、分かった……」
俺は頷いた。手が震えてきた。ドクトリングは「ちょっと待っておれ」と言って、隣の部屋に行った。
「これじゃ。この魔術書じゃ」
そう言い、テーブルに赤い表紙の魔術書を置いた。
「愛里様。儂と愛里様の名前を交互に言ったあと、続いて呪文を唱えるのじゃ」
「……はい」
俺は剣を強く握った。
「……大賢者 ドクトリングと、」
「愛里「の名において」」
ドクトリングと愛里は難しい呪文を唱えていった。魔術書の上に手のひらを重ねた。
「……!」
禁忌魔法の魔術書は眩しい光を放ち、部屋全体を照らした。俺は眩しくて、まぶたを閉じた。
「くっ……!」
腕で目を守って動けず、立ちつくしていた。二人の魔法の詠唱は続きいていたが、だんだん遠くに聞こえるようになった。
眩しい光が静かに収まっていって、俺は目を開けた。
「ここは……森だ」
ドクトリングの研究所のある塔に3人でいたはずなのに、深い森の中に俺は立っていた。
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