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第一章:見えないひずみ
12、薄明の結界(後半)
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薄暮の街に夕闇が迫る頃、神社の境内を出たこころは、胸の奥に澱のように溜まった違和感を抱えながら駅へと向かっていた。
いつも通る道の途中、カフェの温かな灯りが通りに柔らかく洒落ている。
ガラス越しに見えるのは、安藤みなみがカウンターで穏やかに微笑みながら、最後の片付けをしている姿だった。
こころは一瞬、足を止めてその姿を見つめる。
みなみの目に、どこか落ち着かない色が潜んでいるのに気づいた。
(今日も、何かあったのかな)
心の中で呟く。けれど、それを言葉にすることはできなかった。
駅へ急ぐ彼女の背後から、軽やかな足音が追いかけてきた。
「こころちゃん?」
声の主は中村蒼だった。
彼もまた、駅のホームで感じた不可思議なざわめきを胸に抱えていた。
互いに顔を見合わせたとき、二人の間に言葉にならない思いが交錯する。
「蒼くん、駅の放送……変だったよね」
こころの口からようやくこぼれた言葉に、蒼は軽くうなずく。
「うん、あのノイズ……何かがおかしい」
二人は一緒に駅へ向かうことにした。
途中、街路樹の葉が風に揺れ、夕暮れの空は柔らかな橙色に染まっている。
駅のプラットフォームに着くと、まだ作業を続ける駅員の姿が遠くに見えた。
誰も気づかないその動きが、不思議と重くのしかかる。
一方、駅前の通りを歩く堀内叶多は、テーマパークから帰る途中だった。
パークの華やかさと賑わいが遠のき、彼の胸の中に潜む不穏な気配だけが増していた。
「またあの言葉が……」
葉の陰に隠れたベンチに腰掛け、叶多はポケットから小さな音楽プレイヤーを取り出す。
パレードの音楽を繰り返し聴くことで、あの時の違和感を確認していた。
そこへ、偶然にもみなみが通りかかる。
ふと視線が交わり、彼女の顔にも少しだけ疲れが見えた。
「叶多くんも、何か感じてるの?」
みなみの問いに、叶多はうなずいた。
「うん……言葉がいつも通りじゃない気がして」
二人はそのまま少しの間、一緒に歩きながら話をする。
みなみはカフェの出来事を話し、叶多はパークでの異変を伝えた。
街の灯りが次第に明かりを灯し、薄闇の中に人影が浮かび上がる。
その頃、伊集院春は花屋の店じまいを終え、店の扉を閉めようとしていた。
手にした花束の香りが彼の鼻先をくすぐるが、どこか甘さの中に不自然な苦みを感じていた。
店の前の通りで、偶然通りかかったこころとの姿が目に入る。
「春くん!」とこころが声をかけ、三人は自然と近づいた。
それぞれが感じていた違和感や不安を口にし始める。
「花の様子がいつもと違うんだ」「駅の放送も何かおかしい」「カフェでも……」
話すうちに、彼らの間に少しずつ共通の認識が生まれ、孤独だった思いが和らいでいく。
「これって、きっと僕たちだけじゃないよね」
蒼の声が、小さくも確かな決意を帯びて響いた。
夕暮れは静かに夜へと変わり、街のざわめきも徐々に落ち着きを取り戻し始めている。
けれど、見えないところで、日常を守るための戦いが静かに幕を開けていた。
いつも通る道の途中、カフェの温かな灯りが通りに柔らかく洒落ている。
ガラス越しに見えるのは、安藤みなみがカウンターで穏やかに微笑みながら、最後の片付けをしている姿だった。
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みなみの目に、どこか落ち着かない色が潜んでいるのに気づいた。
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彼もまた、駅のホームで感じた不可思議なざわめきを胸に抱えていた。
互いに顔を見合わせたとき、二人の間に言葉にならない思いが交錯する。
「蒼くん、駅の放送……変だったよね」
こころの口からようやくこぼれた言葉に、蒼は軽くうなずく。
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二人は一緒に駅へ向かうことにした。
途中、街路樹の葉が風に揺れ、夕暮れの空は柔らかな橙色に染まっている。
駅のプラットフォームに着くと、まだ作業を続ける駅員の姿が遠くに見えた。
誰も気づかないその動きが、不思議と重くのしかかる。
一方、駅前の通りを歩く堀内叶多は、テーマパークから帰る途中だった。
パークの華やかさと賑わいが遠のき、彼の胸の中に潜む不穏な気配だけが増していた。
「またあの言葉が……」
葉の陰に隠れたベンチに腰掛け、叶多はポケットから小さな音楽プレイヤーを取り出す。
パレードの音楽を繰り返し聴くことで、あの時の違和感を確認していた。
そこへ、偶然にもみなみが通りかかる。
ふと視線が交わり、彼女の顔にも少しだけ疲れが見えた。
「叶多くんも、何か感じてるの?」
みなみの問いに、叶多はうなずいた。
「うん……言葉がいつも通りじゃない気がして」
二人はそのまま少しの間、一緒に歩きながら話をする。
みなみはカフェの出来事を話し、叶多はパークでの異変を伝えた。
街の灯りが次第に明かりを灯し、薄闇の中に人影が浮かび上がる。
その頃、伊集院春は花屋の店じまいを終え、店の扉を閉めようとしていた。
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店の前の通りで、偶然通りかかったこころとの姿が目に入る。
「春くん!」とこころが声をかけ、三人は自然と近づいた。
それぞれが感じていた違和感や不安を口にし始める。
「花の様子がいつもと違うんだ」「駅の放送も何かおかしい」「カフェでも……」
話すうちに、彼らの間に少しずつ共通の認識が生まれ、孤独だった思いが和らいでいく。
「これって、きっと僕たちだけじゃないよね」
蒼の声が、小さくも確かな決意を帯びて響いた。
夕暮れは静かに夜へと変わり、街のざわめきも徐々に落ち着きを取り戻し始めている。
けれど、見えないところで、日常を守るための戦いが静かに幕を開けていた。
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