愛せないですか。それなら別れましょう

黒木 楓

文字の大きさ
24 / 29

24話 王子視点

しおりを挟む
「……バラド殿下は、まだフロンに未練があるのですか」

 宰相の報告を聞き、フロンを消す計画が失敗したことに安堵した。

 そんなバラドを眺めて、隣にいたコリサの様子がおかしくなる。

「ど、どうした……俺はフロンを側室にしたいが、コリサが妻なのは変わらない!」

 本心を漏らしながら宥めようとしたバラドに対して、コリサが肩を強く掴んでくる。

 ミシミシと体が悲鳴をあげるほどの力を受け、バラドは激痛に動揺するしかない。

「ぐぅっっ!? なぜ――」

「――そんなの、未だにフロンに対して未練があるからに決まっています」

 その発言と同時に、バラドの体が椅子から浮く。

 ベッドの上に投げ飛ばされたようで、痛みから解放されるがコリサに見下される形となる。

 今までと同じ無表情なのに威圧感があり、バラドは立ち上がることができない。

「ラミカ様と違い、私はバラド殿下だけを愛しています……それでも、リスが飼い主ではなく、他の人に興味を持てばいい気分ではないでしょう」

「リス? 飼い主? コリサは何を言っている?」

「リスとはバラド殿下のことです。例えに相応しいでしょう」

 信じられない発言を耳にしたバラドは、はじめて見るコリサの笑顔に全身を震わせる。

 今まで優しくしてきたのも、ただ小動物として可愛がっていただけだというのか。

 対等だと思っていたのはバラドだけで……ラミカと違い一途ではあるが、コリサも非魔法士を見下していた。

「……俺の頼みも、小動物のお願いという認識だったということか」

「はい。ラミカ様の本性を知ってから怯えるバラド様は素敵でした。私も護った甲斐があるというものです」

「そうか……はは、そうだったのか……」

 バラドは自分の立場を自覚し、それでもコリサを嫌いにはなれない。

 婚約者となってから今までの日々は楽しかったのに、内心では見下されていたと知ってしまう。

 惨めだと自覚し、今のバラドはコリサから見限られればどうなるのかわからない。

「結婚式の前にフロンの名前が出た時も嫌でしたが、今回はそれ以上です……やはりフロンは、どんな手を使ってでも排除するしかなさそうですね」

「そうだな。フロンさえ消えてくれれば、俺はコリサのことしか考えられなくなるだろう」

 フロンとは再会して元の関係に戻りたかったはずなのに、抗えない力でバラドの考えが変わる。

 愛せなくてもフロンは王妃になれるのだから、従っていればこんな状況にはならなかった。

 もう好きではなくなったコリサからは離れることができず、フロンを思い出すだけで理不尽な目に合ってしまう。

 それなら消した方がいいと、バラドはコリサに協力することを決意した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

【完結】側妃は愛されるのをやめました

なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」  私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。  なのに……彼は。 「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」  私のため。  そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。    このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?  否。  そのような恥を晒す気は無い。 「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」  側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。  今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。 「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」  これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。  華々しく、私の人生を謳歌しよう。  全ては、廃妃となるために。    ◇◇◇  設定はゆるめです。  読んでくださると嬉しいです!

彼女は彼の運命の人

豆狸
恋愛
「デホタに謝ってくれ、エマ」 「なにをでしょう?」 「この数ヶ月、デホタに嫌がらせをしていたことだ」 「謝ってくだされば、アタシは恨んだりしません」 「デホタは優しいな」 「私がデホタ様に嫌がらせをしてたんですって。あなた、知っていた?」 「存じませんでしたが、それは不可能でしょう」

[完結]思い出せませんので

シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」 父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。 同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。 直接会って訳を聞かねば 注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。 男性視点 四話完結済み。毎日、一話更新

冷遇する婚約者に、冷たさをそのままお返しします。

ねむたん
恋愛
貴族の娘、ミーシャは婚約者ヴィクターの冷酷な仕打ちによって自信と感情を失い、無感情な仮面を被ることで自分を守るようになった。エステラ家の屋敷と庭園の中で静かに過ごす彼女の心には、怒りも悲しみも埋もれたまま、何も感じない日々が続いていた。 事なかれ主義の両親の影響で、エステラ家の警備はガバガバですw

【完結】貴方の望み通りに・・・

kana
恋愛
どんなに貴方を望んでも どんなに貴方を見つめても どんなに貴方を思っても だから、 もう貴方を望まない もう貴方を見つめない もう貴方のことは忘れる さようなら

手放したくない理由

ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。 しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。 話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、 「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」 と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。 同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。 大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。

幼馴染が夫を奪った後に時間が戻ったので、婚約を破棄します

天宮有
恋愛
バハムス王子の婚約者になった私ルーミエは、様々な問題を魔法で解決していた。 結婚式で起きた問題を解決した際に、私は全ての魔力を失ってしまう。 中断していた結婚式が再開すると「魔力のない者とは関わりたくない」とバハムスが言い出す。 そしてバハムスは、幼馴染のメリタを妻にしていた。 これはメリタの計画で、私からバハムスを奪うことに成功する。 私は城から追い出されると、今まで力になってくれた魔法使いのジトアがやって来る。 ずっと好きだったと告白されて、私のために時間を戻す魔法を編み出したようだ。 ジトアの魔法により時間を戻すことに成功して、私がバハムスの妻になってない時だった。 幼馴染と婚約者の本心を知ったから、私は婚約を破棄します。

処理中です...