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第二章 夏の段
第22話 地味ぽちゃ系アラサー女子の私が美女のイケメン夫と義理の兄の話をした件
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「うぅ、眠い……暑い……ツラい…………」
八木羽屋さん特製栄養ドリンクを一気に飲み干し、私はデスク上で屍同然に潰れていた。
毎日の業務が忙しいのはもちろんなのだが、委員会業務が明確になった事もあり私のスケジュールは常に満員御礼状態と化していた。それだけではなく、今週末には大都野さんとの約束の日も迫っている。
それでもって、種狛部長補佐の一件で衣吹戸課長から定期的に連絡が入るようになり、すでにキャパオーバーである。
――――体が一つでは、足りない。
仕事もプライベートも只今絶賛ハードモードだった。
(とりあえず何か、別の飲み物でも買いに行こう)
集中力が切れかかった頃、ちょうど休憩時間を迎えた。ヨロヨロとおぼつかない足取りで仕事場を出ようとした際、寸前で他の社員とぶつかりそうになったのを慌てて踏み止まる。
「うわっ!?」
「あっ!! 驚かせちゃってすいません!!
――――伊縄城さん、ですよね?」
突然目の前が暗くなり、謎の壁がそびえたつ。
視線を上方に向けると、ワックスを効かせた薄灰の短髪が男らしい、爽やかなイケメンが申し訳なさそうに立っている。先程の壁は胸筋だったらしい。
「はい、私ですが――な、何か御用でしょうか?」
不安そうな私を一蹴するように、イケメンが豪快に挨拶をする。
「嫁がいつもお世話になってます!!
頼まれてた物、お届けにきました!!」
――――非常に、声がデカい。
渡り廊下の端から端まで離れている時に呼ぶレベルの声量に匹敵する。
だが、大きなわんこのような無邪気さを醸し出すイケメンに、怒る気にはなれなかった。
この会社はどれだけ多種多様なイケメンが揃っているのだろう。恐るべし!
「嫁……あっ!
神霊営業部の帆見主任、ですね!」
「はい! 覚えていてくれて嬉しいっす!!
今日、八百万祭の有志について案内見ました!
神霊営業部も一丸となって働きますので、よろしくお願いします!!」
「あ、ありがとうございます……!」
あまりの熱量に、終始押され気味になる。
神霊営業部の方々は確か、皆さんこんな感じだった。
とにかく、″一生懸命で何事にも全力投球″といったアツい男達で脇を固めている部署だ。
生半可な気持ちでは対応出来ない。
「あと、これが例の物っすね。結構重いんで、部屋まで運びます!」
見ると、帆見主任の両手にずっしりと詰まった紙袋が握りしめられていた。
「えっ、これ、もしかして全部その、……ゆきさんからですか……?」
「あっハイ、そっす!
すいません、あいつかなり張り切っちゃってて、自分もさすがに途中で止めたんすけど……やっぱ、こんないらないっすよね……?」
まるで叱られた後の子犬のように、しょんぼりしている帆見主任を見て、慌てて私は否定した。
「いえ!! というよりも、勿体なさ過ぎて。
見た所、かなりお高そうな物ばかりというか……でも有り難く全部頂きます!
ゆきさんにもよろしくお伝えください!」
「押忍! 結構凝り性なもんで、とことん集めちゃうとこあるんですけど、気にせずガンガン使ってやってください!
子供生まれたら、化粧とかしてる余裕ないって言ってました。伊縄城さんに貰ってもらえて嬉しいって喜んでたんで、引き受けて頂いてありがとうございます!!」
(おおお……なんて良き夫婦だ……)
旦那さんは真っ直ぐで優しいし、奥さんは綺麗で思いやりに満ち溢れている。
完璧すぎる夫婦像だ。
願わくば、いつか、自分も――――
相手すらいないのに、そんな高望みをする身分ではない事は百も承知だが、羨まずにはいられない。
「あ、そういや今日お義兄さ、じゃなかった!
思兼部長って来てますか?」
「思兼部長ですか? うーん……すみません。私まだ今日は会ってないので、ちょっと分からないです」
「そっすよね! 後で檜川くんに聞いてみます!
