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忘我混沌【ぼうがこんとん】

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「葵?先生がとりあえずエリックは大丈夫だからまた明日来いって。」

「そう。じゃあ、帰ろっか?」

車に乗っても、葵は押し黙ったまま車窓を眺めていた。
そうしてるうちに葵のマンションに着いた。

「ありがとう。司も今日はユックリ休んで?」

「怪我・・してるんだろ?今日は俺も泊まるよ。」

「・・・。大丈夫だよ、心配しなくて大丈夫。」

「駄目だ!俺が大丈夫じゃない!」

「っ・・。」

葵は司と視線を合わせようとしない。

「車停めてくるから先に行ってて。」

「わかった。」

車を降りてマンションに入っていった。
司は車を停めると部屋に向かう、葵はソファーに座っていたが辛そうにしていた。

「葵っ!大丈夫か?これ先生から痛み止め貰ってきたから。」

キッチンから水を持ってくると薬を渡した。

「はっ・・。大丈夫だよ。」

「大丈夫じゃないだろっ!とにかく、薬飲んで?」

口の中に薬を入れると水を飲ませた。

「ケホッ・・ケホッ・・っ・・。」

「ごめん。大丈夫か?」

葵の背中をさすった。

「うん。もう、大丈夫だから。」

司から距離を取ろうとした。

「・・・。」

ソファーの背もたれに片手を付いて逆に葵との距離を縮めた。

「葵。俺、何かしたかな?避けられるような事。」

「・・・。」

相変わらず視線を合わせてくれない。

「言ってくれ?何かあるなら直すから?」

「違う。」

「えっ?」

「司は何も悪くない。私の気持ちの問題だから。」

「それってどういう意味?」

一瞬、視線が絡むが直ぐに目を伏せてしまった。

「・・・。あの時・・、司に止められなかったらレインを撃ってた。レインに銃口を向けられている司を見たら、目の前が真っ赤になった。完全に我を忘れてた。まるでアメリカに居た頃みたいに。変わってないんだって思った・・。やっぱり私は司に相応しくないんじゃ・・。」

司は葵の言葉を遮った。

「葵?それは、俺を助けるためだろう?それに葵は変わったよ。初めて会ったときより感情が豊かになった。笑ったり怒ったり戸惑ったり、今みたいに悩んだり。もし、また我を忘れる事があったら俺が止める。何度だって。だから相応しくない事なんてないんだ。」

「司・・。」

視線が絡んだ。

「やっと俺の事見てくれたな。何も気にすることなんてない。どんな葵だって俺は好きだよ。」

優しく微笑んだ。
司の笑顔を見ていると心に渦巻いていた黒い感情が波のように引いていった。

「ありがとう・・・。」

「うん。今日はもうゆっくりしたほうがいい。」

葵を抱き抱える。

「司っ?大丈夫、歩けるから!」

「駄目だ。本当は痛いんだろ?」

諦めたように身体を預けた。

「ほんと、先生も司も過保護・・。」

「過保護で結構!」

「ふふっ・・。そう?」

笑いあいながらベッドに寝かせた。

「眠るまで側に居るから。もう目を瞑って?」

「・・・うん。」

目を閉じると司が手を握ってくれた。
薬が効いてきたのか痛みが少しひいてきた。
疲れもあってか次第に眠りに落ちていった。
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