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5 出張旅行編

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「フィア!」

「クロスフィア様!」

 ドシャッ ガラガラガラガラガラ

 しまった、精霊王の本体に気を取られすぎた!

 俺とベルンドゥアンの叫びが土砂の音にかき消される。
 焦って瓦礫をかき分けようにも、床から天井まで、完全に通路を遮断していた。




 レストスに来て三日目の今日は、朝から東の遺跡の捜索だった。

 初日は展望台や市街地を、二日目は西の遺跡を探索したが、これといって何の手がかりも掴めないまま。

 まぁ、赤種の三番目や開発者の探索と称してはいるが、実際はフィアを囮にして、向こうが接触してくるのを待つというもの。

 歩き回っていれば、目に留まって、向こうが早々と接触してくるだろう。

 と簡単に思っていたが、そう単純に解決できるものではなかったようだ。

 そんなわけで、三日目は最後に残った東の遺跡に足を運んだ。ここで何も見つからなければ、後は、点在している小さな遺跡を虱潰しにするしかない。

 そう思ってやってきた東の遺跡は怪しいことこの上ないものだったのだ。

 赤の樹林のように乏しくなっている精霊力に加えて、精霊王が狂乱している気配もある。

 そこへ、突然現れた精霊王の力の余波を受けて、通路の天井が崩れ落ちた。
 これを狙ってやったのなら見事だと言うほかない。あっさり、フィアたちと分断されたのだ。

 一瞬、呆然とする。

 どうして、フィアのそばを離れたりしたんだ、俺。フィアの隣で守っておけば良かったじゃないか。

 一瞬の判断ミスがもの凄く悔やまれた。

 その時、胸の組み紐飾りが光る。

 組み紐飾りは、フィアが俺のためだけに作ってくれた魔導具だ。

 氷雪祭の時に、フィアから貰った組み紐飾りは二種類。通信用の魔導具になっている胸飾りと、護身用の魔導具になっている腰飾り。

 正直、護身用の魔導具は不要だが、フィアの手作りでお揃いなのが嬉しくて、ほぼ常に身につけていた。

 通信用の魔導具は、フィアのかわいい声がいつどんなところでも聞けるという優れもの。
 用もないのに、かわいい声が聞きたくて使いすぎ、仕事にならないとフィアに怒られたっけな。

 しかし、風の精霊魔法を使っての通信がほぼ絶望的な今の状況では、この通信用の魔導具が重要な道具になる。

 組み紐飾りが光った後、遅れてフィアのかわいい声が聞こえてきた。

「私は大丈夫。かすり傷ひとつないから」

「良かった」

 俺はホッと胸をなで下ろす。

 フィアが無事と分かれば、怖いものなんてない。
 まずは、俺とフィアを引き裂く目の前の瓦礫をどうにかするか。

 天井となっていた石がそのまま落ちてきて、さらにその周りの土や岩や小石も積み重なって。フィアを見る隙間さえない。

 精霊力も乏しいので、土の精霊魔法で穴を開けるにも無理がありそうだ。

 面倒だから、このまま吹き飛ばすか。

 よし。

「フィア、待ってろ。今これを壊すから」

「ちょっと待って、ラウ! この瓦礫を壊したら、下手すると遺跡自体が潰れて、生き埋めだから!」

 力を込めて瓦礫に手をかけようとしたとたんに、フィアの慌てる声。

 慌てる声もかわいいな、と思いながら手に込めて力を開放する。

 声はかわいかったが、話の内容が問題だった。

「何? それは困るな」

「でしょ?」

 俺は首を捻った。そして、背後のベルンドゥアンをちらっと見る。

「生き埋めになるなら、フィアと二人きりがいいよな。ベルンドゥアンもいっしょなのはなぁ」

「困る部分がおかしい」

 奥さんと同じ墓に入る。
 これが竜種の理想の最期。

 だというのに。

 他の男もいっしょに入るのは、絶対に、ダメだ。

「そっちは大丈夫なの? 精霊王は?」

「消えた。別の場所に移動したようだ」

 俺は後ろを振り返る。

 そこにはベルンドゥアンがいるだけで、精霊王はどこにもいなかった。ベルンドゥアンはというと、さっきの精霊王の気配を追っているようだ。

 だが、ここは精霊力が恐ろしく乏しい。

 いくら風と土に適性があるといっても、この状況での追跡は不可能に近いだろう。

 案の定、ベルンドゥアンは静かに首を横に振った。追跡は失敗したようだ。

 こっちの状況を分かってか、フィアが違うことを訊いてきた。

「ガイドブック、持ってるでしょ?」

 ガイドブックだと?

「あぁ、俺が先頭だからと、フィアに持たされたあれか」

 フィアからの言葉で、俺はベルンドゥアンから視線をそらし、背嚢から本を取り出す。

 そうか、地図か。

 ページをめくり、ここの遺跡部分の地図を開いた。

「さっきの分かれ道、右も左も先の方で合流してるでしょ。だから、ここを壊さなくても大丈夫だから」

 フィアの言うとおり、地図を見ると、だいぶ遠回りにはなるが、向こうの通路もこの先と繋がっている。

 ベルンドゥアンも近寄ってきて、俺の手元の地図を覗き込んだ。黙って頷く。

「なるほど。しかし、見ただけなのに、よく細部まで覚えてるな。さすが赤種の記憶力だ」

「じゃあ、ラウ、また後でね」

 フィアの声がそこで途切れた。

「よし、さっさと戻って、フィアと合流するぞ」

「そうですね。まさかこの組み合わせで、二手に分かれてしまうとは思いませんでした」

「まったくだ」

 俺は想定外の相手と組んでの探索に、不機嫌さを隠しきれなかった。
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