精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

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5 出張旅行編

4-0 第六師団長の残念な旅事情

「で、そこでだ」

 俺、ラウゼルト・ドラグニールはこの日、第一塔の塔長で、エルメンティアの第三王子で、昔からつるんでいる馴染みでもあるレクシルドの突撃訪問を受けていた。

 ちょうどタイミング良く、フィアは隣の執務室で、エルヴェスに捕まっている。

 レクスが第六師団の師団長室にひとりで突撃するなんて滅多にないことだが。滅多にないことが起きるときは、ろくでもない話が持ち込まれるときだ。

 そして、フィアがいないときにレクスが俺に持ち込む話は面倒なものが多い。

 つまり、今まさに口を開いて、次の言葉を発しようとしているその内容は、ろくでもない上に面倒なもの。しかもとてつもなく。
 俺の脳裏に最悪の予想が浮かんでは消えていく。

 ハァ。

 自然とため息が漏れるのは致し方ないだろう。

 俺は、自分の額にシワがギュッと寄るのを感じながらも、レクスの次の言葉を待った。

「ラウゼルト、奥さん連れて中立エリアに旅行してこい」

「ァア? 中立エリア?」

 レクスが発した言葉はとんでもないものだった。

 中立エリアといえば、フィアの同種、赤種の三番目と昨今の騒動の中心である小さいメダルの開発者が、潜伏しているとされている場所。

 渦中の中立エリアへの旅行を、俺とフィアに対してこうも堂々と薦めてくるとはな。

 次の言葉なんて待つんじゃなかった。
 言葉を発しないように、飲み込ませれば良かったな。

 俺の顔を見ないよう、窓の方を気にするフリをして、レクスは話を続けた。

「遺跡都市のレスタスがあるだろ。新婚旅行にぴったりじゃないか」

「そう言って、フィアを中立エリアに行かせて、変化の赤種を誘い出すつもりだろ」

 レクスの魂胆は見え見えだ。

 俺の額にさらにシワが寄っているような気がする。

「ハハハハハ」

「ハハハハハじゃない。ほらみろ、そういう魂胆だろうが」

 笑って誤魔化せるものか。

 爽やかな笑顔をふりまく馴染みに向けて、殺気混じりの冷気を叩きつける。

 なのに、レクスはちょっとブルッと震えただけで、あとはお構いなしだ。

「国王からも言われただろ、仕事が絡んだお忍びという形で、って」

 待て。お前はあの場にいなかったよな。
 そうか。そういうことか。

 俺はさらに冷気を乗せて、レクスを睨み付けた。

「あれはこれか。お前が絡んでたのか。どうりで。国王のやつ、変な言い方するな、と思ってたんだ」

「変なとは失礼だな。とにかく、仕事が絡んだお忍びでレストス旅行。経費でたっぷり観光してもらっても問題ないぞ」

「仕事が絡んだお忍びという形、だろ。つまり仕事じゃないけど仕事のフリして行けってこと」

 睨み付けは継続しながら、俺は話を続ける。

「つまり仕事はしなくていいわけだろ」

 そう。旅行はあくまでもご褒美。
 仕事をするために旅行に行くわけではない。

「だいたい、旅費は国王持ちだと言われてるんだから、経費も何もない」

 蒸し暑くなりはじめた季節なのに、室内はヒンヤリしてきて、レクスの吐く息が白い。

「そもそもレクスの言いようだと、もろに仕事じゃないか。そういうのは旅行とは言わん。出張って言うんだ」

「いいじゃないか。出張でイチャイチャできるんだし」

 こいつ。イチャイチャできれば旅行だろうが出張だろうが、俺が文句を言わないとでも思ってるな。

 まったく、舐められたものだな。

 バリッ

 ソファーに座る俺の目の前で、花瓶に活けられた花が凍りついた。

 確かこの花は、フィアが飾ってくれた花だったな。
 あのくそ忌々しい護衛のやつが持ってきた花を、俺の心優しいフィアが気にかけて花瓶に活け、ローテーブルに置いたんだった。

 よし、明日からは俺がフィアに花を渡そう。フィアに花を飾ってもらう権利をあいつになんぞ、渡してたまるものか。

 バリバリ バリッ

 花は勢いよく凍りつき、ローテーブルを挟んで向かい側に座るレクスの表情も凍りつく。

「いいものか。何が楽しくて、フィアの初旅行を出張にしなくてはならんのだ」

「…………なら、どうするんだよ、旅行」

 冷気に口ごもりながらも、レクスはしぶとかった。

「夏場は樹林の活動が活発化するわけだし、来月からは忙しくなるだろ?」

「それは分かってる」

 凍りついてもレクスはレクス。当然の質問を俺に投げかけてくる。
 だからといって、レクスの口車に乗せられるわけにもいかない。思惑に乗せられるつもりもない。

「だがな、フィアの初旅行なんだぞ。それに新婚旅行でもある。思い出に残る素敵な物にしないといけないんだ」

「そうか?」

「当然だろ。夫の義務だ」

 しれっと疑問を挟んでくるレクスの言葉をキッパリと遮る。
 愛するフィアの夫の俺が、ここで負けてはならない。

「なら、奥さんが行きたいところに行くのが一番ってことか」

 腕を組み、考え込むレクス。

 当然だろう。

「そうだ。残念だったな、レクス」

 レクスは、そうか、と一言つぶやいてあっさりと引き下がる。

「分かったなら、さっさと帰ってくれ」

 俺はレクスを師団長室から追い出した。
 大急ぎで追い返したおかげで、フィアと鉢合わせることもなく。

 しかし、急いだのが良かったのか悪かったのか。レクスが、赤種のチビに似たニタリとした嫌な笑みを浮かべていることに、俺は気が付かないままだった。
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