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2 新人研修編

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 自然公園の中はいたって普通だった。

「あんなに人と結界で囲むほど?」

 思わず、言葉が出てしまった。

 だってだって。自然公園は見事なまでに平穏な姿を見せていて。
 ここで本当に魔物関係の何かが起きているだなんて、考えられないほど。

 朝早いせいか空気も澄んでいて、気持ちもいい。
 昨日からのもやもやもすっきりさせてくれる。そんな清々しさがある。

「こら、クロエル補佐官。気を引き締めて探索してくれよ」

「はーい」

 おっと。今日は私が探索係だったっけ。

 遊び半分だと思われたのか、ナルフェブル補佐官から注意された。

 ナルフェブル補佐官は記録係なので、車を降りてから、ずっと記録用の魔導具を動かしている。

 車も魔導具だから、ずっと魔力を使いっぱなし。
 ナルフェブル補佐官て、意外と魔力量が多いんだよね。

「ところでこれまでの四枚は、どこで見つかったんだ?」

「一枚目はこの入り口付近ですね。子どもが拾って時間が経ってからでしたので、はっきりとしたことは不明です」

 フィールズ補佐官は連絡係。

 このメンバーだと、伝達魔法を使える人がいないので、自然とフィールズ補佐官が連絡係になる。
 緊急時を見極めて、塔長や本部と連絡を取る、重要な仕事だ。

「二枚目、三枚目はこの先。池の周囲で見つかりました。これはアスター補佐官が場所の方も鑑定しているので、間違いありません」

 同時に、資料係のようなこともこなしている。万能な人だ。

「四枚目も池の周囲です。二枚目、三枚目の通報を受けて、第四師団が警邏をしている際、見つかりました」

 今日も、メダルに関する今までの報告や資料を読み込んできているので、どんな質問にも答えてくれる。

「場所の鑑定は、また、アスター補佐官か?」

「行っておりません」

 うん?

「第四師団の副師団長が、うちの警邏班が見つけたのだから鑑定の必要はない、と申されまして」

 え、そんなのあり?

「発見場所が正しいかは、鑑定する規則だろ。それに、第四師団は鑑定技能持ちがいないじゃないか」

 上司の人が言っていた。
 たまに、発見場所の偽造なんてのがあるんだと。

 偽造や偽証でないにしても、記憶があやふやなこともあるから、鑑定魔法ではっきりさせて、確証を得る。

「精霊魔法技能持ちがいるから十分だ、とおっしゃいまして。後々、問題にならないとよろしいのですけれど」

 絶対、問題にするよね、上司の人が。

「ともかく、一枚目、四枚目の場所は不確定ということだな。失敗作の四枚目が重要なのにな」

 うん、そうだよ。
 四枚目の近くに他にもメダルがあるかもしれない。それを探しに来たんだから。

 なのに四枚目の発見場所が正確でないかもしれないって。
 探索、舐めてるのか、第四師団!

「先ほどの騎士殿からは、池のさらに北側にある木立を重点的にと依頼されました」

「それなら、まずは池に向かって探索して、次に池の周囲、さらに北側の木立。この経路で行こう。
 クロエル補佐官、探索、よろしく頼むぞ」

 まぁ、そこら辺が怪しそうなのは確かだけど。私は足を止めた。

「えー。なんで全域探索しないで、ウロウロするんですか?」

「…………待て。クロエル補佐官、どういう意味だ?」

 私の発言に怪訝な顔をする二人。私に合わせて足を止め、私を見る。

「全域探索して、怪しいところだけ詳しく探索すればいいじゃないですか」

 補佐官の先輩には悪いが正論だと思う。効率もいいはず。フィールズ補佐官だって、端的が好きなんだから、合理的も好きだろう。

「クロエル補佐官。全域探索とはなんでしょう?」

 ほら、フィールズ補佐官が食いついた。

「一気にざざっと全部をチェックするんですよ。よくテラが赤の樹林でやってます」

 テラは毎日のように、赤の樹林全体をチェックしていたもんな。

 私の説明に黙り込む二人。

「私もテラに教わっているんで。このくらいの広さなら、このままで全部いけそうだし」

 赤の樹林くらいだと二翼ほど出さないと無理だけど、自然公園くらいの広さなら、無翼で問題ない。

 二人は黙り込んだままだ。

「あのー 二人とも、急に黙ってどうしたんですか?」

「いや、そんな、む、」

「いえ、問題ありません。
 では、クロエル補佐官。全域探索をして、気になる部分を詳細にということでいきましょう」

 ナルフェブル補佐官が何か言い掛けたような気がしたけど、許可は出た。
 ざざっとやって、パパッと終わらせよう。

「赤種って、無茶苦茶だな」

「魔力と技能の次元が違うだけで、中身は同じですよ、同僚殿」

「いや、そうか? そうなのか?」

 何やら話し込む二人を意識の外に追い出し、魔法陣を足元に展開させる。

「《広域探索》」

 力のある言葉を発すると同時に、足元の魔法陣から魔力の糸が広がって、公園全体を覆い尽くしていった。

 と、思いついて、もう一つ魔法を発動させる。

「《複製の視覚化》」

 私の頭の中に入ってきた探索情報を、目の前に複製して、二人に見えるような形に構築する。

 これを見れば、言葉で説明しなくても分かってくれるだろう。

「…………赤種ってやっぱり、無茶苦茶だな」

「…………魔力と技能の次元がすごく違うだけですよ、同僚殿」

 そうこうしているうちに、魔力の糸が隅々まで行き渡る。

 こうして探索すると、反応はあちこちから出てくるな。

 公園全体の縮小模型のようなものの上に、反応がある地点を青く光らせてみた。

「あちこち魔導具の反応があるな」

「灯りの魔導具や防犯用の魔導具ですね。クロエル補佐官、こういった量産魔導具を区別できますか?」

「ある程度は」

 量産魔導具は魔法陣の構造が単純だ。だから分かりやすい。

「あと、四枚目のメダルと同じものなら、私の魔力に反応して《防御》が起動するので、見つけやすいはずです」

「確かにそうですね。各魔導具の反応を探索してください」

「了解です」

 私は慎重に魔力の糸を操り、反応を確かめる。
 量産魔導具の反応を除外すると、残りはさほど多くない。

 あった! 四枚目のメダルと同じ反応!

「ここです!」

 量産魔導具の光を消し、反応があったところを赤く光らせる。

 そこは池の北側にある木立の中。

 そしてその数は、

「嘘だろ」

 十を超えていた。
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