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第六章『主なき聖剣』
第五百四話『頂点に立つ者』
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誰かがその称号を口にしたのでも、まして本人が名乗ったのでもない。ただ、立ち振る舞いを見れば確信できた。目の前に立つ赤髪の男こそが、この帝国で頂点に上り詰めた『皇帝』であるのだと。
「……その様子、余の正体は言わずとも察したようだな。喜べ、余の中で貴様らの評価は急上昇しているぞ」
馬車の中で立ちすくむリリスたちを睥睨して、皇帝はくつくつと心底楽しそうな笑みを浮かべる。しかしそれはあくまで口元だけ、燃えるような赤色をした瞳は今もこちらを品定めするかのように見つめ続けていた。
「……それ、私たちに抱いていた最初の評価が低すぎるってだけの話じゃないわよね?」
「いいや、その推測が正しい。何せこの帝国において余以上の存在が現れることなどあり得ぬからな。まして平和にかまけている王国からの客人など、舐めてかからぬ方が皇帝としての品位を疑われるというものよ」
その視線に貫かれながらなんとか発した次の言葉は、哄笑と共に発された言葉によって肯定される。リリスたちを明らかに見下しているその言葉に悪意を感じないことがあまりにも不気味だった。
「『獅子は兎を狩るのにも全力を尽くす』などとはよく言ったものだが、余からすれば兎を狩るのに全力を見せなければならぬ獅子など見ていられぬ。相手の力量を一瞬にして見抜き、それに合わせた手札の切り方をした上で確実に勝利する。……それが強者として真に美しい在り方だと思わんか、娘よ」
そんな印象をさらに裏付けるかのように、皇帝は両手を広げながら堂々と持論を展開する。それはきっと、帝国の頂点に辿り着いた者しか抱くことを許されない傲岸不遜な考えだった。
頂点に立ってしまった以上、誰かと向き合うときの彼の視線はどうしても下を向かざるを得ない。それが皇帝にとっての『自然』であり、そこに悪意などありはしないのだ。……肉食獣が悪意を持って獲物を狩るのではないのと同じように、皇帝は悪意なく全存在を見下している。
「生憎、私はそうは思わないわね。そうやって相手を舐めた挙句反撃を食らって破滅した人間の事、私は間近で見たことがあるもの」
ついでに言えば、その破滅の後にどんな末路を辿ったのかも知っている。真意も知らず利用され、遂には操られるような形でクライヴ達に付き従うクラウスの姿は、敵ながら見ていられないぐらいに痛々しい。……誰かの上に立つことを至上としていた彼は今、絶対的な力の差によって支配されている。
「かははははッ、余をそこらの凡骨と並べて物を語るか! 面白い、王国にこのような掘り出し物があるとは思わなかったぞ!」
だからいかに強者とて油断するべきではないと釘を刺したつもりだったのだが、どうやらそれは逆効果だったらしい。皇帝は高らかに笑いながら扉の前を退き、続けて歓迎の言葉を口にした。
「国境を越え、街道を超えよくぞここまでたどり着いた、帝国の使者たちよ。余こそがこの帝国の頂点に立つ者、カイル・ヴァルデシリアである。その威光の下に、貴様らの来訪を歓迎しよう」
「……カイル・ヴァルデシリア」
威風堂々と言う言葉が良く似合う名乗りを聞いて、リリスはそれを口の中で反芻する。皇帝――カイルが名乗っただけで場の雰囲気が一変し、体の芯がビリビリと痺れるような感覚が走っていた。
何か対策でもされているのか魔力の気配は思うように探れず、カイルの実力に関しては未だに未知数のままだ。だが、それでも『コイツとは戦うべきではない』と生存本能は絶叫を続けている。この帝国で平穏に生きていたいなら、カイルだけは敵に回してはいけないだろう。