――話全然変わるんすけど、伊縄城さんって結構業務で思兼部長とやり取りってしますか?」
「そうですね、入社時から色々お世話になってます。忙しいのに仕事がとても早くて、でも凄く几帳面というか丁寧で……色々助けられっぱなしです」
「あ~~~~、分かります!!
なんていうか、非の打ち所がないっすよね。そっかー、やっぱり伊縄城さんから見てもそうっすよね!」
うんうんと帆見主任が力強く頷いている。
「突然こんな話しちゃって驚きますよね。実は自分、思兼部長みたいになりたくて、密かに目標にしてたんです。部長、前は営業部のエースだったんすよ。もう伝説っすけど凄い優秀で、誰も追いつけなかった。今でも憧れてる奴、結構いるんじゃないかなぁ」
「えっ! 営業部にいたんですか?
知らなかったです」
「嫁の兄貴が完全無欠過ぎて、たまに自信無くなるんですけれどね。だから、こう考える事にしたんです!
こんな理想的な兄貴が出来た自分は、逆にとても幸運なんじゃないかって!
いつか、ライバルになれるぐらい自分もぐんぐん成長して、嫁に愛想尽かされないよう、死ぬ気で頑張ります!!
自分語りしてすいませんっした!! では!!」
帆見主任は爽やかな笑顔で去っていく。
私主観で完璧な夫に見えた帆見主任の口から意外な言葉を聞き、色々な想いが脳裏を巡った。
(……思兼さんの話をされたら、なんだか……)
仕事で疲れているからだろうか。
ここ最近、そういえばまともに会ってない気がする。
というより、そんな事をいちいち今まで気にした事もなかったのに、何故今更。
何かと近くでフォローされる事が当たり前になっていた為に、今になって一抹の寂しさを覚えた。
思兼さんは特に委員長の役目が重くのしかかっているはずだから、私の忙しさの比ではないはずだ。
構ってもらいたいなんて、おこがましい。
でも、今は無性に、あの柔らかい笑顔を見たい。
――――不思議だ。
(夕ご飯、誘ってみようかな)
私は初めて、『思兼さんに会いたい』という気持ちから行動を起こしていた。
八木羽屋さん特製栄養ドリンクを一気に飲み干し、私はデスク上で屍同然に潰れていた。
毎日の業務が忙しいのはもちろんなのだが、委員会業務が明確になった事もあり私のスケジュールは常に満員御礼状態と化していた。それだけではなく、今週末には大都野さんとの約束の日も迫っている。
それでもって、種狛部長補佐の一件で衣吹戸課長から定期的に連絡が入るようになり、すでにキャパオーバーである。
――――体が一つでは、足りない。
仕事もプライベートも只今絶賛ハードモードだった。
(とりあえず何か、別の飲み物でも買いに行こう)
集中力が切れかかった頃、ちょうど休憩時間を迎えた。ヨロヨロとおぼつかない足取りで仕事場を出ようとした際、寸前で他の社員とぶつかりそうになったのを慌てて踏み止まる。
「うわっ!?」
「あっ!! 驚かせちゃってすいません!!
――――伊縄城さん、ですよね?」
突然目の前が暗くなり、謎の壁がそびえたつ。
視線を上方に向けると、ワックスを効かせた薄灰の短髪が男らしい、爽やかなイケメンが申し訳なさそうに立っている。先程の壁は胸筋だったらしい。
「はい、私ですが――な、何か御用でしょうか?」
不安そうな私を一蹴するように、イケメンが豪快に挨拶をする。
「嫁がいつもお世話になってます!!
頼まれてた物、お届けにきました!!」
――――非常に、声がデカい。
渡り廊下の端から端まで離れている時に呼ぶレベルの声量に匹敵する。
だが、大きなわんこのような無邪気さを醸し出すイケメンに、怒る気にはなれなかった。
この会社はどれだけ多種多様なイケメンが揃っているのだろう。恐るべし!
「嫁……あっ!
神霊営業部の帆見主任、ですね!」
「はい! 覚えていてくれて嬉しいっす!!
今日、八百万祭の有志について案内見ました!
