姉の婚約者に口説かれた。どうやら王都の男どもの目は節穴らしい。

ナナカ

文字の大きさ
53 / 53
エピローグ

(終)私は猫でいい

しおりを挟む

「……あの、お兄さんのお母様とお姉様は、今どこに……」
「二人とも長生きはできなかった。もう十年以上前のことだ。だから気にするな」

 何でもないことのように言うけれど、猫たちはピッタリとくっついて離れない。まるでお兄さんの心の隙間を埋めようとしているようだ。
 だから私も、なんだか寂しそうに見えたお兄さんの背中にそっとくっついてみた。

「……何をしている」
「私も猫だと思ってください」
「猫にしてはよくしゃべる」
「では、にゃーと鳴きましょうか? お兄さんは猫はお好きでしょう?」
「馬鹿馬鹿しい。お前、外から見るとどんな風に見られているか、わかっているのか?」
「え、ただの猫ですよ!」
「……では、そこで青ざめている男に聞け」
「青ざめて?」

 首を傾げながら私は振り返った。
 そこにいたのは、ここにいるはずのない人。青ざめたイケオジ魔導師様だった。ついにここが見つかってしまったのか。……そう思うと、とても残念な気がする。なぜかはわからないけど。
 でも、私は取り敢えず顔色の悪い金髪のイケオジ様に声をかけてみた。

「ロイカーおじさん。顔色が悪いけど、大丈夫?」
「……あー、うん、まあ大丈夫だ。だが……その、ちび嬢ちゃん。俺は伯爵様になんて報告すればいいんだ?」
「報告って?」
「つまり……公爵閣下! そういうつもりではないんですよね?」
「これは猫だ。本人が言っているから、猫でいい」
「…………いや、それは無理でしょう!」

 ロイカーおじさんは頭を抱えている。
 お兄さんはいつも通りに冷たい目で見ているけど、その横顔は笑っているように見えた。
 いや、これは絶対に笑っているよね。お兄さん、実は結構優しい人だし、よく笑う人だから。
 わずかに和んでいる横顔を見ていたら、私の心も穏やかになっていく。

 だから私は……しばらく異界の猫扱いでいいかな、と思いながらお兄さんの背中にぺたりとくっついた。子供の特権だ。
 ロイカーおじさんが息を呑んだのがわかるけど、気にしない。
 でもお兄さんはあまり寛容な気分ではなかったようだ。小さくため息を吐いて、ぐいっと私を押し剥がしてしまった。

「お兄さん、私は猫にも劣りますか?!」
「……私を後ろ指を刺されるような変態にしたいのか」

 そう言って、冷たい目でジロリと睨まれた。
 でも私が何か言い返す前に、さらに言葉をつづけた。

「それから、私の名はガーフィルだ」
「…………え?」

 一瞬、意味がわからなくて首を傾げる。
 お兄さんはもう一度ため息をついた。

「どうせお前は、姉にまで遠慮して何も聞けていないのだろう?」
「な、なぜバレているんですか」
「お前はわかりやすいからな」

 それだけ言って、お兄さんは流れるような動きで私の手元からバスケットを奪い返し、リグ入りクッキーを取り出した。
 やっぱり自分で食べている。
 ……お兄さん、そんなにリグが好きなんですか?
 と呆れていたら、お兄さんに睨まれた。

「私の名はガーフィルだと言っただろう」
「あー、そうでした。えっと、ガーフィル卿?」
「言い慣れない言葉は使うな」
「では、ガーフィル様」
「……まあ、それでいいか」

 お兄さんは……ガーフィル様は冷ややかにつぶやいた。でも、私の口元にクッキーを押し付けてきたのは、どう解釈すれば……。
 食べろということ?
 いわゆるご褒美的な?
 思い切ってパクリと食いついてみた。お兄さんは満足そうに頷いて、私にお茶のお代わりを注いでくれた。
 お兄さんは優しいなぁ……あ、違う。ガーフィル様だ。
 ガーフィル様、ガーフィル様……慣れないな……。