だが、ここで退いては目的が遠のいていくばかりだ。カイルは敵ではなく、同じ標的に向ける意思を共にする交渉相手。そう強く自分に言い聞かせながら、リリスは改めて口を開いた。
「……私はリリス・アーガスト。端的に言いましょう、私はクライヴ・アーゼンハイトを殺すためにここまで来たわ。他の皆がどうかは知らないけれど、少なくとも私はそう考えているわ」
下手に嘘を吐くことも取り繕う事もせず、まっすぐに視線を向けてリリスは名乗る。……下手な綺麗事は危険の種にしかならないと、理性ではなく本能が判断を下していた。
この帝国において、格上に対して殺意を露わにすることは決して無礼なことではない。この国を突き動かすのは野心、自分の望む結末を掴み取りたいという欲望だ。……その頂点に立った人間に対して、どうしてその感情をひけらかす必要があろうか。
「殺すとはまた大きく出たな、リリス・アーガスト。そこまで強い殺意を抱く貴様が、どうして帝国との共同戦線などと言う考えに乗ったのだ?」
「簡単よ、死にたくないってだけ。仮にクライヴを殺せたのだとしても、私にとって大切な命を犠牲にしたんじゃ意味がない。個の力で達成するのが難しいなら、力を借りることだってやぶさかじゃないわ」
リリス一人でクライヴを殺すことができるならば、わざわざ帝都に出向いてこのような対面を迎える必要などなかった。それが出来ないのが残念な現状で、リリスとクライヴの間には実力の開きが確かにある。……だからこそ、それを埋めるための努力は惜しまないのだ。
「それが不意打ちでも数の力で圧殺するのでも、クライヴを殺せるんだったらなんでもいい。……あなたたちが私たちを利用するように、私たちだってあなたたちの事を利用してやるわよ」
「……ほう。それはまた、余を前にして随分と大きく出たものだ」
馬車を下りてカイルとの距離を詰めながら、リリスは堂々と啖呵を切る。……それにカイルが唸り声を上げてこめかみに手を当てた、次の瞬間の事だった。
突如背筋が総毛立ち、リリスは『死』を錯覚する。意思に反してがくがくと足腰が震えだし、今にも崩れ落ちる一歩手前と言う所でどうにか踏みとどまることが精一杯だった。
誰かに触れられたわけでも、何か言葉を発されたわけでもない。それなのに、腹を巨大な刃物で串刺しにされたような感覚がある。息が詰まり、身体から体温が消えていく。その下手人は、誰がどう見てもカイル以外に考えられない。
「か、は……っ」
リリスの背後から、誰かが必死に呼吸するような声が聞こえてくる。だが、今のリリスには振り返ってそれを確認する余裕もない。……これが、帝国を制した男の放つ殺気だとでも言うのか。
それからしばらくしないうち、どさりと誰かがへたり込むような音が聞こえてくる。連鎖するように二、三と音が続いた後、訪れたのはあまりにも厳かな静寂だった。
体を貫く様な殺気は今もリリスたちへ向けられ、リリスを跪かせようと負担をかけ続ける。それに対して抗えているのは、ひとえに気力の産物でしかない。
カイルの立場からしてみれば、いきなり現れて帝国を『利用する』などというのは身勝手にもほどがある話だ。カイルにも皇帝としての立場がある以上、リリスの宣言に対して『はいそうですか』と頷いているわけにもいかないのだろう。むしろいきなり殺されなかったというだけで、皇帝の振る舞いとしては温情があるのかもしれない。
(……知ったこっちゃ、ないわよ)
殺気に中てられながら回転する思考が提出するとりとめのない考えを黙殺して、リリスは歯を食いしばる。あっちにどんな事情があろうと関係ない、リリスにもリリスの事情がある。個の一線ばかりは、誰であろうと簡単に譲れるものではなかった。
錯覚の中で突き刺さるナイフの本数はだんだんと数を増やし、その度に身体が冷たくなっていくのをひしひしと感じる。それでも意志だけで頽れそうになる足腰を繋ぎとめ、目を見開いてカイルを射抜き返し続ける。……意地によって辛うじて膠着していた状況が動いたのは、それから十秒もしないうちの事だった。
