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第3話 語らい
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旅が進むにつれて集落もまばらになり、野営の機会も増えてくる。
一番年下の聖女は雑務を積極的にこなしていた。
「何か手伝おうか?」
食事の支度をする聖女に話しかける。
「ううん、炊き出しとか昔からやってて慣れてるから大丈夫」
水や火の魔法を駆使して料理をてきぱきと作っていく。
「お前、治癒以外の魔法も使えるんだな」
「うん。ただ昔からそうだったけど、あたしは命あるものを傷つけるってのができないんだよね。食うに困った時に自分で狩りをしようと本気で思ったんだけどさ、魔法が発動しなくてダメだったんだ。だから申し訳ないけど戦力にはなれないから、そこんとこよろしくね」
「ああ、わかった」
野営での火の番は交代で行う。
俺は戦うことができない聖女とともに火の番に当たる。
「なぁ、前から気になってたんだが、あれだけ治癒魔法が使えるんなら神殿から声がかかったりしなかったのか?」
「あったよ。でも全部断ってた」
「なぜだ?」
火を見つめながら聖女が話し出す。
「死んだ母も治癒魔法が使えて若い頃は神殿にいたこともあるんだけど、重篤な状態の平民より軽症の貴族を優先するなんてのが当たり前になってて、そのせいで亡くなる平民もたくさん見てきたって言ってた。これじゃいけないって神殿を飛び出して街での治療を始めたんだって。だから神殿とは関わりたくなかった」
なるほど、そういうことだったか。
「お前の母上がいた頃は前の大神官だったんだろうな。前の大神官はさまざまな不正が発覚して失脚し、現在の大神官は神殿の大改革を断行した。今は本来あるべき姿に戻っている。だからお前の代わりの治療も快く引き受けてくれたんだ。
そういえば大神官はお前と話してみたいと言っていたぞ。もしかしたらお前の母上のことも知っているのかもしれないな」
「そうなんだ…知らなかった。あたしもちょっと会ってみたいかも」
聖女は火の明かりの前で穏やかに微笑んでいた。
ただ単純に綺麗だな、と思った。
魔王の居城が近付くにつれて魔族による襲撃が増えてきたが、戦闘に慣れるにしたがって呼吸も合うようになり、いちいち口に出さなくてもスムーズに連携が取れるようになっていた。聖女も攻撃には加われないが、的確にメンバーのフォローをしてくれていた。
そして魔王との最終決戦はどちらから力尽きるまでの長丁場となり、他のメンバーが限界を超えてしまったため、最終的に勇者である俺と魔王との一騎打ちとなった。
しばらくにらみ合いが続いたが、物陰に隠れていた聖女が女魔術師から教わった土魔法で魔王の足元を揺らしてほんのわずかな隙を作り、勇者である俺がとどめを刺して勝敗は決した。
魔王が消滅した後、聖女は残りの魔力すべてを使ってパーティメンバー全員に治癒魔法をかけ、魔力切れで崩れるようにその場に倒れた。
「…ここ、どこ?」
「お、目が覚めたか。王都に向かう馬車の中だ。お前、丸1日眠ってたんだぞ」
目覚めた聖女に声をかける。
「…みんなは?」
「お前の治癒魔法のおかげで全員元気だ。今はお前が一番重症だな」
目が覚めたばかりでまだぼーっとしていた聖女だったが、だんだん意識がハッキリしてきて現状に気づく。
「あたし、なんであんたに抱きかかえられてんの?!」
「クッション代わりだ。馬車の振動が軽減されるだろ?勇者であり王子でもある俺がお姫様抱っこしてやってるんだ。ありがたく思え」
「いや、その、もう目が覚めたんだから降ろしてほしいんだけど…」
「ダメだ、認めん。まだ顔色が悪いじゃないか。ほら、もうしばらく寝とけ」
聖女に毛布を被せる。
しばらくは抵抗していたが、眠気に負けて聖女が再び目を閉じる。
