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第十三話 僕と彼

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 話を聞いたのは、真部との模擬戦の後だった。王城で働いているメイドがこんな噂を教えてくれた。なんでも夜遅く裏庭に白い靄をまとった目が禍々しいほど赤く光る不気味な姿をした亡霊が出るというものである。
 裏庭では昔、貴族の死刑が行われていたそうで、その亡霊が今になって現世に現れたとのことだった。

 その噂のことはクラスのほとんどが知っており、女子の中では娯楽の一環として裏庭に行き、そこで確かに噂の亡霊を見たと言っている。しかもその亡霊は「違う違う」と喋っていた。もしかしたら本当に貴族の亡霊で未練を残し成仏じゃないかと噂ばかりが大きくなる。

 そこで白羽の矢が立ったのが僕だった。
 僕は皆が寝静まった夜中に、こうして薄暗い裏庭に足を運んでいる。しばらく待ってみるが、一向に亡霊が現れる気配がない。
 そろそろ帰ろうと歩き出すと裏庭の奥から気配を感じ、剣に手をかける。目を凝らし相手が、光の当たる所まで近づくとそこには目立つ銀髪の髪の少女がいた。

「アリアさん・・・・驚かさないでください。ところでなんでこんなところに居たんですか?」

「散歩中」

 相変わらずアリアさんは淡白に答える。しかしこれで噂の正体が判明した。亡霊でもなんでもなくただアリアさんの銀髪の髪が、月明かりに照らされ輝きそれを亡霊だと勘違いした。
だが一つ引っかかるのは赤い目というところである。アリアさんの目は透き通るほど青いきれいな目だ。
 とても禍々しい赤い目に見間違えるとは思えない。だが時に恐怖は勘違いをさせるものだと思い考えるのをやめた。

 次の日、皆には亡霊はいたが害はないと言っておいたが、残念ながら噂は治まらず、遂にはその亡霊は剣を持っておりメイドの一人が襲われたとよくわからない尾ひれまで付き始めた。
 というわけでまた別の日に今度は退治のために裏庭に行かなければならなくなった。だがやることは簡単でアリアさんにここを散歩コースから外してもらうだけで済むのだ。

 裏庭へ行くとメイドたちが言っていた白い靄と確かに赤い目が見えた。それは明らかにアリアさんとは別の気配だった。しかも剣を構えている。
 僕はそれに気が付くと剣を構え、気づかれないうちに退治しようとした。すると何かに引っ張られ建物の影に連れ込まれてしまった。
 僕は剣を構え直し、引っ張った張本人を見た。今度こそアリアさんがいた。アリアさんは口元に人差し指を当て、声を出さないように俺に言う。

 物陰から裏庭を見るとちょうど月明かりが裏庭を照らしていた。そこにいたのは真部だった。
 メイドが勘違いした白い靄とは剣に付魔(エンチャント)を付けた剣のことで、赤い目は彼の茶色い目が白い靄と重なり赤く見えたのだと思った。
 真部が剣を構えている先には、訓練で使う人型の木の人形が立っており離れた位置から剣を振る。すると剣から飛ぶ斬撃(スラッシュ)が飛び出し人形に命中する。

 アリアさんの顔は日ごろ動くことはない。クラスの中でも彼女は笑わない、表情筋が死んでいるなど、その無表情さは有名だ。だが今こうして隠れて彼を見ている表情は、口角が上がり笑っているように見えた。
 以前彼女がここにいたのは恐らく彼の秘密の特訓を影から見るためなのだろう。

 僕は手の平に爪が食い込むほど力強く握った。もちろん自分も飛ぶ斬撃(スラッシュ)はできる。彼よりも高威力なのを出している自信はあるが、この悔しさは何だろうか。
 彼に負けてから毎日のように鍛錬を続けている。最近では必殺技の開発にも力を入れている。劣っているところはないはずなのにあの時以上の敗北感が僕の中に広がる。

「僕は彼に勝てるでしょうか?」

 無意識に出た声に驚き、手で口を塞ぐ。アリアさんは何もかも見透かしたような青い瞳で僕を見る。
 何も言わないでくれ・・・・。
 その答えが怖く、僕は目を瞑ってしまった。ただ彼が時より振る剣の音しかしない。アリアさんは俺の意を汲んでくれたのか答えない。

 亡霊騒動の原因である彼には、彼女が事情を伝えてくれるそうでその日は部屋に戻った。部屋に着くと腰に着けている剣を床に叩きつける。ガシャンと大きな音が鳴る。
 その際鞘から少し剣が抜ける。日頃の鍛錬の所為であっちこっちに傷や凹みがあり、柄は白いものだったが、今では少し黄ばんでいる。
 自分も勇者としてこの世界に来てから人一倍努力してきた自信もある。毎日のように誰も起きてないような朝早くから剣を振り、魔力を操る訓練も欠かしたことはない。

 だが負けた。勇者でもましてや剣士でもない彼に本気で挑んで負けた。あの時彼は僕がスキルを使ってないと言ったが、僕はスキルを使っていた。
 僕のスキルは一つが常時発動型で、もう一つが戦闘開始と同時に発動するものだ。常時型はスキルを止めることはできないが、もう一つのスキルは別だ。僕は明確な意思でそのスキルを使っていた。
 それは時間経過とともに自身の防御が上がるものだ。今の彼の攻撃なら五分もしないうちに盾で受けた衝撃も僕への直接的な攻撃も何もかも効かなくなる。

 それでもあの場ですぐにトドメを刺さなかったのは、力の差を見せつけたかったからだ。彼を突き放したかった。あの目が、僕の目を見て来るあの目を少しでも反らすために。

 けれど結果はスキルを使ってない彼にスキルを使った僕は負けた。

 僕はベッドに倒れ込み目を瞑る。瞼には彼が剣を構え振る姿、僕の剣を弾いた時の姿がこびりついてた。
かっこいい・・・・。
 繰り返されるその姿にこう思ったとき、頬に熱い何かが流れた感覚があった。
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