姉の婚約者に口説かれた。どうやら王都の男どもの目は節穴らしい。

ナナカ

文字の大きさ
17 / 53
第二章

(15)大変ですね

しおりを挟む

 でも、これではっきりした。
 第三者から見ても、やっぱりセレイス様はクズっぽく見えるらしい。
 ……本当に、どうしたらいいんだろう。
 元々セレイス様は聡明な人のようだし、今はちょっと私の顔におかしくなっているだけの可能性がある。適度に相手をしながら逃げ回っていれば、そのうち正気に戻ってくれないだろうか。

 でも、王都は私の縄張りではない。物理的に逃げると言っても、どこをどう走ればいいのかもまだ自信はない。
 気楽に逃げ出せるように、いつも翼付きの魔獣を連れ歩ければいいのにっ!
 ……おや?

「お兄さん、なぜ笑っているんですか」

 ふと気付いてそう問いかけると、お兄さんは目を逸らした。その横顔は小鳥が止まっていた時と同じように堅苦しいけど、さっきは絶対に笑っていた。
 じいっと見ていたら、お兄さんは小さく咳払いをした。

「……お前は、田舎育ちなのか?」
「はい。そんなに田舎っぽいですか」
「お前の言動はただの子供としか思えないが、何というか……逃げる手段の発想が訳がわからない。お前の田舎はドラゴンが出没するような場所なのか?」

 ……は?
 ドラゴンが出没するって、どんな魔境ですか! いくら辺境地区でもそこまで凄くはありませんよ! ドラゴンが日常の場所なんて異界じゃないですか! 確かにいろいろ魔獣がいる場所だけど、ドラゴンなんてここ百年くらい目撃情報はありませんよっ!

「いやいや、流石にドラゴンなんて出ませんから!」
「では、なぜ翼狼の背に乗って逃げると言う発想が出てくるんだ」
「へ? それは、普通に翼付きの魔狼が一番足が速いからに決まって……え?」

 いや、確かに今、王都にも翼狼がいればいいのに!と思った。
 私の家の領地では、魔獣の一種である翼狼を飼い慣らして乗り回っていた。大地を駆け回る狼の形態でありながら、空を飛ぶための翼を持つ魔獣で、最も役に立つ魔獣の一つだと思う。
 でも、全国的に見ると翼狼を飼い慣らすことは一般的ではないらしい。
 つまり、もし王都で手に入れようと思ったらとんでも無く高価なんだろうな……とか、そんなことも考えていた。
 あくまで、考えただけだ。

 なのに、なぜこの金回りの良さそうなお兄さんは、王都では一般的ではないはずの翼狼なんて言い出したんだろう。
 ……やっぱり危ない人なのかもしれない。そんな思いを込めて見てしまった途端に、お兄さんは舌打ちをして私に冷ややか過ぎる目を向けた。

「さっきも言ったが、私の持っている魔力は並外れて強い。お前のように全く隠す気のない思考は、読みたくなくても勝手に読めてしまうのだ」
「へぇ、それは大変ですね」

 正直言って、魔力関係はよくわからない。だから何となく愛想笑いを浮かべて追従っぽいことを言ってしまった。
 でもその反応は正解ではなかったらしい。思いっきり顔を顰められてしまった。もともと鋭かった水色の目が、恐ろしく冷たく凶悪なものになっている。

「大変ですね、ではないぞ。お前はもう少し思考を隠すことを心がけるべきだろう」
「そ、そうなんですか?」
「お前の思考は無防備すぎる。それなりの魔力を持つものなら、たいした労力をかけずに読めるだろう。お前の領地ではそう言うことはなかっただろうが、この王都ではそう言う危険もあるんだ」
「なるほど。確かに危険そうですね。ご忠告ありがとうございます! ……でも、どうやったら思考を隠すことができるんでしょう?」

 一理ある。そう思ったから聞いてみたのだが。
 お兄さんの目が、冷ややかを通り越して虚無になってしまった。

「……お前、貴族ではなかったのか?」
「一応、貴族の一員です」

 自覚していなくても気品が滲み出ている……とは絶対に思わない。家格が云々とかいう話をしてしまったので、きっとばれたんだろうなと考えて正直に白状した。
 でも、お兄さんは褒めてくれる気はないようだ。
 水色の目が氷そのもののようになっていた。

「貴族の一員なのに、なぜそこまで無知なんだ? 貴族なら魔術教育は必須とされているはずだぞ」
「えっと、多分それは、私が魔力がゼロ、だから?」
「……ゼロ?」

 つぶやく声まで感情が欠けている。
 ……このお兄さん、目つきが怖いと思っていたけど、性格的にもちょっと怖いなぁ。せっかくきれいなお顔立ちなのに、この人、絶対に女の人にモテないと思う。
 と言う私情は置いておくとして。少し前向きな質問をすることにした。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?

朱音ゆうひ@『桜の嫁入り』発売中です
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!  「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」 王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。 不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。 もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた? 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの
恋愛
 幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。  誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。  数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。  お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。  片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。  お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……  っと言った感じのストーリーです。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎ 倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。 栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。 「責任、取って?」 噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。 手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。 けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。 看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。 それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。

私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。 

さら
恋愛
 私――ミリアは、クラスで地味で取り柄もない“都合のいい子”だった。  そんな私が、いじめの張本人だった美少女・沙羅と一緒に異世界へ召喚された。  王城で“聖女”として迎えられたのは彼女だけ。  私は「魔力が測定不能の無能」と言われ、冷たく追い出された。  ――でも、それは間違いだった。  辺境の村で出会った青年リオネルに助けられ、私は初めて自分の力を信じようと決意する。  やがて傷ついた人々を癒やすうちに、私の“無”と呼ばれた力が、誰にも真似できない“神の光”だと判明して――。  王都での再召喚、偽りの聖女との再会、かつての嘲笑が驚嘆に変わる瞬間。  無能と呼ばれた少女が、“本物の聖女”として世界を救う――優しさと再生のざまぁストーリー。  裏切りから始まる癒しの恋。  厳しくも温かい騎士リオネルとの出会いが、ミリアの運命を優しく変えていく。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

処理中です...