聖女が小さな寝息をたて始めた頃、同じ馬車内にいる女魔術師がニヤニヤしながら言った。
「まったく、勇者様は聖女に甘々だねぇ」
一番年下の聖女は雑務を積極的にこなしていた。
「何か手伝おうか?」
食事の支度をする聖女に話しかける。
「ううん、炊き出しとか昔からやってて慣れてるから大丈夫」
水や火の魔法を駆使して料理をてきぱきと作っていく。
「お前、治癒以外の魔法も使えるんだな」
「うん。ただ昔からそうだったけど、あたしは命あるものを傷つけるってのができないんだよね。食うに困った時に自分で狩りをしようと本気で思ったんだけどさ、魔法が発動しなくてダメだったんだ。だから申し訳ないけど戦力にはなれないから、そこんとこよろしくね」
「ああ、わかった」
野営での火の番は交代で行う。
俺は戦うことができない聖女とともに火の番に当たる。
「なぁ、前から気になってたんだが、あれだけ治癒魔法が使えるんなら神殿から声がかかったりしなかったのか?」
「あったよ。でも全部断ってた」
「なぜだ?」
火を見つめながら聖女が話し出す。
「死んだ母も治癒魔法が使えて若い頃は神殿にいたこともあるんだけど、重篤な状態の平民より軽症の貴族を優先するなんてのが当たり前になってて、そのせいで亡くなる平民もたくさん見てきたって言ってた。これじゃいけないって神殿を飛び出して街での治療を始めたんだって。だから神殿とは関わりたくなかった」
なるほど、そういうことだったか。
「お前の母上がいた頃は前の大神官だったんだろうな。前の大神官はさまざまな不正が発覚して失脚し、現在の大神官は神殿の大改革を断行した。今は本来あるべき姿に戻っている。だからお前の代わりの治療も快く引き受けてくれたんだ。
そういえば大神官はお前と話してみたいと言っていたぞ。もしかしたらお前の母上のことも知っているのかもしれないな」
「そうなんだ…知らなかった。あたしもちょっと会ってみたいかも」
聖女は火の明かりの前で穏やかに微笑んでいた。
ただ単純に綺麗だな、と思った。
魔王の居城が近付くにつれて魔族による襲撃が増えてきたが、戦闘に慣れるにしたがって呼吸も合うようになり、いちいち口に出さなくてもスムーズに連携が取れるようになっていた。聖女も攻撃には加われないが、的確にメンバーのフォローをしてくれていた。
そして魔王との最終決戦はどちらから力尽きるまでの長丁場となり、他のメンバーが限界を超えてしまったため、最終的に勇者である俺と魔王との一騎打ちとなった。
しばらくにらみ合いが続いたが、物陰に隠れていた聖女が女魔術師から教わった土魔法で魔王の足元を揺らしてほんのわずかな隙を作り、勇者である俺がとどめを刺して勝敗は決した。
魔王が消滅した後、聖女は残りの魔力すべてを使ってパーティメンバー全員に治癒魔法をかけ、魔力切れで崩れるようにその場に倒れた。
「…ここ、どこ?」
「お、目が覚めたか。王都に向かう馬車の中だ。お前、丸1日眠ってたんだぞ」
目覚めた聖女に声をかける。
「…みんなは?」
「お前の治癒魔法のおかげで全員元気だ。今はお前が一番重症だな」
目が覚めたばかりでまだぼーっとしていた聖女だったが、だんだん意識がハッキリしてきて現状に気づく。
「あたし、なんであんたに抱きかかえられてんの?!」
「クッション代わりだ。馬車の振動が軽減されるだろ?勇者であり王子でもある俺がお姫様抱っこしてやってるんだ。ありがたく思え」
「いや、その、もう目が覚めたんだから降ろしてほしいんだけど…」
「ダメだ、認めん。まだ顔色が悪いじゃないか。ほら、もうしばらく寝とけ」
聖女に毛布を被せる。
しばらくは抵抗していたが、眠気に負けて聖女が再び目を閉じる。
聖女が小さな寝息をたて始めた頃、同じ馬車内にいる女魔術師がニヤニヤしながら言った。
「まったく、勇者様は聖女に甘々だねぇ」
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