姉の婚約者に口説かれた。どうやら王都の男どもの目は節穴らしい。

ナナカ

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第三章

(21)ようやく本題

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 私が非難するように見ていると、お兄さんはため息をついた。

「魔獣を好むほど、酔狂ではないぞ」
「そうかなぁ。魔獣といっても色々じゃないですか。私は子供の頃から遊び相手にしていましたよ。流石に魔虎は初めて触りましたけど。というか、お兄さんの魔力なら、そこまで集まってくる前に追い払えるんじゃないですか?」
「私が追い払うと、少々物騒なことになる。こいつらは普段は大人しいから、そう言うことは極力したくない」

 あれ、意外に優しいんだな。
 そうやって来るもの拒まずに徹していたら、この猫まみれの……いや、魔獣まみれの天国が出現するんですか。いいなぁ……いや、それっていいことなの?

 ……でも、魔獣がなぜこんなにたくさんいるんだろう。
 魔獣が人間の活動範囲に出没すると、間違いなく色々な被害が出る。中には飼い慣らすと家畜の上級的存在になってくれる魔獣もいるけど、そんな魔獣はごく一部に限られている。
 基本的に、雹で農作物に被害が出るのと同じくらいの災害的存在なのだ。

 だから各地の領主は、いかに魔獣の出没を減らすかに苦心しているし、魔獣退治に大金を投じているところもあるらしい。
 アズトール伯爵家も、辺境にある領地は魔獣被害が多くて、お父様も一族のみんなも、いかに被害を抑えることができるかに苦労していた。

 全ての存在が仲良く共存していたと言われる神話の世界はともかく、今は殺伐としたご時世だ。なのに、よりによって王都の中に魔獣がゴロゴロしているなんて。街並みを見た感じでは、魔獣被害とは無縁の場所と思っていたのに、王都の魔術防壁はどうなっているんだろう。

 猫のふりをしている魔獣を撫でながら、素朴な疑問に首を傾げる。その思考も聞こえてしまったのか、お兄さんはぴたりと背中にくっついていた黄猫も持ち上げて私の膝に乗せた。
 こちらはさらに毛量が多い! ふかふか!
 見かけの割に重くないのも魔獣らしい。
 獣の臭いの代わりに、頭がクラクラするような甘い香りがするのも現実離れしていて魔獣らしさがいっぱいだ。

 ……この甘い香り、他の動物を惑わせして捕食するためのものとか、そういう話を聞くけど、まあ気にしてはいけない。
 つい顔がにやける。
 わずかに眉を動かしたお兄さんは、さらにもう一匹を私の肩に乗せた。

「こいつらは、大きさを変えるだけで普通の猫に見える。毛の色を変えれば、お前のように触りたがるバカな人間は多いからな。簡単に入ってきてしまうんだ」
「ああ、わかるなぁ。これは絶対に触りたいし、触ってしまう。……でも、それマズくないですか?」
「魔虎程度なら、私が出るまでもない。王都の武人で十分に対応できる。それに見た目が優秀だから、こいつらがうろつくと王都の民が穏やかになる。だから……まあ、そう言う事情で大人しくしているうちは大目に見ることもあるんだ」

 はあ、なるほど。
 裏ではいろいろあるんですね。でもやっぱり魔獣が多すぎる気がするんだけどな……
 ……なんてことを、珍しく真面目に考えていたら、猫っぽい魔獣たちがすりーっと身を寄せてきた。もふもふ、ふかふか、さらさら……深刻に考えるのも馬鹿馬鹿しくなってきた。
 ストレスが消えていく……。

「それより、私にわざわざ伝言を残すとは、何かあったか?」

 お兄さんは、少し真面目な顔をしていた。
 絹のような肌触りを堪能していた私は、すぐには現実に戻れなくて、お兄さんが何を言っているのか一瞬悩んだ。でも、なぜここにいるかを思い出した。

「私の独り言を聞いてくれたんですか?」
「独り言にしては、伝える気に満ちていたんだが」
「細かいことは気にしないでください。ええ、実は大切なことをお話ししたいんです」

 私は一旦言葉を切って、お兄さんの表情を探ろうとした。
 目つきが凶悪なお兄さんは、でも私に探れるような表情は表に出していない。仕方がないので、猫もどきへの頬擦りをやめて言葉を続けた。

「実は私、来週の王宮の舞踏会に行くことになりました!」
「……それがどうした」

 お兄さんの目が、急に冷たくなった気がする。
 猫に擬態した魔獣が一斉に目を開けた。でも、すぐにまたぽてりと頭をお兄さんの足や手に乗せた。
 一瞬でも魔獣が反応したと言うことは、お兄さんのご機嫌が……まあ私は気にしない。

「お兄さんはかなり高位の貴族なんですよね? 絶対に舞踏会に出ますよね?」
「舞踏会に興味はない」
「でも、着飾った私の姉を見る絶好の機会ですよ。美人なお姉様が着飾ると最高に女神様ですからね!」
「お前も、女神だそうだな」
「何でそう言うのだけ覚えているんですか! 私なんてでどうでもいいんです! 姉ですよ! 最近のお姉様は身体の線がとっても曲線美でして、色気たっぷりなのに清純さもあるんですよ!」
「どうでもいい」

 お姉様のことを、どうでもいいってなんですかっ!
 ちょっとムッとして、さらにお姉さまの素晴らしさを語ろうとした。でも、制するようにお兄さんが手をあげた。

「来週の舞踏会と言ったな。一応は顔を出すつもりだったから、少し長居してやってもいい。だから、そんな顔をするな。唯一の美点が台無しになっているぞ」

 おや、もしかして私、褒められたのかな?
 と思ったのに、顔をしかめたお兄さんは私の顔を雑に押しのけた。
 扱いが魔獣に対するものと同じだ。
 雑すぎる。お兄さんも認めた、顔だけは美少女な私なのに。

「……お兄さん、女性に対しての態度が悪いって言われたことないですか?」
「気にしたことはないな。それにおまえはまだ子供だろう」
「女性の年齢は若く言うのが基本と思っています? 私、これでも十六歳なんです」

 初めてお兄さんが驚いた顔をした。
 ふーん、そんな顔をするとちょっと若く見えますね。実はセレイスさまと同じくらいなのかな? もうちょっと上? 私、てっきり三十歳くらいかと思ってましたよ!
 お兄さんは水色の目で私をじっと見つめ、ため息混じりに首を振った。

「……これで十六歳だと? 多く見積もって十三歳くらいかと思っていた」
「こう見えて大人なんです! だからその子供扱いの態度を改めてもいいんですよ?」
「その中身では、子供扱いで十分だな」

 そ、それは、そうだけど!
 ちょっとイラッとしたけれど、セレイス様の意味不明なクズっぷりに比べれば圧倒的にまともだと思う。
 だから、私はとてもいい気分になっていて、お兄さんのことも寛大に許すことにした。
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