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第四章
(29)魔力貧者の哀しみ
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「オクタヴィアお嬢様。申し訳ございませぬ! 我々が力不足すぎました……!」
アズトール伯爵家に仕える二人の魔導師が、悲壮な顔でひれ伏していた。
一人は、いつもは淡々と職務をこなす真っ白な髪と髭が素敵な魔導師のリネロスおじいちゃん。もう一人は、昔から私のことを「チビ嬢ちゃん」と呼ぶ金髪と白い歯がまぶしいイケオジな魔導師ロイカーおじさんだ。
どちらもとても優秀な魔導師で、だからこんなふうにひれ伏す姿なんて想像したこともなかった。
この二人に非はない。
悪いのはおじいちゃんでもイケオジでもなく、私なのだ。
「リリーお嬢様に魔力の使い方を教えることができないなんて……なんとお詫びをすればいいのやら」
「あの、おじいちゃんたちは全く悪くないと思うよ?」
「何をおっしゃる! 我らはアズトール家にお仕えする身。なのに、リリーお嬢様の御身を守るための魔術を教えることができないなど、伯爵家の筆頭魔導師として失格です。今すぐにでも地位を返上させていただきたい!」
「いやいや、そこまでしなくても。ねぇ、お姉様?」
「そ、そうよ。リネロスが辞めてしまったら、アズトール家の魔導力が激減してしまいます」
お姉様はそう言って慰留しているけど、オクタヴィアお姉様の顔色も悪い。
私と目を合わせてくれない。
……参ったな。
私は場の空気を変えてもらおうと、イケオジ魔導師様に目配せを送ろうとした。でも目を向けた途端に、愕然としてしまった。
「……えっ。なぜロイカーおじさんは泣いているのっ?」
「すまん、チビ嬢ちゃん。領地であれだけ面倒を見てやってたのに、俺は嬢ちゃんに魔力の使い方を教えてやれなかった。まさか魔術に転じることができるほどの魔力が残っていたなんて……いや、知ってしまった今も、魔術を発動させる方法を教えることができない! もう少し俺が魔力不足で悩んだことがあれば、いいアドバイスができただろうにっ!」
……ロイカーおじさん。自慢するのか、嘆いているのか、どっちかにしてくださいよ。
まあ、仕方がないけどね。
私のように魔力が少ない相手に、魔術の発動方法を教えるなんてしたことがないのだから。
ついでに言うと、オクタヴィアお姉様も魔力量が大きくて、低レベル魔法で苦労したことはないはずだ。
……そうか、あの顔は困惑しているのか。
そんなに気にしなくてもいいんですよ。……困惑顔のお姉様はとてもお美しいけど、なんだか心苦しいです。
◇ ◇ ◇
「……という感じで、私ほど魔力がほぼゼロな人は滅多にいないせいか、どう教えていいかわからないらしいんですよ」
私が今朝の話をすると、お兄さんは手を口元に運んで目を逸らしてしまった。
お兄さんまで困惑しなくても……って、もしかして笑ってます? まあ、いいですけど。
私は気を取り直して話を続けた。
「魔力をゆっくりと貯めて、とか、手のひらに移していくイメージで、とか言われても、スプーン一杯分しかない水を鍋の内側全体に広げていくくらいの難易度だと思うんですよ」
「……そうかもしれないな」
「普通の人は、その鍋をまず冷やしてから水を入れるから、量が少なくてもいいんです。でも私の場合は鍋を冷やすことがまずできないから、どんどん蒸発してさらに水が減っていく感じで……」
「いい例えだ」
「それなら鍋を冷やせばいいんですが、私の場合はそれだけで魔力全部を使い込んでしまうんですよね」
「……ふむ」
お兄さんは小さく頷いて、そのまま黙り込んでしまった。
もう笑いの発作は収まったらしい。口元から手を離して、何かを忙しく考えているようだった。
これは、しばらくかかりそうだ。
私はそろそろと動いて、お兄さんの手元にあった新たなお菓子の包みに手を伸ばした。そろり、そろりと手を伸ばし、あと少し……!というときに、手首を掴まれてしまった。
「あ、ごめんなさい。ただの出来心です!」
「菓子なら後で食べさせてやるから、腕を出せ」
「え? もう捕まってますよ?」
「いいから袖をまくって腕を出せ。それとも、私を子供の肌を無理やり露出させる変態にする気か?」
じろりと睨まれたので、大人しく袖口の紐を緩めて腕を剥き出しにした。
うーん、私の腕、細いなぁ……。
オクタヴィアお姉様の腕はもっとしなやかで優しげで、とても魅力的なのに……。
そんなことを考えていたら、お兄さんは遠慮なく腕を浮かんで、指先を肌につけると、何かの模様を描くように動かし始めた。
「く、くすぐったい!」
「じっとしていろ。歪むと効果が薄れる」
「……歪むとは?」
「ああ、そう言えば見えないんだったな。古代魔導文字だ。魔力を使って書き込んでいる。普通はお守り程度の効果しか期待できないが、お前には十分な効力を発揮するだろう」
お兄さんは私の腕から目を外さずに、でも答えてくれた。
やっぱりこの人は優しい。
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