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1 鑑定の儀編

3-9 副官は思う

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 キャァァァァァ!

「聞いて聞いて聞いて聞いて聞いて!」 

 アタシは久しぶりに執務室にやってきたカーシェイと掃討部隊長を捕まえた。
 だってだってだって。
 話したいことがたっくさんあるのに、ずっとアタシの話し相手が執務室に来なかったんだもの!
 師団長にもまったく会ってないし、副師団長にもほとんど会ってないし。
 たまりにたまりまくってるのよ、いろいろなものが!

「美少女ちゃんが、手料理、習い始めたんですって!」

 カーシェイはアップルパイ、掃討部隊長はクッキーなんて抱えてる。
 コレまた、たっくさんお話する準備万端ってヤツだわ! ナイスよ、辛気くさい顔にヤサグレ顔!

 二人を席につかせて、アタシの補佐くんズ、お茶よ、オチャー!

「ねぇコレって花嫁修行よね? 師団長、結婚オメデトーーー!」

 ヤサグレ顔の掃討部隊長から、クッキーを奪ってボリボリ…… ん? オイシーじゃないの!

「手料理はけっこう上達して、食べられるものになったんですって! ウン、愛よ、愛だわ、愛のなせる技よー!」

 辛気くさい顔のカーシェイから、アップルパイも奪ってムシャムシャ…… ん? コレもオイシーわ!

 カーシェイと掃討部隊長もいっしょになってボリボリムシャムシャ食べる食べる、アップルパイにクッキー。
 アラ? うちの補佐くんズにも薦めてるわ。気が利くわねー ボリボリ。

 そうそう、お菓子と言えば!!!

「でも、お菓子は暗黒物質になるんですって!」

 ムフ。万能じゃないところが、グッとくるわよねー
 アアーン、お菓子じゃなくて、美少女ちゃんを食べちゃいたいわー

「ていうのを、師団長にも話したのよー」

 もちろん、美少女ちゃんを食べちゃいたい話はナイショよ、ナイショ。ボリボリ。

「……その話、いつしたんですか?」

 ボリボリっと尋ねてくるカーシェイ。
 もちろん、ボリボリはクッキーかじる音よ!

「ん? 先週?」

「……なるほど」

「……どうりで」

 ボリボリボリボリ。

「で、ホントに師団長のために花嫁修行して手料理習ってんのか?」

 ボリボリっと尋ねてくる掃討部隊長。
 もちろん、ボリボリは以下略。

「なわけ、ないでしょー」

「おい」

 ボリボリボリボリ。

「美少女ちゃんは、家を出て独立しようと計画してるらしいわー」

 ンン、オイシー、止まらなーい。

「料理修行は花嫁修行じゃなくて、独立計画の一環ね。自炊なんて偉いわ、美少女ちゃん」

 ムシャムシャ。
 アップルパイもオイシー、止まらなーい。

「計画と言えば……
 師団長は、家を出た美少女ちゃんを自分んとこに連れ込もうと計画してたわー」

「……なるほど」

「……どうりで」

 ムシャムシャムシャムシャ。

「ところで、このクッキーとアップルパイ、オイシーわねー どこのお店?」

 食べながらお茶を一口飲んで、

「師団長の手作りです」

 ブフーーー

「うまいよな」

 ゲホゲホゲホゲホ。

「ゲホ、し、師団長にそんな趣味、ゲホ、あったかしらー?」

 ビックリ発言すぎて死ぬかと思った!

 無愛想の塊、冷徹な堅物、血塗れの戦闘狂、可愛らしさとは無縁なあだ名がズラリと並ぶ、アノ師団長がお菓子づくり?

「いや」

「ないですね」

 殺気で魔獣も気絶する、威圧で高位騎士も泣きをみる、平常でも一般人は硬直する、アノ師団長がお菓子づくり?

「じゃー、このクッキーは?」

「先週から練習し始めました」

「じゃー、このアップルパイも?」

「あの人、器用だよな」

 早っ! 上達、早っ!
 お店で売ってるレベルよ! ナニコノ、神業!

 天変地異の前触れカシラー?

 ん? まさか……

「これで美少女ちゃんを釣り上げて自分ちに連れ込もうと……」

「奇遇ですね、同じことを考えています」

「もう犯罪臭しかしないよな」

 天変地異じゃなかったわ、犯罪の前触れだったわ!

「ちなみに、グランフレイム厨房と同じレシピで同じ味、同じ食感だそうですよ」

「ええ? コレ、そーなの?」

「中でも、このクッキーとアップルパイは大好物だそうです」

「ちょっと待って。ソレって、ドコ情報?」

「ご存知ですよね、情報収集担当副官殿?」

「ヒィィィィィ!」

 アア、アタシだ! アタシ情報だった!

「もう犯罪臭しかしないよな」

 師団長、本気すぎる! コワい!

「お相手様に逃げられたら大惨事になりますので、しっかり見張っててくださいね」

 ムシャムシャっと話すカーシェイ。
 もちろん、ムシャムシャはアップルパイを食べる音よ!
 アップルパイ食べながら、コワいこと言わないで!

「逃げられて師団長が暴走したら、こっちの手に負えんからな」

 ムシャムシャっと話す掃討部隊長。
 もちろん、ムシャムシャは以下略。

「ええ、第六師団が壊滅しますね」

「さすが、物理最強」

 物騒なことをオイシそうに言い放つ二人。イヤイヤ、オイシーのはアップルパイだけど。

「アンタたち、平然とし過ぎてない?」

 そして、なぜか、アタシが睨まれる!

「「平然???」」

 補佐くんズも含めて、全員に睨まれた!

「師団長に会ってないんですか?」

「あの圧、ヤベェぞ」

「はひ?」

 コッチも忙しくて、師団長とまったく会ってないけど、どーいうことよ、アタシの補佐くんズ!

「師団長、お相手様に会えないイライラと、仕事が進まないイライラで。イライラダブル状態っす」

 補佐一号、ソレ、聞いてないわよ。
 マズい状態じゃないの!

「この前の手合わせで、突撃部隊と掃討部隊が全滅しました。次はうちかと他の部隊が震えてます」

「副師団長とカーシェイ副官も、動けなくなるまで、吹き飛ばされてたっす」

 補佐一号二号、ソレも聞いてないわよ。
 ヤバい状況じゃないの!

「ちゃーんと、エルヴェス副官に報告したっすよ」

 ジト目で言う、補佐一号。

「妄想で忙しくて、耳に入ってなかったようですが」

 ジト目で言う、補佐二号。

 そして、全員の目がアタシに注目。

「師団長、菓子つくってると気が紛れるらしいぞ」

「今後はお菓子消費も担当してくださいね、情報収集担当副官殿」

 ソノ日から、アタシの全ごはんは容赦なくお菓子となった。
 オイシーけどツラい。
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