神霊営業部も一丸となって働きますので、よろしくお願いします!!」
「あ、ありがとうございます……!」
あまりの熱量に、終始押され気味になる。
神霊営業部の方々は確か、皆さんこんな感じだった。
とにかく、″一生懸命で何事にも全力投球″といったアツい男達で脇を固めている部署だ。
生半可な気持ちでは対応出来ない。
「あと、これが例の物っすね。結構重いんで、部屋まで運びます!」
見ると、帆見主任の両手にずっしりと詰まった紙袋が握りしめられていた。
「えっ、これ、もしかして全部その、……ゆきさんからですか……?」
「あっハイ、そっす!
すいません、あいつかなり張り切っちゃってて、自分もさすがに途中で止めたんすけど……やっぱ、こんないらないっすよね……?」
まるで叱られた後の子犬のように、しょんぼりしている帆見主任を見て、慌てて私は否定した。
「いえ!! というよりも、勿体なさ過ぎて。
見た所、かなりお高そうな物ばかりというか……でも有り難く全部頂きます!
ゆきさんにもよろしくお伝えください!」
「押忍! 結構凝り性なもんで、とことん集めちゃうとこあるんですけど、気にせずガンガン使ってやってください!
子供生まれたら、化粧とかしてる余裕ないって言ってました。伊縄城さんに貰ってもらえて嬉しいって喜んでたんで、引き受けて頂いてありがとうございます!!」
(おおお……なんて良き夫婦だ……)
旦那さんは真っ直ぐで優しいし、奥さんは綺麗で思いやりに満ち溢れている。
完璧すぎる夫婦像だ。
願わくば、いつか、自分も――――
相手すらいないのに、そんな高望みをする身分ではない事は百も承知だが、羨まずにはいられない。
「あ、そういや今日お義兄さ、じゃなかった!
思兼部長って来てますか?」
「思兼部長ですか? うーん……すみません。私まだ今日は会ってないので、ちょっと分からないです」
「そっすよね! 後で檜川くんに聞いてみます!
――話全然変わるんすけど、伊縄城さんって結構業務で思兼部長とやり取りってしますか?」
「そうですね、入社時から色々お世話になってます。忙しいのに仕事がとても早くて、でも凄く几帳面というか丁寧で……色々助けられっぱなしです」
「あ~~~~、分かります!!
なんていうか、非の打ち所がないっすよね。そっかー、やっぱり伊縄城さんから見てもそうっすよね!」
うんうんと帆見主任が力強く頷いている。
「突然こんな話しちゃって驚きますよね。実は自分、思兼部長みたいになりたくて、密かに目標にしてたんです。部長、前は営業部のエースだったんすよ。もう伝説っすけど凄い優秀で、誰も追いつけなかった。今でも憧れてる奴、結構いるんじゃないかなぁ」
「えっ! 営業部にいたんですか?
知らなかったです」
「嫁の兄貴が完全無欠過ぎて、たまに自信無くなるんですけれどね。だから、こう考える事にしたんです!
こんな理想的な兄貴が出来た自分は、逆にとても幸運なんじゃないかって!
いつか、ライバルになれるぐらい自分もぐんぐん成長して、嫁に愛想尽かされないよう、死ぬ気で頑張ります!!
自分語りしてすいませんっした!! では!!」
帆見主任は爽やかな笑顔で去っていく。
私主観で完璧な夫に見えた帆見主任の口から意外な言葉を聞き、色々な想いが脳裏を巡った。
(……思兼さんの話をされたら、なんだか……)
仕事で疲れているからだろうか。
ここ最近、そういえばまともに会ってない気がする。
というより、そんな事をいちいち今まで気にした事もなかったのに、何故今更。
何かと近くでフォローされる事が当たり前になっていた為に、今になって一抹の寂しさを覚えた。
思兼さんは特に委員長の役目が重くのしかかっているはずだから、私の忙しさの比ではないはずだ。
構ってもらいたいなんて、おこがましい。
でも、今は無性に、あの柔らかい笑顔を見たい。
――――不思議だ。
(夕ご飯、誘ってみようかな)
私は初めて、『思兼さんに会いたい』という気持ちから行動を起こしていた。
応援ありがとうございます!
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