だが、この場に正確な時間間隔を持っていた物は皇帝以外にいない。彼から放たれる殺気に耐える時間は、リリスたちにとって無限の長さにも等しかった。……ともすればここで死んでしまうのではないかと、そう錯覚せざるを得ないほどに。
「……ふむ、どうも虚勢ではないらしいな。貴様を――いや、貴殿らを余は少々見誤っていたらしい」
ふと皇帝が口を開いたことによって場の緊張は解け、リリスの身体に体温が戻る。心臓に手を当ててみればドクドクと規則的な生存の証が伝わってきた。
「少々人数が多い故刈り取るつもりだったのだが、どうも上手くいかぬな。余が育てた者どもはここまで貧弱なのかと内心涙が出てくるほどだ」
わざとらしく眼もとに手を当てながらそう口にするカイルの視線は、リリスの向こう側へと向けられている。気になって振り返ったリリスの視界に広がっていたのは、想像した以上の惨状だった。
馬車の中にいたケラーとカルロが、倒れ伏すような形で気絶している。他に視線を配れば御者やリリスたちを出迎えた城の人間、果てはここまでリリスたちを導いてくれた馬でさえも、その意識を手放して崩れ落ちていた。
「余の威光を知る人間には効き目が強いのか、それとも貴殿らの精神が飛びぬけて強靭なのか――真偽は分からぬが、まあどちらでもいいな。今この場において肝要なのは、貴殿らがそれを前にしても誰一人跪くことがなかったという事だ」
未だ馬車の中に立つツバキやフェイ、ロアルグたちを順々に見つめながら、カイルは興味深そうに首を縦に振る。……あの殺気を経てなお、共同戦線を代表する面々は一人として意識を失ってはいなかった。
そして、それがどうやら彼の中で一つの決め手となったらしい。カイルは大きく手を広げ、まるで少年のように晴れやかな笑みを浮かべると――
「カイル・ヴァルデシリアの名において、リリス・アーガスト以下共同戦線の諸君の来訪を歓迎しよう。このような強者と巡り会える機会が生まれたことは、余にとってこれ以上ないほどの幸運だ」
――今度は正式な皇帝として、リリスたちに歓迎の言葉を送ったのだった。
「……その様子、余の正体は言わずとも察したようだな。喜べ、余の中で貴様らの評価は急上昇しているぞ」
馬車の中で立ちすくむリリスたちを睥睨して、皇帝はくつくつと心底楽しそうな笑みを浮かべる。しかしそれはあくまで口元だけ、燃えるような赤色をした瞳は今もこちらを品定めするかのように見つめ続けていた。
「……それ、私たちに抱いていた最初の評価が低すぎるってだけの話じゃないわよね?」
「いいや、その推測が正しい。何せこの帝国において余以上の存在が現れることなどあり得ぬからな。まして平和にかまけている王国からの客人など、舐めてかからぬ方が皇帝としての品位を疑われるというものよ」
その視線に貫かれながらなんとか発した次の言葉は、哄笑と共に発された言葉によって肯定される。リリスたちを明らかに見下しているその言葉に悪意を感じないことがあまりにも不気味だった。
「『獅子は兎を狩るのにも全力を尽くす』などとはよく言ったものだが、余からすれば兎を狩るのに全力を見せなければならぬ獅子など見ていられぬ。相手の力量を一瞬にして見抜き、それに合わせた手札の切り方をした上で確実に勝利する。……それが強者として真に美しい在り方だと思わんか、娘よ」
そんな印象をさらに裏付けるかのように、皇帝は両手を広げながら堂々と持論を展開する。それはきっと、帝国の頂点に辿り着いた者しか抱くことを許されない傲岸不遜な考えだった。
頂点に立ってしまった以上、誰かと向き合うときの彼の視線はどうしても下を向かざるを得ない。それが皇帝にとっての『自然』であり、そこに悪意などありはしないのだ。……肉食獣が悪意を持って獲物を狩るのではないのと同じように、皇帝は悪意なく全存在を見下している。
