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7 帝国動乱編

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 スヴェートの民族舞踏と音楽が始まった。軽やかな舞が目の前で繰り広げられているのを、見て楽しむ。

 すると、

「そちらの男性と女性の方、どうぞ」

 メイ群島国からの参加者が舞台に誘われ、いっしょになって舞を踊り始めた。

 声をかけられたときはちょっと微妙な表情をしていたけど、踊り出したら、楽しそうだ。

 メイ群島国は温かなところだけあって、薄着でヒラヒラした服装でのダンスが盛んな国だという。
 体を動かすことは嫌いではないのだろう。

 今度は私たちに向かって、声がかけられた。

「そちらの素敵なご夫婦も、どうぞ」

「素敵な夫婦だと。間違いなく俺とフィアのことだよな」

 あっさりつられるラウ。

 私を抱き上げたまま、ラウはひょいと舞台に上がってしまった。

 うん、このまま踊るつもりなのかな、夫よ。

「ちょっとラウ。大丈夫なの?」

「そうだぞ、黒竜、調子に乗るな」

 仕掛けているとしたら、絶対にこの舞台だと思うんだけどね。
 それとも意表をついて、別の場所だとか?

「俺がついているんだ。大丈夫に決まってるだろ」

 はぁ。

 なんだかため息が出る。

 この会場に来てから私はあれこれ考えていたのに、ラウは何も考えていないようだ。

 そもそも、竜種は本能で動くタイプだから、ラウにあれこれ考えることを求めてはいけないのかも。
 それに、本能で動くラウが大丈夫だと思うのなら大丈夫なのかも、とも思ってみたり。

