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chapter one

12.こえにはださず

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アベルが心地よい夢に意識を投じている頃

ミリアは、既に屋敷に到着していた

執事達に着替えを任せ今は寝室で眠っている

「お前も風呂に入って来たらどうだ?」

捜索から帰って来たナキアが声をかける

「そうさせていただきます
このままでは、屋敷の絨毯を汚してしまいますので」

ミリアのメイド服は、紅く染まっていた

にもかかわらず抱えられていたはずのアベルには、ひとしずくさえ血はついていなかった

「まったく、どうやったらそうなるんだか」

「申し訳ございません
無理に避けるとご主人様を起こしてしまいますので」

血がついた部分は、それでも破けているなどということはなく

全て他者のもので染め上げられていた

「…なあ、ミリア
俺は、アベルの護衛だ」

ミリアが浴室に姿を消す直前ナキアが口を開いた

「アベルを敵から守るのが仕事だ」

敢えて今敵とは、なんなのか両者共に聞こうとも話そうともしなかった

「あいつがどう思っていようが敵と判断したら叩き斬る義務がある」

その目には、普段の優しげな光はなく

ただガラス玉のようだった

「ええ、わかっております」

ナキアは、若い

まだ新卒兵にいてもおかしくない若さだ

その彼が国の中枢を担う伯爵家頭首の護衛を任されている

どんな手練れであっても通常ありえないことだ

つまりは、通常ではありえない功績をあげてきたのだろう

それは、その手を、瞳を、心を

濁さずには得られたいものだ

その事実を忘れてはならない

きっと彼は、仕事とあらばミリアの心臓に剣を突き立てることになんの躊躇いももたない

「頼むから俺に同僚を殺させないでくれよ」

諦めにも似た笑顔を浮かべる

ミリアも肯定とも否定ともとれない顔で微笑み返す
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