「生憎、私はそうは思わないわね。そうやって相手を舐めた挙句反撃を食らって破滅した人間の事、私は間近で見たことがあるもの」
ついでに言えば、その破滅の後にどんな末路を辿ったのかも知っている。真意も知らず利用され、遂には操られるような形でクライヴ達に付き従うクラウスの姿は、敵ながら見ていられないぐらいに痛々しい。……誰かの上に立つことを至上としていた彼は今、絶対的な力の差によって支配されている。
「かははははッ、余をそこらの凡骨と並べて物を語るか! 面白い、王国にこのような掘り出し物があるとは思わなかったぞ!」
だからいかに強者とて油断するべきではないと釘を刺したつもりだったのだが、どうやらそれは逆効果だったらしい。皇帝は高らかに笑いながら扉の前を退き、続けて歓迎の言葉を口にした。
「国境を越え、街道を超えよくぞここまでたどり着いた、帝国の使者たちよ。余こそがこの帝国の頂点に立つ者、カイル・ヴァルデシリアである。その威光の下に、貴様らの来訪を歓迎しよう」
「……カイル・ヴァルデシリア」
威風堂々と言う言葉が良く似合う名乗りを聞いて、リリスはそれを口の中で反芻する。皇帝――カイルが名乗っただけで場の雰囲気が一変し、体の芯がビリビリと痺れるような感覚が走っていた。
何か対策でもされているのか魔力の気配は思うように探れず、カイルの実力に関しては未だに未知数のままだ。だが、それでも『コイツとは戦うべきではない』と生存本能は絶叫を続けている。この帝国で平穏に生きていたいなら、カイルだけは敵に回してはいけないだろう。
だが、ここで退いては目的が遠のいていくばかりだ。カイルは敵ではなく、同じ標的に向ける意思を共にする交渉相手。そう強く自分に言い聞かせながら、リリスは改めて口を開いた。
「……私はリリス・アーガスト。端的に言いましょう、私はクライヴ・アーゼンハイトを殺すためにここまで来たわ。他の皆がどうかは知らないけれど、少なくとも私はそう考えているわ」
下手に嘘を吐くことも取り繕う事もせず、まっすぐに視線を向けてリリスは名乗る。……下手な綺麗事は危険の種にしかならないと、理性ではなく本能が判断を下していた。
この帝国において、格上に対して殺意を露わにすることは決して無礼なことではない。この国を突き動かすのは野心、自分の望む結末を掴み取りたいという欲望だ。……その頂点に立った人間に対して、どうしてその感情をひけらかす必要があろうか。
「殺すとはまた大きく出たな、リリス・アーガスト。そこまで強い殺意を抱く貴様が、どうして帝国との共同戦線などと言う考えに乗ったのだ?」
「簡単よ、死にたくないってだけ。仮にクライヴを殺せたのだとしても、私にとって大切な命を犠牲にしたんじゃ意味がない。個の力で達成するのが難しいなら、力を借りることだってやぶさかじゃないわ」
リリス一人でクライヴを殺すことができるならば、わざわざ帝都に出向いてこのような対面を迎える必要などなかった。それが出来ないのが残念な現状で、リリスとクライヴの間には実力の開きが確かにある。……だからこそ、それを埋めるための努力は惜しまないのだ。
「それが不意打ちでも数の力で圧殺するのでも、クライヴを殺せるんだったらなんでもいい。……あなたたちが私たちを利用するように、私たちだってあなたたちの事を利用してやるわよ」
「……ほう。それはまた、余を前にして随分と大きく出たものだ」
馬車を下りてカイルとの距離を詰めながら、リリスは堂々と啖呵を切る。……それにカイルが唸り声を上げてこめかみに手を当てた、次の瞬間の事だった。
突如背筋が総毛立ち、リリスは『死』を錯覚する。意思に反してがくがくと足腰が震えだし、今にも崩れ落ちる一歩手前と言う所でどうにか踏みとどまることが精一杯だった。
誰かに触れられたわけでも、何か言葉を発されたわけでもない。それなのに、腹を巨大な刃物で串刺しにされたような感覚がある。息が詰まり、身体から体温が消えていく。その下手人は、誰がどう見てもカイル以外に考えられない。