 私もかなりラウ寄りになっているなぁ。




 私はラウに連れられるまま、というか、がっつり抱き上げられたまま、舞台にあがった。

 そこで、ようやく下ろしてもらえる。

 抱き上げたままではいっしょに踊れないことに、ラウはようやく気がついたらしい。

 少し暗めの緩やかな音楽が流れる中、メイ群島国の男女といっしょになって、身体を動かす。

 うーん、これ、余興でやるほどのものじゃないよね。

 でも、周りを見ると、メイ群島国の人もラウも満足げ。
 私ひとり、つまらないとも言い出せず。
 私たちはしばらくそのまま踊ったのだった。

 そんな中、

「揃ったから、そろそろ始めてくれ」

 皇配がそんなことを進行役に告げた。

 そろそろ式典開始の時間だろうか。
 それなら早く、舞台から降りないと。

「ラウ。そろそろ、ううっ」

 私がラウに声をかけている最中に、それは起こった。

 グラッと視界が揺れる。

 違う。私の身体がグラグラと揺れているんだ。

「フィア!」

 ラウが慌てて私の身体を支える。

 そのまま私の身体を抱き上げようとするのを、私は押しとどめた。抱き上げなんてしたら、ラウの両手が塞がってしまう。

「今度は完璧よ。わたくしの魔法陣に不可能はないの。ここに存在する、すべての『破壊』を封じ込めたわ!」

 私の視線の先には、小さいメダルの開発者、エルシュミットがニタニタと嬉しそうに笑っていた。

 手には鈍く光る銀色のメダル。

 そう。この感じ。

 レストスでやられた《破壊の封印》に間違いない。

「開発者だ」

「《破壊の封印》か」

 テラと二番目の声だけ聞こえて、どこにいるのか姿はよく分からない。

「何?!」

「ほら、仕掛けてくるって忠告しただろ」

 テラがラウに話しかける。

「いちいち騒ぐな、チビ」

「大丈夫か、四番目」

 大丈夫かと言われてもね。

 何かに押さえつけられるような圧迫感が、身体全体に感じられる。

 手に魔力を集めてみた。集まってはくるけれど肝心の魔法陣が出てこない。
 無理やり力のある言葉を唱えてみたけど、詠唱魔法が発動しない。

 魔力が集まるのならと、右手をぐっとにぎりしめて破壊の大鎌を顕現させようとしてみる。ダメだ。魔剣も呼び出せない。

「破壊の力が、魔剣が、出てこない」

「くそっ。俺のもだ」

「調子に乗るからだろ、黒竜」

「うるさいぞ、チビ。騒いでいる場合じゃない」

 ラウの魔剣も出てこない、ということは、私の『破壊』だけを狙ったものではないということ。

「赤種の破壊と、破壊と魔剣の力、両方封じ込めたか」

「俺の魔剣もダメです!」

 カーネリウスさんが叫ぶ。カーネリウスさんは舞台の上にすら登ってないのに。

「アハハハハハ。封じ込められるのは、魔法陣の中だけでなくてよ。魔法陣の外のものにも効果があるのだから。素晴らしいでしょう」

 開発者は虚ろな目で、笑い続ける。

「魔法陣は舞台の床に直接、掘ったけれど、効果範囲はこの会場全体。ほら、完璧でしょう。今度は魔法陣の破壊なんてできるわけないわ!」

 考えなしなのか、単に自分は凄いんだと自慢したいのか、丁寧にも魔法陣の場所と解説をしてくれた。

 やっぱり、自我がおかしくなってるんだよね、これ。わざわざ、ペラペラ喋ってくれるんだもの。

「アハ、アハハハハハ。これで破壊の赤種も終わりね。おとなしくシュオール様に捧げられなさいな」

 そう言って開発者は、さらに二枚目のメダルを取り出した。そして魔力をメダルに込める。

「《混沌獣の召喚》か。厄介なものを」

 テラの声がまた聞こえ、舌打ちする音も同時に聞こえた。


 グルァァァァァァァァァ


 あちこちから魔物のうなり声があがる。

 意外にも悲鳴は聞こえない。

 まぁ、『何かたいへんなことが起きるよ』と警告されての参加だったから、皆、それなりに覚悟してきたということだろう。

 魔物は舞台上にいる私たちにも襲いかかる。

 マズい。

 魔法が使えなくて、魔剣も使えないなら、今の私たちは丸腰だ。

 なのに。

「キャァァァァァァ」

 スヴェートの舞を踊っていた女性たちが、真っ先に狙われた。

「なんで? 味方じゃないの?」

「自分以外のやつはどうでもいいんだろ」

 ラウが私を庇いつつ、舞台から後退する。

 とそこへ、魔物がラウに襲いかかる。


 グルァァァァァァァァァ


 トカゲ型をした魔物が大きな口を開け、ラウの肩にかじりついた。

「ラウ!」


 ドガッッッッ


「え? 素手で殴った?」

 ラウに素手で殴られて吹き飛ぶ魔物。

「このくらいは、なんてことないぞ」

「え? そうなの?」

 素手? さすがに素手で殴るってのはないんじゃないかな。それとも竜種は素手で魔物を屠れるくらい強いのかな。

「素手で魔獣や魔物を倒せるのは、ドラグニール師団長くらいですから!」

 期待した目でカーネリウスさんを見たけど、悲鳴のような叫び声をあげただけだった。

 チェッ

「それだから、物理最強って言われてるんだよな、黒竜は」

 と、銀竜さん。

 銀竜さんは浄化の力を使っているようだ。対して、精霊魔法が得意な紫竜さんはちょっと苦戦しつつも、無理やり精霊魔法を使っている。

 上位竜種それぞれ、得意分野が違うので、戦い方もさまざまなんだ。

 ラウはラウで、襲いかかる魔物を殴る蹴る。

 どんどん溢れてくる魔物。


 シュッ


「チッ」

 ラウが私の腰を抱えて、一気に後ろに跳んだ。

 さっきまで私たちがいたところには、魔力でできた黒い槍が刺さっている。

「ふん、避け方も無様だな」

 ラウを攻撃してきたのは、皇太子の装いをした三番目。

「四番目から離れろ、黒トカゲ。ここでお前の息の根を止めてやる」

「フィア、少し下がってろ」

 睨み合うラウと三番目。溢れる魔物。
 周りは魔物と対峙しているか、魔物から身を守っているかのどちらかだ。

 こんな状況の中、私はあることを決意した。
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