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こんにちは、赤ちゃん

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案内された隣室は、以前見たときと明らかに雰囲気が違っていた。
どうやら、ここを子ども部屋にするために模様替えしたらしい。

「ほら、元気な男の子ですよ」
シュタルクが、部屋の隅に置いてあるベビーベッドを指差す。
「どれどれ」
ベビーベッドにそっと近づくと、そこには可愛い産着に身を包んだ赤ちゃんがいた。
手足をモゾモゾと動かして、辺りを興味深げにキョロキョロを見回している。

「目鼻立ちが旦那さまそっくりでございますね」
オレの背後に立っていたメアルタハがうそぶいた。
たしかに、ところどころがオレに似ている。
まるで、自分のクローンに出くわしたかのような不思議な感覚と一緒に、父性愛が湧いてくるのを感じた。
なんて可愛いんだろう!

血潮が透けてふっくらしたピンクのまん丸な頬、つぶらな瞳、柔らかい小さな手。
どこを取っても愛おしい。

「触ったりしても大丈夫かな?」
「ええ、ぜひとも触れてやってくださいな!」
シュタルクが嬉しそうに、ベビーベッドから子どもを抱き上げた。

「ゼフテロスさん、あなたのお父様ですよ」
メアルタハが子どもに微笑みかけた。
そうか、この子の名前はゼフテロスというのか。
いい名前だね。

「ほーら、お父様だよー」
子どもがよく見えるように、シュタルクが身をわずかにかがめた。
「へえ…かわいいね」
オレはゼフテロスの手のひらに、ソッと人差し指を這わせた。
すると、赤ん坊特有の本能的反射だろうか、ゼフテロスが小さな手で、オレの指をギュッと握ってきた。

「ちっちゃいお手手だねえ」
思わず唇の端が迫り上がる。
ちいさくて柔らかくてあったかい。
子どもってこんなにかわいいものだったんだなあ。
今までは他人の子どもを見ても何とも思わなかったが、自分の子となるとこんなに愛おしいのか。
オレは感じたことのない胸の高鳴りを感じた。

オレの人差し指を掴んだ指が離れていく。
それと同時に、ゼフテロスがんんーっとか細い声で呻いた。
その声すら、今のオレにはとても愛おしく感じる。

「すみません旦那さま。この子、眠いみたいです。いまは寝かせてやってくださいな」
シュタルクはそう言うと、ゼフテロスをベビーベッドに戻した。

「そうかい。じゃあ、オレは失礼するよ」
我が子の顔をまだ見ていたい気持ちはあったが、
「お大事になさってくださいね」
部屋を出ていく間際、メアルタハはお辞儀をすると、ゆっくりとドアを閉めた。

「いかがですか、初めての我が子を見たご感想は?」
「すごーくかわいい!不思議だよね、他人の赤ちゃんなんか見ても何とも思わなかったのに。自分の子どもって、あんなにかわいいんだね!!」
オレはいま感じている嬉しさを、一気に吐き出した。

「それは何より。そこまで喜んでくださるなら、シュタルク様も頑張った甲斐があるというものでしょう」
メアルタハも心なしか嬉しそうだ。

オレとしても、子作りを頑張った甲斐があるというものである。



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