 もぐもぐとクッキーを食べながら、心の中で練習をする。
 どうやら、お兄さんはロイカーおじさんにもフルーツケーキとお茶を振る舞うつもりらしい。
 その辺の草の大きな葉をちぎると、面倒臭そうに魔術をかけてコップに仕立てていた。
 あの草製コップ、お茶を入れても熱くならないのだろうか。質感も軽いままなのか、草の匂いもしないのかとか、いろいろ気になってしまう。

 思わずじっと見ていると、お茶を注いでいたお兄さんがふと私を見た。
 もしかして、また思考が筒抜けになっている?!
 私は慌てて「ガーフィル様」と言い直した。
 そこだけ不自然に声に出してしまったけど、ガーフィル様は気にしないでいてくれるようだ。むしろ、ちょっと満足そうに微笑んだ。
 やっぱり、お兄さんは……ガーフィル様は優しい。

 横にいるロイカーおじさんが、ガーフィル様の笑顔に動揺して声無き悲鳴をあげていて、長毛の美しい猫たちが面白そうにじぃっと見ている。
 でも私はなんだか幸せな気分になったから、うるさい周囲については無視をした。



     ◇ 終 ◇
しおりを挟む
感想 17

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(17件)

yuki
2025.12.06 yuki

面白かったです!
続き書いてほしいぐらい面白かったです

解除
ああああああ

とても丁寧な解説でスッキリ!!
致しましたぁ♪
ありがとうございます
( ^∀^)



2023.04.23 ナナカ

こちらこそ、質問ありがとうございました。
率直な感想や質問などをいただけると、改良点などがわかるのでとても助かってます。

解除
ああああああ
ネタバレ含む
2023.04.23 ナナカ

質問ありがとうございます。
うまく書き込めていなかったことに気付いて、今ちょっと焦っています。申し訳ありません!

以下、ざっくり解説させていただきます。

リリーちゃんは先祖返りで、母親は美人すぎるのと多少の魔力があるだけの普通の人間です。
先祖は人間に肩入れした魔族で、人間嫌いな同族や危険魔獣などと戦ってました。
こういう人間に好意的な魔族はたまにいて、契約の形で人間を守っていたりします。まれに子供も生まれたりします。でも滅多に異界から出てこない人たちなので、人間は自力で頑張っている感じですね。

魔族(人型)の下に、形態を自在に変えられる魔物がいて、それが蛇犬です。その下に魔獣がいます。

リリーちゃんが狙われたのは、異界マニアの変態さんに目をつけられただけです。リリーちゃんは完全な先祖返りなので、髪の毛でも魔力の欠片があるようです。異界は弱肉強食な世界なので、魔族の欠片が手に入ることは絶対にないので蛇犬は喜んでいました。
ちなみに、王都では異界の存在と契約することは禁止されてます。

その辺の事情を含めて、続きを書いていきたいな……と思ったままになっておりました。

解除

あなたにおすすめの小説

転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?

朱音ゆうひ@『桜の嫁入り』発売中です
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!  「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」 王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。 不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。 もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた? 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの
恋愛
 幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。  誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。  数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。  お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。  片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。  お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……  っと言った感じのストーリーです。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎ 倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。 栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。 「責任、取って?」 噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。 手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。 けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。 看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。 それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。

私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。 

さら
恋愛
 私――ミリアは、クラスで地味で取り柄もない“都合のいい子”だった。  そんな私が、いじめの張本人だった美少女・沙羅と一緒に異世界へ召喚された。  王城で“聖女”として迎えられたのは彼女だけ。  私は「魔力が測定不能の無能」と言われ、冷たく追い出された。  ――でも、それは間違いだった。  辺境の村で出会った青年リオネルに助けられ、私は初めて自分の力を信じようと決意する。  やがて傷ついた人々を癒やすうちに、私の“無”と呼ばれた力が、誰にも真似できない“神の光”だと判明して――。  王都での再召喚、偽りの聖女との再会、かつての嘲笑が驚嘆に変わる瞬間。  無能と呼ばれた少女が、“本物の聖女”として世界を救う――優しさと再生のざまぁストーリー。  裏切りから始まる癒しの恋。  厳しくも温かい騎士リオネルとの出会いが、ミリアの運命を優しく変えていく。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。