「か、は……っ」
リリスの背後から、誰かが必死に呼吸するような声が聞こえてくる。だが、今のリリスには振り返ってそれを確認する余裕もない。……これが、帝国を制した男の放つ殺気だとでも言うのか。
それからしばらくしないうち、どさりと誰かがへたり込むような音が聞こえてくる。連鎖するように二、三と音が続いた後、訪れたのはあまりにも厳かな静寂だった。
体を貫く様な殺気は今もリリスたちへ向けられ、リリスを跪かせようと負担をかけ続ける。それに対して抗えているのは、ひとえに気力の産物でしかない。
カイルの立場からしてみれば、いきなり現れて帝国を『利用する』などというのは身勝手にもほどがある話だ。カイルにも皇帝としての立場がある以上、リリスの宣言に対して『はいそうですか』と頷いているわけにもいかないのだろう。むしろいきなり殺されなかったというだけで、皇帝の振る舞いとしては温情があるのかもしれない。
(……知ったこっちゃ、ないわよ)
殺気に中てられながら回転する思考が提出するとりとめのない考えを黙殺して、リリスは歯を食いしばる。あっちにどんな事情があろうと関係ない、リリスにもリリスの事情がある。個の一線ばかりは、誰であろうと簡単に譲れるものではなかった。
錯覚の中で突き刺さるナイフの本数はだんだんと数を増やし、その度に身体が冷たくなっていくのをひしひしと感じる。それでも意志だけで頽れそうになる足腰を繋ぎとめ、目を見開いてカイルを射抜き返し続ける。……意地によって辛うじて膠着していた状況が動いたのは、それから十秒もしないうちの事だった。
だが、この場に正確な時間間隔を持っていた物は皇帝以外にいない。彼から放たれる殺気に耐える時間は、リリスたちにとって無限の長さにも等しかった。……ともすればここで死んでしまうのではないかと、そう錯覚せざるを得ないほどに。
「……ふむ、どうも虚勢ではないらしいな。貴様を――いや、貴殿らを余は少々見誤っていたらしい」
ふと皇帝が口を開いたことによって場の緊張は解け、リリスの身体に体温が戻る。心臓に手を当ててみればドクドクと規則的な生存の証が伝わってきた。
「少々人数が多い故刈り取るつもりだったのだが、どうも上手くいかぬな。余が育てた者どもはここまで貧弱なのかと内心涙が出てくるほどだ」
わざとらしく眼もとに手を当てながらそう口にするカイルの視線は、リリスの向こう側へと向けられている。気になって振り返ったリリスの視界に広がっていたのは、想像した以上の惨状だった。
馬車の中にいたケラーとカルロが、倒れ伏すような形で気絶している。他に視線を配れば御者やリリスたちを出迎えた城の人間、果てはここまでリリスたちを導いてくれた馬でさえも、その意識を手放して崩れ落ちていた。
「余の威光を知る人間には効き目が強いのか、それとも貴殿らの精神が飛びぬけて強靭なのか――真偽は分からぬが、まあどちらでもいいな。今この場において肝要なのは、貴殿らがそれを前にしても誰一人跪くことがなかったという事だ」
未だ馬車の中に立つツバキやフェイ、ロアルグたちを順々に見つめながら、カイルは興味深そうに首を縦に振る。……あの殺気を経てなお、共同戦線を代表する面々は一人として意識を失ってはいなかった。
そして、それがどうやら彼の中で一つの決め手となったらしい。カイルは大きく手を広げ、まるで少年のように晴れやかな笑みを浮かべると――
「カイル・ヴァルデシリアの名において、リリス・アーガスト以下共同戦線の諸君の来訪を歓迎しよう。このような強者と巡り会える機会が生まれたことは、余にとってこれ以上ないほどの幸運だ」
――今度は正式な皇帝として、リリスたちに歓迎の言葉を送ったのだった。
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